第1065話 勝敗
「明鏡……止水っ!!」
幻転丸はそう唱えた。その瞬間、俺が作り出した一万以上の巨大ファイヤーボールは、ファイヤーマーチレスと同様にすべて細切れにされてしまった。仮に炎を斬ることができたとして、その斬られた炎すべてが降り注ぐだけでも相当なダメージになると思うが……なぜかそれらは熱さを感じなかった。森に引火すらしないようだ。
「……はぁ、はぁ……とんでもないでござるな……」
「いや、俺も自分のスキルをここまで対応されたのは初めてだ。今までSSSランクの魔物ですらだいたいこれで倒せていたんだが」
「ふ、ふふふ、一緒にしちゃいかんでござるよ」
ただ、やはり相当な疲れが見える。もしかして俺はこの遠距離から炎魔法を連発してるだけで向こうが勝手に疲れて倒せてしまうんじゃねーだろーか。となるとあの武のぶつかり合いはなんだったのかって話になっちまうが……いや、時間稼ぎとしては上出来だったんじゃねーだろーか。
「明鏡止水……!」
「くるか」
思えばこの明鏡止水って技も、一瞬で炎を切り刻めるような技に見えるが実際疲れているところを見るとたぶん、超高速で動く技なんじゃねーかなと思う。おそらくは、有夢のゾーン状態と同じってわけだ。それのスキル版か。なら、ちょっと試してみるか。
「ゾーン!」
「なっ……お主、拙者の時間についてこれるだと!?」
「俺の親友が何かを生み出す才能があってね。素早さを応用してこんなことを可能にしたんだ」
「……ほほう、面白い」
どうやら予想は当たっていたようだ。おそらく俺の元に一瞬でやってきて腕だけ斬って去っていったのもこのスキルを使って移動してからだろう。
「しかし拙者はまだ余裕でござるよ。……行くでござる。剣舞五月雨!」
「うおおっ!」
幻転丸は剣を、このゾーンの状態でも目に見えないスピードで振り出した。俺はなんとか回避しようとするが……広範囲かつ高速、そしてとんでもない斬れ味の三重により安易ではなく、左手の人差し指から中指の二本がすっぱりと斬られてしまった。
俺はすぐさま炎の身体になるスキルで全身を炎そのものにし、指をくっつける。
「近づけないでござろう? いままで拙者は受け身ばかりだったでござる。つまり、お互い攻めた方が勝ちであったと言うわけでござるな」
「それをわかってて今まで対峙してきていたのか?」
「もちろん。お主の魔法とスキルの実力も見たかった。だが……まあ、柔術の技術ほど恐れるものではないでござるなよ。もっと大技を放ってきても良いでござる……まぁ、この状況で撃てればでござるが」
炎を身体にしたら物理攻撃は効かなくなるはずだ。だが、幻転丸の斬撃は魔法も切り裂く。この姿となったところで意味はない。しかも、これだけ斬撃の嵐を放っておきながら俺地震の被害がまだ指だけだ。やはり……わざとだろうか。お互いゾーン状態であるため(向こうはスキルだが)、これ以上素早さをあげて回避性能を高めることもできない。……俺のステータスはカンストしているはずなのだが、相手はそれについてくる。まあそこはスキルだしな。
ただ一瞬だけでも相手の実力を見誤ってしまった。少しだけ、スキル対決では俺が勝ったと思ってしまった。今度は俺が追い詰められている。……仕方がない。身体のどこかが斬られても構わない。大技を放つか。
「ぐあっ!?」
「お、当たったでござるなー」
俺の脇腹に斬撃が掠めた。やはり炎そのものになっていても痛みを感じるし血も流れるようだ。早急に俺からも攻撃しなくては。
「殺さぬとは言ったが、なにも手足を切らぬとは言っていないでござるからな! ……さて、次はどこがいいでござるか?」
「……ラスト・サン」
「……ん?」
幻転丸の手が止まった。俺はありったけの魔力を込めて最大火力の魔法を放った。真っ暗だった辺りは一気に明るくなる。下手すりゃ昼間より明るい。MPも限界まで使ったからな……いま、空には太陽が何十個もある状態だ。これが一気に落ちてきたりしたらアナズム全土が焦土となることだろう。
「過度な転生者とは、かくなるものか。一応拙者も転生してるのでござるが……これは……なるほど。神をも殺せるでござるな、これはきっと」
「……だろうな」
「……拙者が降参すればあれは止められるでござろうか。流石にあれを斬りに行くのは無理でござる。近づいた瞬間に溶かされるのが関の山でござろう」
幻転丸は持っていた刀を鞘にしまうと、自分の腰から外し、地面に置くと、刀から遠くに離れた。本当に降参のつもりなんだろう。……正直、勝った気が全くしないが。
「いいのか、俺の勝ちで」
「もちろんでござる。あれを撃たれたらひとたまりもない」
「……わかった」
俺は複数のラスト・サンを引っ込めた。このまま勝負を続けるならば一発だけ本当にこの場まで落下させるつもりだったんだが、そうなるとヘルの森が消滅するだろうからな、そうならなくてよかったぜ。
「はぁ……じゃあまずなにから話そうか。拙者がアナザレベルに従えてる理由から……あやつの正体からか……」
幻転丸は地面に座り込み、そう話し始める。まずはやはり、正体からがいいだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます