アナズムでの一日の終わり

「はい、これがドラゴンのお肉のステーキだよぉ!」



 コックさんの制服のようなものを着ているあゆちゃんが、ニコニコしながらお皿に盛られたドラゴンのお肉やスープ、サラダ、パンなどのフルコースを運んできた。

 いまはあゆちゃんならぬアリムちゃんの状態なので、私より身長低いのがひょこひょこしながら料理を運んでくる姿は愛くるしくてたまらない。



「食べてみてね」

「う、うん」



 とはいえ、その料理は何というか、ひと目見てすぐにこの世のものではないことがわかる。

 おそらくあゆちゃんには、星付きのレストラン並の盛り付け技術があって、わざと普通のお肉との違いが分かるようにしてくれてるのでしょうけれど。



「あ、忘れてた。これがお肉の元の写真ね」

「おわぁ……」



 あゆちゃんがみせてくれた写真には、超精巧なCG技術で作り出したとしか思えないような、神話や創造物の通りのドラゴンが写っていた。もはや生きてるみたい……いや、生きてたからそう思えるんだろうけれど。



「じゃあ、いただきます……」



 普通のお肉と同じようにナイフとフォークで一口大に切り分け、口の中に入れる。

 私は思わず持っていた食器を落としそうになってしまった。それほどに美味しすぎる。

 美花ちゃんからアイテムマスターの道具作りの効果は半端じゃないと聞いていたけれど、まさかここまでだなんて。私の知る限りでは三つ星レストランと同等。それ以外の比較対象がない。


 ドラゴン肉自体も鶏肉なのか牛肉なのか、私が食べたことのあるどのお肉とも程遠いもの。美味しいけど不思議な感覚。

 改めて、私は全く別の世界に来てしまったんだなと実感させられる。


 完食したあとにあゆちゃんがキラキラした目でこちらにやってきた。



「どうだった、どうだった?」

「美味しかったけど、こういうのってなんだろう、雲を掴む気分というか……」

「なるほど、改めて地球とは全然違うことを理解して頭が混乱してる感じかな?」

「まぁ、そんな感じかも? アナズムに慣れたらもう一回食べたい」

「わかった、いいよ!」



 それから私は美花ちゃんとリルちゃんに連れられて、この屋内にある温泉へと向かった。



_____

___

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「よし、と」



 私は寝る前に、今日あった出来事と得た情報全てを日記に記した。情報過多でまとめるのにこの私でも2時間はかかってしまった。

 地球とは全く別の世界に来たという現実のようじゃない現実と、美花ちゃん達の恋愛のえぐい話……ふふふ、私じゃなかったらまとめきれてなかったわね。


 それにしてもまだ実感が湧かない。何百回ほっぺたつねったかわからない。夢でないことは確かだけど、夢であるとしか思えない。


 明日はあゆちゃん達がこの街を案内してくれるそう。そういえば今日一日はこの屋敷の中で過ごしてたっけ。もはやそれすら曖昧。



「あ、寝る前にあいつに連絡しとこ」



 そう思ってケータイを手に取って画面を開くも、もちろん表示は圏外。私もしたことがうっかりしてしまった。

 あゆちゃん達とお話しする中で、いつか山上のやつも連れてくるかどうか訊かれたけれど、私は正直乗り気じゃない。


 私なんかが美男美女に塗れて一緒にお風呂入ったりなんかしちゃったりするのを独り占めしたいのもあるけど、それ以前に、アレが美花ちゃんやリルちゃん、桜ちゃんに、女体化したあゆちゃんを見て目移りしてしまわないか心配だもの。

 私のことを見てくれなくなるかもしれない。

 

 その上、もしこの世界の基準の顔面がリルちゃんレベルだったら……私は確実に見劣りする。この世界の別の子に浮気なんかされたらたまったもんじゃない。


 作られた時間軸だかなんだかわかんないけど、リルちゃんを初めて見た時の衝撃は未だも覚えている。

 「北欧の外国人の美少女」というより、「アニメや漫画からそのままでできた人間」というのがよく当てはまっていた。私だけじゃなくて、みんなそう思ったみたいだった。


 でもドラゴンとかが実在するんだから、それもまあ、あながち間違っていなかったと思う。というかこっちの世界に合わせたっていう『アリム』ちゃんと『ミカ』ちゃんもだいぶリルちゃんに近い感じになってたし。


 ……これから私、どうなるんだろう。

 楽しみだけど、不安。だって、だって、念じれば火でも水でも無から生み出せるって……。あゆちゃんみたいに万物創造なんてこともできるようになるのかな。


 いや、考えていても仕方がない。寝よう、とりあえず寝よう。

 

 私はどう見てもふかふかで一瞬で奥深くまで安らぎの睡眠が取れそうなベッドの中に入り込んだ。

 実際に、意識が入り始めたその一瞬で遠のいていくのがわかる。

 私、枕変えても割と早く寝れるタイプだけど、ここまでじゃない……。


 早くこの環境に慣れて、純粋に友達たちと過ごせるようになりたいな。




####


これで一旦佐奈田編は終わりにし、次回からは書きたいものを書いていこうと思います。

誰の話かわかりやすいよう、「おはなし(アリム・ミカ)」みたいなタイトルにして。

IFや別の世界線のお話なども書きたいですね。


また、私そろそろ新作を書きたいので更新頻度を落とすかもしれません。

そう言って三ヶ月ずっと金〜土に毎週投稿し続けているので、おそらく来週からもそうなるとは思いますが、心意気はサボりを多くするつもりでいます。


なんにせよとりあえず、今後もよろしくお願いしますします。

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