第1059話 ラストマンとポイズンマン
「神の力の一端。まずは脱獄してから最初に作ったスキルから味あわせてやる。ポイズン・デイ」
「なにを……?」
ヒュドルは自身の手を地面につけた。掌から地面に向けて紫色の液体が侵食していく。その侵食はやがてあたりの風景全てを毒に蝕まれた苦痛の色へと染め上げた。森も、山も、ヒュドルとラストマンの目に見える範囲全てが毒に侵されている。
「ちっ、つまんねぇな。この辺りは村もなにもないのか」
「……なにをしたんだ」
「ポイズン・デイに包まれたものはすべてオレ様が自由に操れる毒の塊となる。もちろん毒だから普通の生き物が触れりゃ即死だ。この一帯には何千体か魔物がいたみたいだが全部死んだ」
「まるで天変地異みたいだね……」
「そうさ、天変地異さ! 何せ神の力だからな。圧倒的物量に押しつぶされろ」
ヒュドルが指を鳴らすと、毒に侵食された範囲、山数個分の毒となった物体がすべて動き出した。そしてヒュドルの頭上へ球体を形成するようにどんどんと集まっていく。
「みろ、ここらの土地がオレ様の頭の上に集まっていくんだ。あそこにあった山も、今じゃ地面がえぐれてなにもなくなってるだろ? ここに集まってるからな」
「何というデタラメなスキル、お前らしいよ」
「だろ? やっぱ戦いは派手にやらないとな」
巨大な毒の塊が空中に出来上がった。ヒュドルは手を上から下へ振り下ろす。毒の塊の一部が触手状となりラストマンに向かって攻撃を加えてきた。
「くっ!」
「それそれ、もっと、もっとだ! ハハハハハ!」
「ぐあああ!」
毒の塊は姿を変えながら次々とラストマンに襲いかかる。自身の能力で中和されているとはいえ、毒は動きを鈍らせ、ダメージを蓄積させ、攻撃の回避や技の発動を困難にさせていた。
「くっ……ヒーローズ・レイ!」
「んおっ!? 光属性のSSランクスキルか!」
苦し紛れにラストマンは掌同士を合わせ、そこから光り輝く超威力の光線を放った。毒の塊の一部は盾に変化し、ヒュドルを守る。しかしその毒の盾は破壊され、光線はヒュドルの元まで届いた。
「いけぇえええええ!」
「まあ、無駄なことだわな。つい防いじまったが……必要ないんだった」
破壊された盾は液状になり、ヒュドルの足元を覆う。そしてヒュドルはその液状の毒に溶け込むように自分の体を消し去ってしまった。
「なに!?」
〔ははは、さっき俺に拳が届かなかっただろ? それと同じ技を使った。これはポイズンリキッド……自分の身体を毒の液体にするスキルだ〕
液体化したヒュドルの身体にむかって毒の塊は触手を伸ばす。そしてヒュドルがそれと接触するやいなや吸収されてしまった。ヒュドル自身が、毒の塊と融合してしまったのであった。
〔さぁ、これで完成だ。あたりの山々を吸収した毒の塊と融合したオレ様のな〕
「なんということだ……」
〔まだ面白いことは続くぜ? 絶望に打ちひしがれながら眺めてるがいい〕
毒の塊から手が生えた。毒の塊から足が生えた。毒の塊の球体部分が人体を形取っていく。やがて頭まで生えてきた。数十秒かけて形成されたそれは、数百メートルの大きさがある巨人であった。
〔ハハハハハ! みろ! これがオレ様の新しい身体だ! オレ様はテメェを倒し、テメェの大事なものをすべて奪う! 故にちょっとテメェの真似をしてこの身体にはポイズンマン……いや、ポイズンマン・カラミティと名付けてやるよ!〕
「ポイズンマン・カラミティ……」
〔テメェにここまでの巨大化ができるか!? 守りたいもの全部守れるか? また昔みたいにオレ様からすべてを奪ってみろよ。やれるもんならなぁ!!〕
超巨大な毒の拳がラストマンに向かって降り注ぐ。それは巨大な城一つが彼を襲っているのに等しかった。しかしラストマンはそこから立ち退こうとせず、ポイズンマンのその攻撃を眺めている。
〔諦めたか!? テメェが死んだら、ウサギ娘もその子供も死ぬと思え! ハハハハハ、ハハハハハハハハ!!〕
「諦めてなんていないさ。ちょっと魔力を集中してただけ……。いくよ」
〔あん!?〕
ラストマンの身体が光り輝く。ヒュドルは目が眩み、一瞬だけ視界を閉ざす。すぐに目を開けたその時、目の前に立っていたのはそのままポイズンマン・カラミティと同じ大きさまで巨大化したラストマンであった。
〔なっ……〕
〔クリーチャーマスターは魔物のコピーとそれを組み合わせるだけじゃない。自分の体を好きな形に自由自在に変化させるスキルでもある〕
〔なるほどな、たしかに昔もいきなり腕を伸ばして攻撃してきたりしたもんなぁ……。いいぜ、巨人対決といこうじゃねぇか〕
ヒュドルは拳を再び握り込み、ラストマンに殴りかかる。しかしラストマンはそれを躱し、ポイズンマン・カラミティの顎に向かって前蹴りを繰り出した。ポイズンマンは体勢を崩し、隙ができる。その間にラストマンはポイズンマンの胴体を持ち上げ、その場で数回回転し、人がいなさそうな場所に投げつけた。
〔ぬおっ!?〕
〔はぁ……はぁ……どうだ!〕
〔どうだと言われても、これはオレ様の本体じゃねぇからダメージ自体はねぇんだよな。それに対してテメェ……俺の毒にどれだけの面積で触れた?」
〔………!?〕
〔それに自分の体一つでその大きさを維持するのも大変だろ。もって三分といったところか。ハハハハハ、巨大化したところで形勢は変わらないんじゃないか、ハハハハハハハハハハ! 好きなだけオレ様を攻撃しろよ、追い詰められるのはテメェ自身だ〕
#####
シュワッチ!
ここだけの話、巨大化させたかったからクリーチャーマスターにしたのであります……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます