第零話 はじめから

「ああああああああああああああああああ! くそが!」



 俺は怒りに任せてパソコン机の脚を蹴り飛ばした。まただ、またダメだった。どうしてできない? どうすれば俺は、いや、俺達今を生きるゲーマーはこいつに勝つことができるというんだ。

 百年以上前に社会現象にまでなった伝説的ゲーム『ドラグナーストーリー』『スタートクエスト』シリーズをはじめとした数多くのRPG。今、それらのタイムアタックやファインプレー、超人的プレーを現代の機器でチートをせずに行うというのが世界中で流行っている。


 きっかけは知らない……。どっかの有名な外国人プロゲーマーがレトロゲーやっててハマったからって諸説があるが。

 その流行をうけて、それぞれのソフトの発売元の会社、あるいは関係のあった会社が公式で発売当初のユーザーの公式記録も出してくれてんだ。どうやら先人達も俺達と似たようなことをしていたらしい。


 ……そしてその過去の記録の中に化物がいた。流石に全部のRPGソフトに着手していたってわけじゃねぇけど、とんでもねー奴が。ユーザー名は『アリム』。主にドラグナーストーリーの1~4、スタートクエストの1~4で誰も破れないような記録を叩き出していやがる。


 世界中のゲーマーがそのアリムの記録を抜こうと挑戦をした。俺ももちろん挑戦をした。だが、誰もその壁を越えることができていない。アリムの存在が明らかになってから既に三年……。

 あり得ないような発想力、考えられないほど費やされた時間。解析しようとするたびに度肝を抜かされる。

 百年前の人間だぞ!? なぜ俺たちは超えられないんだ! たかがゲームなのに!


 こうなったら食うのも寝るのも惜しんでゲームをやり尽くしてやる。徹底的に、徹底的にだ! 全てを捨てる覚悟じゃないとこのアリムは超えられない。一本でも、ソフト一本だけでも、絶対に超えてやる、なんとしてもだ! 

 既に学校だって行かなくなったし、勉強するのもやめてしまった。家族と顔合わせだってしていない。いまさらもっと捨てるものを増やしたって変わりはしないだろう。


 さぁ……もう一度、最初から。最初からだ。

 あは、あはは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!



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「なんだ、ここは……」

「ここはアナズムと地球の門の狭間だ」

「はぁ? ……って、かいぶつ?」



 気がつくと真っ白な空間に、俺は謎の生物と共にいた。俺の部屋じゃない。なんなんだここは。なんなんだこいつは。不気味すぎる。白くひび割れた皮膚に、虹色の羽、顔が三つに腕が三組ずつある異形の化物。食事も抜くようになってからもう一ヶ月は経ってるからな、幻覚でも見始めるようになってしまったか。

 


「はぁ……夢か。寝落ちかよクソが。さっさと起きて続きだ続き」

「残念ながら、夢ではない」

「は?」

「少年、お前は死んだんだ」



 淡々と語るきもい怪物、ちょっとびびる。だが俺が死んだ? 何を言っているんだか。……いや、死ぬだろうって生活はしてたが。てか死んだらマジで次ができねーじゃねぇかよ。前回の記録もアリムを越せなくてダメだったから、また今回新しく始めようとしていた真っ最中だったんだぞ!?



「死んだかなんだか知らないけど、これが夢じゃないって証拠でもあんの?」

「証拠を望むか? いいだろう」


 

 怪物は一瞬で俺の後ろに移動してきて、六本の腕のうちの一本で俺の脇を掴むと、軽々しく持ち上げた。たしかに、触られている感覚があるし、宙に浮いてる感覚もある。

 さらに怪物はたくさんある羽で俺のことを包み込んだ。羽毛布団のような柔らかさ。俺のベッドはいまゴミで埋もれてるから、寝転んでいたとしても柔らかさなんて感じないはず。……つまり。



「これまじかよ」

「ああ、現実だ」

「俺マジで死んだの?」

「死んだんだ、少年よ。不健康がたたってな、自分がじわじわと死んでいっているのに気がつかなかったようだな?」

「畜生、畜生! まだゲームの途中なんだよ! まだ達成できてないんだよ! やっと、やっと新しいレベル上げの方法思いついたかもしれないってのに……!」



 ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな! クソが!

 じゃあここはあの世ってことなのか? いや、まて、はじめにこの怪物はナナザムだかなんだか、聞いたことない単語を言っていたような気がする。



「……はぁ……はぁ……じゃあなんなんだここは」

「地球とアナズムの境目だ」

「アナズムってなんだよ」

「神である我、アナザレベルが治める世界だ」

「……は?」

「お前の魂は我が救い出してやった。そしてここに連れてきた」

「な、なんのために」

「観るためだ……ああ、これからお前にはアナズムで暮らしてもらう。説明をよく聞いておけ」



 アナザレベルと名乗る神様……でいいのか? とにかくアナザレベルは俺にアナズムっていう別世界について事細かに説明してきた。

 ……ああ、なんて素晴らしい世界だろう。ゲームだ、ゲームそのものだ! はははははは! スキルとやらも見せてもらった。ステータスとやらも与えてもらった! 現実でこんなことができるんだ!

 楽しい、これは楽しい! ゲームみたいだから、いや、ゲームなんかよりも何倍も!



「以上だ。質問は?」

「いやぁ……ねぇっすよ。素晴らしい……! ああああ、楽しみだなぁ。ワクワクする。こんな気持ちはいつぶりだろう」

「それは良かった。我もお前に期待している。……我が作ったこのアナズムにはな、お前のようなタイプの人間がいないのだ。だから観察してみてみたい。どこまでやれるのかを。我の久々の娯楽だ」

「ルール聞いてる限りじゃ、俺も神様みたいな力を手に入れられるんだよな」

「ああ、努力次第でな」

「いいさ、娯楽だろうがなんだろうが。俺はこの世界を楽しむ。さっそくこの境目ってやつから出してくれよ」

「ああ」



 アナザレベルは右手を一本だけ上へあげようとしたが、途中で止めた。



「どうした?」

「いや、お前の名前を聞くのを忘れていた。今より名乗った名前が、お前の今後の呼び名となる。ステータスにも表示される。元の名前を名乗ってもいいし、別の名前にしてもいい。とにかく、名前を決めてくれないか」

「ああ」



 なまえ、名前かぁ。てか名前入力なんてほんと、ゲームじゃんこれ。もうゲームじゃんってこれ! あはははははは! 



「そうだなじゃあ、俺の名前は_____」














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これにて本当に本編完結です。次回からは外伝やIFストーリーとなります。

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