第1080話 きみはだれ?
「……!?」
間違いなく日本人だ。俺やミカみたいに、アナズムに適応した顔ですらない。黒髪黒目のその顔は、賢者としてやってきたショーやカナタ、幻転丸や光夫さんのそれ、そのまんま。
「えっと……えっと?」
「生で観るとエルフ族でもないのにほんと、この世のものとは思えないくらい可愛いですね」
「あ、ありがとうございます?」
「弟君と妹さんは元気かの?」
「え、ええ、まあ……?」
あれ、カナタとサクラちゃんの知り合いだろうか。いや、こんな思い切り日本人顔の人がいたらあの二人が俺に報告しないわけないしな。しかし不気味だなぁ。さっきから口調がコロコロ変わってるよこの人。顔自体は悪い顔してるわけじゃないんだけどね、なんとも言えない不気味さがある。俺たちとそう変わらない年齢なのに、ものすごく年季が入ってるというか。
「貴方と私が話すのもとても久しぶりです」
「久しぶり? どこかでお会いしました?」
「あ、直接は会ったことないかのぉ」
「直接は……?」
「ね、有夢くん」
「ふぇ? ボク?」
「そう、有夢くん、君だよ、君」
全身に寒気が走った。俺の元の姿を知っている。や、でも本当に俺、こんな人と会ったことない。俺は記憶力はいい方だけど、こんな人知らない。となると、アナズムまで追っかけてきたストーカーかな。さっきから俺に関する情報を小出しにしたりするのが危ないストーカーのそれなんだよね。
「な、なんなんですか貴方。け、警察呼びますよ……?」
「アナズムに警察はいないでしょ」
「……本当になんなんですか?」
「まだ分からない? 有夢くん、頭いいんだしもう気がついてるはずでしょ?」
男の人は両手を広げ、少しニヤッとした。……わかってる、正直、わかってるんだ。ここ最近話題になってる人物の中でこんなことを俺に直接しそうで、俺と面識はないけど話したことがある人物なんて一人しかいない。
「あ、そういえば……幻転丸と、メフィストファレスと、魔神様方も元気かのぉ」
「……なんなの」
「すっかり警戒されちゃいましたね……」
「そりゃそうだよ、何がしたいの?」
「……たくさん、色々。一言じゃ説明がつかない」
「き、君、二代目のアナザレベルだよね……?」
「もう私の名前を口に出せるくらい落ち着いたのですね」
……どうやら、そのようだ。俺をここ最近ずっと困らせて遊んでる二代目アナザレベルの本人。イジメのそれに近い。認めたくなかったけど、目の前にいる人物が認めてしまった。というか日本人だったんだね。
「……はぁ……はぁ……」
「ほほう、この世界で強さも地位も欲しいがままにした貴方がここまで動揺するとは、意外ですな」
「そりゃ、ボクだって人だもの。……それに失いたくないものたくさんあるから。どうするの、戦う気なの?」
「戦ってもいいのじゃが、それだと勝負がつかんのじゃ」
「……とりあえず、なんでボクにたくさん嫌がらせするの? なんでなの? やめてよ」
「そんなつぶらな瞳向けられるとやめたくなりますけどね、そういうわけにもいかないんですよ」
どうやらアナザレベルにはアナザレベルなりの目的があって俺をいじめているらしい。あざとい目を向けても揺らがなかった。
さっきから話しててまともに会話できそうじゃないことくらいわかってるんだけど、逃げるわけにもいかない。今から全員叩き起こすのも時間がかかるしね。
「そういえば今日、貴方、こんな考察してましたよね。あ、時間的に昨日ですか」
「考察……?」
「ほら、私が貴方と美花さんを地球で殺したんじゃないかっていうアレですよ。……正解です」
勝手に俺の記憶を読んでるのか、それとも俺をシヴァのようにずっと見ているのか。たぶん後者の方だろう。さっき実物で観たらすごく可愛い的なこと言ってたし。
とにかくあの考えがあってたわけだ。俺はこの人に殺されたんだ。……つまり、このアナズムと地球での合わせて一年半くらい、アナザレベルの手で転がされていただけということなのかな。
「なんで殺したの?」
「それも、必要事項だったからだよ」
「美花まで……」
「美花ちゃんが来て良かったでしょ?」
「……」
「毎日毎日、イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ、イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてるじゃろうに。どう考えても不純異性交遊じゃよ。だが……な、良かったじゃろ? この世界じゃ地球ほどそういうのに厳しくないしな。はは、知らんとでも思ったのか? まあ、それが原因でワシがお主らに嫌がらせするわけではないがの。そう予想してる時期もあったじゃろ?」
そ、そんなことまで見られてたんだね。シヴァ達も普通に見てたし、そんな予感はしてたけど。
……いい加減さっきから俺の反応を楽しような言葉を並べるばっかりで、全然目的を言おうとしない。俺と戦ったりするわけじゃないなら何しに来たんだろう。新手の嫌がらせじゃあるまいし。
「……もういいよ。目的を話してよ。そしたら済むんでしょ、色々」
「ああ、済むよ。僕はね、君に消えて欲しいんだ」
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