第1082話 真夜中の事件 (翔)

【おい、起きろ!】

「……あ?」



 起きろというメッセージが頭の中に放り込まれた。俺は何が何だかよくわからねーけど、目が覚めちまう。つーか、今のメッセージが誰のものかもわからねー。とりあえずリルではねーな。リルは今、俺の上に覆いかぶさって鎖骨を甘噛みしながら寝息を立てているもんな。

 とりあえずリルを優しくどかして起き上がり、メッセージの送り主に変身することにした。



【……誰だ?】

【我だ、シヴァだ】

【……ん……お、おお! なんだ。俺にメッセージを送りつけてくるなんて珍しい】



 だが待てよ、そもそもシヴァは有夢にメッセージの送受信できないようにさせられてるんじゃなかったか? いや、それは他の魔神二柱だけでシヴァは対象外だったか。とにかくシヴァが有夢じゃなくて俺に連絡してくるなんてな、有夢に相談できないことでもやっちまったのか? 今の入れ物は犬のロボットじゃねーから身動きなんてできなかったはずだが。



【有夢を盗撮しろとかっていう注文は無理だぞ】

【魅力的だが我々には不要だ。本来ならいつでも観れるからな】

【そういや覗き魔な能力持ってるんだったな。じゃあ用件はなんだ? なぜ有夢じゃなくて俺に?】

【……あゆちゃんに連絡するのは不可能となった】

【……は?】



 俺は耳を疑った。まだ寝ぼけてるのかと思った。だが、シヴァは今話した内容の続きを、話し続けた。



【あゆちゃんが二代目に手にかけられた。ミカちゃんもだ。……親御さん達か叶くんか翔、君かで連絡する相手を迷ったんだが、あゆちゃんが地球で亡くなった時に一番取り乱さなかった翔に連絡することにした】

【……俺は……どうすりゃいい? 二代目アナザレベルを殺すか?】

【将来警察になると言っている者がそんなことを言うな。それに、翔じゃアナザレベルには一矢報いることができても勝つことはできないだろう】

【じゃあなんなんだよ】

【とりあえず、この屋敷にいる者全員を、我がいる部屋に集めてくれないか】

【わかった】



 有夢と美花がアナザレベルにやられた……とんでもねー話だ。今だに本当だとは信じがたい。それに、シヴァ自身も話の内容の割には落ち着きすぎていたような気がする。

 とりあえずリルから起こすとしよう。叶くんや桜ちゃん、おじさんとおばさん達に連絡する前に、それらと比べたらまだ冷静でいられるであろう人物を増やすべきだ。俺だって、今まで有夢の誘拐だとか、美花のストーカーだとか……とにかく何千もの事件を解決してきたからこそなんとか精神を保っていられるが、いつ限界がくるかわからねー。



「わーふ……わふ……わふぇ……。 おはようショー……あれ? まだ暗いよ?」

「リル、まずまともに服を着て顔を洗ってこい。話はそれからだ」

「……何かあったんだね?」

「ああ」



 俺とリルは身支度をして、それからシヴァからきた連絡のことをはなした。リルは目を見開いて驚いている。まるでわけがわからないと言った様子だ。



「い、いきなり、アナザレベル様が来たのかい?」

「ああ、シヴァが言うにはな」

「それで、みんなを集めろって?」

「そういうことだ」

「……二人は本当にいないの?」

「俺もまだ確認していない……が、メッセージを送ろうとしても送れねーんだ」



 俺は着替えている最中に何度も有夢と美花にメッセージを送った。だが送ることすらできなかった。何度やってもダメだったんだ。俺の話を聞いてリルも何度も何度も試した。だがやはりダメだったようで、リルは目に涙を浮かべた。



「わふぇ、わふぇ……ど、どうしよう……どうしよう……」

「リル、難しいことだとはわかってるが、一旦落ち着いてくれ。俺がお前をまず起こしたのは、別に一番近くに居たからじゃねー。叶くんや親達と比べてまだ、取り乱さずにいられそうだったからだ。頼む、俺も混乱してるんだ。……協力してくれ」



 リルは涙を拭き取り、黙って頷いた。……しかし、こうして一人一人説明しながら起こしていてもダメだろうな。時間がかかりすぎる。緊急事態は一分一秒が大事なんだ。ここからリルと手分けして、わけを離さずに全員をシヴァ達魔神の部屋に集めよう。

 この屋敷にいるのは頭のいい人ばかりだ。つーか、頭がいい人しかいねー。みんな緊急事態だと察して大人しく部屋に集まってくれた。全員集まりきったその最後に、俺とリルは部屋に入る。



「……翔、一体何があった?」

「それは……魔神が話してくれるぜ、親父」

「翔さん、兄ちゃん達がいないんだ」

「……ああ」

「……そっか、なるほどね」

【話し始めて構わないか?】

「大丈夫だと思うぜ」



 シヴァはみんなに有夢と美花の身に何があったかをはなした。

 ……二代目アナザレベルがついに自分から動いた。そして油断している隙に殺した……というわけではなく、どうやら神として新しく作った別世界に送ったらしい。シヴァ達の監視能力は録画機能もあるのか、つい数十分前に有夢達の身に起こった事件を俺たちに見せてくれた。

 なんとなくそんな気はしてなくもなかったが、まさか二代目アナザレベルが日本人だったとは驚いたものだ。……シヴァ曰く、神であるのに別世界送りにされた有夢達に何かをしてやれるわけではないらしい。

 そんな絶望的な状況に陥っていた時、俺たちの頭の中に新しくメッセージが送られてきた。……ああ、誰かのものかはすぐにわかったぜ。二代目アナザレベルだ、あいつだ。

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