閑話 ゲーマーの集い

「んー、こんなものでいいかな? 似合ってる?」

「いつにも増して可愛いと思う」

「そっか!」



 有夢がニコニコしながら服を選んでいる……! ただ、今日は私とのデートの日じゃない。そう……私以外にこの可愛い姿を見せるの。

 人気動画投稿者のイベントだかなんだか知らないけど、いままでそういうの参加してこなかったくせに、アナズムで人前に出てアイドルみたいなことするのに慣れてしまったが故に出てみようとかいう発想に行き着いてしまった。有夢が人前に出たらどうなるかなんてわかりきっているのに。

 私は日頃から地球の『アリム(有夢の動画投稿アカウント)』に関する情報を集めている。「声が可愛い女の子なのに日本の中で一番といっていいほどRPGで廃人行為を繰り返すやばい奴」として話題を呼び、今じゃアカウントお気に入り件数が七桁まであと半分まできてしまった。このままの勢いだと来年の春頃には七桁到達してしまっているそう。

 また、ファンの人たちから、男なのか女なのかよくわからない存在ともされている。声は女の子だけど、話題は男の子っぽいから。ボイスチェンジャーの可能性も捨てきれないとして度々議論になっている。ちなみに年齢バレはしてるみたい。



「……でも、そんな格好したら女の子だって思われるんじゃない?」

「そう思われたら女装が趣味ですっていうから良いんだよ」

「えぇ……」


 

 ゲームが好きなだけできてお金が稼げるかもしれないからという単純な考えで始めた動画投稿。今もその意識は変わらない。故に他人からどう思われるかについてあまり考えていないの。危ないったらありゃしない。できればついて行きたいけど……。



「ねぇ有夢、私も行ってみたいんだけど。たしか同伴者一人までならオッケーなんでしょ?」

「えーダメだよ、男の人とかいっぱいいるよ? 秒でナンパされるね」

「……それを言うなら有夢も同じじゃない?」

「俺は良いんだよ、戸籍上は男だし」

「せめて翔に声をかけたらよかったのに」

「ちょうど今日はリルちゃんとデートなんだって」

「それじゃあ仕方ない。でも、やっぱり私ついていくわ」

「えー!」

「しっかり守ってよね!」

「仕方ないなー」



 まあ、私たちはもう普通の人じゃないし、何かあっても大丈夫でしょう。むしろ有夢をレズだと思わせて男の人を近寄り難くすれば今後、私が動きやすそうだし。良いことづくめね。というわけで私も準備を整えた。



「それじゃあ行こう」



 私と有夢は手を繋いだまま、その会場へ向かう。いつも通学に使っている電車に乗り、学園前の駅を通り過ぎて四駅目の駅で降りる。そこから地下鉄に乗り換えて一駅動き、バスに乗る。

 結構早く出たつもりだったのだけど、予定時間のギリギリに到着した。バスが渋滞に引っかかったのだから、仕方ないわよね。おかげで会場入りしてから有夢は誰にも挨拶することができなかったわ。……めちゃくちゃ注目されてるけど。会場はなかなか広そうなことろだった。そして参加者はもちろん、どこか癖のある人たちばかり。



「今回はですね、お集まりいただき誠にありがとうございぇます! うぇい! 年に一度のね、イベントなんでぇ、楽しんでいってください! えー、今回企画のゲェム部プロジェクトのティーくんでした! 今回招待された人はね、今からせっかくなんで、一人ずつ前に出て自己紹介でもと思うんすけど、いいすかね? てか生放送してるしそうしないと視聴者さんがね、困りますんで、やりまーす。じゃあ、ジー太郎先生、頼みます」

「ご紹介に預かりました、Gahaha教室チャンネルのジー太郎です……」



 みんなテンション高いわね。たしかこの企画をした人のお気に入り件数は二百五十万、その次に紹介されたおじさんは百七十万だったはず。動画自体は見たことないけど、一応参加者のことは調べてあるの。

 一分ほどでジー太郎っていうおじさんの自己紹介が終わり、即座に指名されたのは有夢だった。ちなみに参加者は参加者用のネームカードを首から下げてるからすぐわかる。

 多分可愛いから指名されたと思うのだけど、有夢はふつうに私に行ってくると言って台の上へ登っていった。



「どうも初めましてです! アリムといいます!」

「はい、初めまして! えっと……あっ! あなたがあのアリムさんですか!」

「あの性別不明系廃人実況者の。えー、全然気がつかなかった……」

「皆さん、いいですか、ここで議論に終止符が打たれましたよ。アリムさんはですね、女の子です! ……あ、情報によれば9割くらいね人がそう思っていたそうですね」

「それにしても可愛いですね、何かアイドルとかモデルとかやってたりしましたっけ?」

「いえ、全然」

「まって、一気に視聴者増えましたよ。伸びがやばいですよ」

「そりゃ、今まで正体不明だった方がこんな、こんな可愛らしい子だったなんてねぇ!」



 なんと、有夢の話題は七分も続いた。それ以降の人はだいたい一分ずつだったのに、有夢だけそんなに行った。可愛いはすごいってことね。……変装して顔隠せばいいのに、マスクすらしないんだもの有夢。私もしてないけど。

 それからフリートークタイム、まあ交流会が始まったのだけれど、有夢の人気は凄まじいものだった。有名実況者がいるっていうのに、その人たちと同じかそれ以上に人が集まってくるの。

 有夢は多大な人脈を獲得した。ナンパも何十回もされたけど、私と一緒にくっついて自分の性別・性癖共に偽ってやり過ごした。



 家に帰ってから有夢のアカウントを確認すると、お気に入り件数は一気に七桁に。そしてファンが作る紹介欄的なものに、女の子であるという情報と、レズビアンであるという情報が追加されていた。……その日を境に、有夢が地球でも伝説となることを、私たちは思いもしなかった……!





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Levelmakerの本編が終わったらこういう話、たくさん書きたいですね。もしかしたらこの話のみ、本編終了後に場所(投稿時期)を移動させて再投稿するかもしれません。

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