閑話 リル暴走

「ショー、最近私、思うことあるんだ」

「ん? なんだ、悩みか」

「いや、悩みっていうほどでもないんだけどね、なんかこう……暴走してみたいなーっていうか」



 いきなり何か考え事をしている風な感じを出しているかと思えば、暴走してみたいってなんだ。そんな衝動普通起こるものなのか? そもそもリルはすでに暴走する時期っつーのがあるってのに。



「発情期あるだろ、あれ暴走じゃないのか?」

「こう、ミカちゃんがあゆちゃんにしてることって側から見たら変態的じゃないか」

「お、おう」

「ああいうことをショーにしてみたいんだよ。発情期とはまた違うね?」

「どこが」

「だいたい今期の発情期は先々月終わったし」



 こいつすでに隠れて俺のパンツ引っ張り出してなんか色々やってんのにそれじゃあ飽き足らないというのか。ま、まあ、俺自身付き合ってるとはいえ知り合ってまだ数年も経ってないんだ。こいつの知らないところだってたくさんある。こいつが変態だったとしても受け入れてやろうじゃないか。



「まぁ、俺相手なら犯罪じゃなきゃいいんじゃねーの?」

「そう? 私暴走してもいいかい?」

「そんな発言する奴なんて普通いねーぞ」

「わふ、いいもん。私普通じゃないもん」

「まあ、好きにしろよ……」

「わふぅ、じゃあそうさせてもらおうかな!」



 そう言ってリルは別室へ消えていった。何かの準備をしてくるんだろう。何をするつもりなんだあいつは。つーか、欲求不満なのか? ちゃんと毎日相手してやってるんだけどな……いろんな意味で。まだ足りないというのだろうか。

 しばらくして戻ってきた。なぜかぶっかぶかの道着を着ている。



「わふー、幸せ」

「なんでそんなブカブカの道着きてるんだ? サイズ合ってるの持ってるはずだろ?」

「これショーの道着だよ」

「ま、まじか」

「ショーに包まれてるよ……幸せだよ……」



 こいつ、下着もつけずに俺の道着着てやがる。……なるほど、確かにミカも有夢に対して似たようなことするだろう。完全に感化されてやがるな。それにしても幸せそうだな……。道着なんかより俺本人に包まれた方がいいんじゃねーか?



「リル、道着きるより俺本人と密着した方がそういう意味ではいいんじゃねーのか?」

「わふー、わかってないよ! それはそれ、これはこれなんだよ。なんかちょっと背徳感がするんだ、こっちの方が。その背徳感がいいんだよ」

「……てか、なんで裸で着るんだ。次、俺が着づらいだろ」

「わふぅ、私のこと考えながらショーがこれを着るの……とても良いね……!」

「お、おう」



 何言ってもダメだな、この様子じゃ。好きにしろって言ったのは俺だし仕方ねーけどよ。てか、腕になんかまだ俺の私物抱えてるな。またなんかやる気か。



「その黒いのはなんだ」

「これはショーの制服だよ」

「着るのか」

「わふぅ。着たいよ、ダメ?」

「そんな可愛く言われてもな……。ダメではないけど」

「やった!」



 そう言うとリルは俺の目の前で道着を脱ぎ、俺の制服に着替えた。やっぱりサイズが違い過ぎてブカブカだ。まあ、二人揃って鍛えてるとはいえ、目指してるものが違うし仕方ないが。むしろこのリルが俺と同じくらい筋肉パンパンだったら俺はやだな……。



「ふふ……いいね。でも裸でこれ着るのはちょっとチクチクするね」

「なぁ、もしかしてリルが俺の布団に潜ってくるのも、今のと同じような目的か?」

「わふん、そうだね」

「そうか」

「本音を言うと私、ショーと密着してる時が一番生きてる心地するよ。でもショーにずーっとくっつくのも悪いからこうして匂いと染み込んだ布物で代用してるのさ」



 こいつの生きがいならこれくらいの変な行為、許してやってもいいか。てかさっき俺に直接来ればいいって言ってやったんだからそうすればいいのに。リルはたまに変なとこで遠慮するからな。口に出すのは今、なんとなく恥ずかしい気がしたのでリルの手を掴んでこっちに引き寄せ、抱きしめた。



「わふん!」

「代用よりこっちの方がよくないか? やっぱり別物扱いか?」

「わふぅ、そだね……。次はまた全部抜いで、ワイシャツ一枚だけ羽織るやつやろうと思ったんだけど、ショーがこうしてくれるならそれ以上のことはないよね。えへへ……」

「ああ、今日じゃなくてもたまにやるよなそれ……」



 ……しかしリルを満足させてしまったことでそれは見れなくなってしまったわけだ。なんだか惜しい気がする。でもまあ、いいか。今日はリルが暴走するのであって俺が暴走する日じゃないしな。

 密着しあったまましばらく経って、リルの方から離れてしまった。



「あ……」

「さて、私は満足したよ」

「そうか、あれで満足なのか」

「次はショーが欲望を解放させる番だよ! さぁ、私に望みを言うんだ!」

「じゃあちゃんと下着と服きてくれ」

「わーふー、そーいうのじゃないんだよぅ」

「……さっきの続きしようぜ」

「わふん!」



 結局リルは着替えに戻らずに俺に抱きついてきた。

 これ、普通にいちゃついていただけの話だが、よく考えたらリルがミカの影響を受けつつあるってことだよな? ……いつかリルがミカみたいに恋愛に関して頭のネジが外れちまうのか? 用心しておかなきゃダメか。今回のは暴走だとしても序の口レベルだと考えた方が良さそうだな……。




#####


この二人を書くのは何ヶ月ぶりでしょう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る