第1075話 侍の情報 2
それから幻転丸はやがてスルトルと対峙することになった。といってもアナズムに来た当時は小学生くらいの年齢だったけど、その頃にはもう俺たちと同い年くらいになっていたという。お城でずっと育てられてきていたらしい。幼いながらにして育てられている間、何年も、一日も欠かさず、ダンジョンから出た伝説級の武器にはほとんど目もくれず、オーダーメイドで作ってもらった刀を毎日振り、スキルを強くしていくだけでなく自身の技術も研磨していったらしい。ショーの柔道に対する熱意に近いものがある。ちなみに、これだけ幻転丸が刀を中心に使っていったのにエグドラシル神樹国にその技術が伝わってないのは、単純に普通の剣より扱いが難しかったためだという。
本来なら賢者へ取り付くはずだったスルトルが、幻転丸と戦う時に身体を乗っ取った相手はエグドラシル神樹国の王子様。当時王子様は双子の兄弟で、互いにどちらが当時の王様の亡き後に王の座につくかをずーっと争っていたという。その二人がある日喧嘩して弟の方の怒りが頂点に達した隙に、スルトルがショーの中に入り込んだように。
高校生くらいになっていた幻転丸の当時の転生回数は12回。ここまで気まぐれに魔物を斬ることとダンジョンのクリアだけで達成していた。早いのが遅いのかよくわかんない。魔神達は口々にすごいことだと言ったけど、即座に俺の方がすごいっていい直したから、俺が変なだけなのかもしれないけど。
スルトルと幻転丸の戦いの勝者は、もちろん幻転丸。でも、幻転丸って刀を使ったはずなのに、スルトルが封印されていたのはグングニルっていう伝説級の封印武器だったはず。気になったので一時的に武器を切り替えたのか訊いてみると、とどめの瞬間だけそれで突き刺したらしい。まあ、普通に考えてそうだよね。当時の幻転丸と現代のスルトルと対峙した頃の俺たち、どっちが強いかスルトル本人に質問してみたところ、取り付いた先の強さ抜きでも幻転丸だったという答えが返ってきた。強さを求めるスルトルがいうんだからそうなんだろう。ちょっと悔しい。
それから幻転丸はアナズムで過ごし続けてきた。五年後にはその当時のアナズム最強の人間であるとすべての国から認識されていたらしい。今で言う俺かギルマーズさんみたいな立場だったってことだね! じゃあ、俺みたいにアイドルのような活動していたのかと尋ねたところ、流石にそれはしなかったという。そういう見た目じゃないんだって。なによりこの世界ではチョンマゲがあんまり評判良くなかったそうで。武士の子である幻転丸はずっと結い続けてたらしいけど。もちろん今も結ってるよ。
そして、幻転丸はアナズム最強だと世間に認識されてからさらに二年後に、ブフーラ王国の当時の国王から直々に導者になってくれないかとお願いされた。もちろん、シヴァを退治するためだね。当時はほかにぴったりの人がブフーラ王国内にいなかったのに、シヴァったら封印から出ちゃいそうだったから苦肉の策で幻転丸に任命されたらしい。まあ、むしろ俺たちは『導者』のみの人を知らないんだけどね?
そういえば、シヴァは最初から俺の味方というか、ストーカーというか、危害を加えようとしてきたことは一度たりともなかったから能力を知らない。例えばサマイエイルはメフィラド王国の血筋の女性に取り付くことができ、能力は強制的に生き物を死に至らしめたり、悪魔を生み出して使役することができるというもの。スルトルは怒りを頂点まで達させたエグドラシル神樹国の王家の人か賢者に取り付くことができ、能力は新しい空間を作ったり、取り付いた先の人の能力を高めるというもの。……そうだよ、俺はシヴァが誰に取り付くかも知らないんだ。
「はいはい! シヴァの能力とか、取り付く相手の条件とか、ボク達しらないの! どんな感じだったの?」
【なに、此奴はお主らに教えていないのでござるか?】
【まて、幻転丸。我はこの子に嫌われたくないんだ。我の能力について教えてくれるなよ!】
【もうすでに封印先の格を下げられたでござろう? これ以上嫌われたって一緒でござるよ?】
【そ、そうなのか……?】
そこは普通に肯定してあげたいところどけど、俺って一度とことん嫌いになったら嫌いなままだからなぁ。これ以上嫌ったらシヴァになんかしちゃうかも。シヴァの能力は知りたいけど、忠告してあげといた方がいいよね。
「一緒じゃないよ、一週間とか、内容によってはもっと口聞いてあげなくなるかも……!」
【い……いやだ! 我はあゆちゃんが居ないと……! うおおおおおお!】
【この叫びを本人の親の前でするってのも相当スゲェよな、コイツ】
【ああ、変わったのは正確だけじゃない。神としての誇りも捨てている】
【だって……可愛いからっ……!】
【……自分が倒した神がこんな風になってるなんて、むしろなんか申し訳なくなってくるでござるよ……】
だいぶは話の腰を折ってるけども……。そこまで知られたくない能力。やっぱりちょっと知りたくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます