第1056話 バトルマスター
「一体何なんだよう! わ、私はあのアリム・ナリウェイの力をコピーしたんだよ!」
「コピーしたな、でもそれだけじゃないのか?」
「き、記憶だって引き継いでるんだ。使い方だって万全なはずだよ。でも……」
イルメはひどく焦っていた。アリムの記憶を探しても、その弟の記憶を探してもギルマーズに関する情報は多く出てこない。せいぜいわかるのは最強として君臨していた期間が長いこと、アナズムで最大規模のパーティを率いる団長であること、武器コレクターであり伝説級の武器をコレクションしていること、バトルマスターというスキルを持っていることまで。
主にイルメはこのバトルマスターについて知りたかった。アリムの「アイテムマスター」やラストマンの「クリーチャーマスター」のようにマスターと名のつくスキルは非常に強力であり、ハズレがない。所有しているだけでSSSランカーになることは約束されているとも言われていた。名前で大方予想がつくものが多い中、ギルマーズのスキルの名称は「バトルマスター」。これだけではどんな能力かまったくもって判断がつかなかった。
「……ね、ねぇ。バトルマスターってどんな能力なの?」
「ん? アリムちゃんの記憶を引き継いでるんじゃないのか?」
「し、知らないんだよあの子は! バトルマスターっていうスキルがどんなものか」
「あっ! そういやアリムちゃんには名前しか教えたことなかったな。目の前で実演したこともないし。あー、もうちょっと交流を深めるべきかなぁ。……ま、今に限っては好都合だよな?」
「ぐぅ……ん?」
好都合、とギルマーズは言ったものの本当に攻撃しようとはしていない。剣を持ったままヘラヘラした表情で笑っていた。
イルメは考えた。攻撃されていないにもかかわらず劣勢気味になっているこの雰囲気を脱却する方法を。そして思いついた。このままどういった能力かわからないスキルを怖がるよりも、確実に強いであろうその所有者本人をコピーしてしまい、自分がそれを使役すればいいのではないかと。
「おい、なんか考えてやがるな?」
「ひっ!?」
行動を起こそうとしたイルメは自分の動きをギルマーズの一言で止めた。一瞬の恐怖、イルメは確かにそれを感じた。
「まあいい、何をやるかまではわからんが、やってみるがいいさ」
「えっ……?」
「たぶんあれだろ、アリムちゃんや弟くんの能力じゃなくて、お前自身の能力を使おうとしてるんだろ。当たってるはずだ」
「……そ、そうだよ」
「ほら、やってみろよ」
「や、やってやるさ!」
イルメは、イルメでなくなった。自分の身体を溶かし、元の姿、本来の姿、魔物の姿に戻った。それは超巨大なドス黒いスライム。そんなスライムを目の前にして、今まで余裕の表情を浮かべていたギルマーズの眉間が少しだけ動く。
「ほう、珍しい。俺はSSSランク相当のスライムは今までに2度倒したことがあるが……お前みたいなやつは初めてだぜ。なんつー名前なんだ?」
〔私はニャルラトホテプ。史上最強の変化の魔物〕
「せめて声色は変えてくれないか? その姿でアリムちゃんの声のままはきついぜ」
〔我が変化の能力にて、私は今からお前に成る〕
「おおそうか。頑張れよ」
〔……どうなってもしらないからね!〕
ニャルラトホテプの姿形がだんだんと縮み、人型を形成する。その人型はやがてギルマーズとまったく同じ身長になり、やがて「」全く同じ体格になり、やがて全く同じ顔立ちになり、やがて全てが全く同じになった。偽物のギルマーズは本物のギルマーズをみてほくそ笑む。
「さあ、自分と戦うという気分を味あわせてあげる……ぜ!」
「面白いじゃねぇか。で、バトルマスターの能力についてはわかったのか?」
「い、今調べる! まっててね!」
「……俺の姿でアリムちゃんの口調使うなよ……」
イルメは自分のステータスに追加されているであろうギルマーズのスキルを調べた。確かにそこにはバトルマスター、正確にはバトルマイスターが存在していた。
マスター系のスキルは全人類で一人しか得ることができない。コピーしてもそれは同じであり、例えばイルメはアリムをコピーした際、あたかも「アイテムマスター」を得たかのように言ったが本当に得たのは「アイテムマイスター」であった。
そしてそのバトルマイスターの効果は、「戦闘において最上級の才能を発揮できる」という一文しか書かれていなかった。
「……え?」
「ま、初見じゃわけわからねぇだろ」
「……で、でもこれから君の記憶を探って使い方を調べれば……」
「ああ、そうだな。調べるといい」
「……くっ」
「ま、攻撃しないとは言ってないがな。ありがとよ、自分と似た姿である程度の魔物を斬りふせるくらい楽なことねぇわ」
「あっ」
ギルマーズの身体が少し動いた。その瞬間、偽ギルマーズの身体から血しぶきが上がる。ニャルラトホテプは驚きのあまり、スライム状に戻り、後方に大きく飛び上がった。
〔……くっ、なんて剣の使い手だ。まるでうちのサムライみたい〕
「ん? まあ俺は武器なんでも使えるけど、一番得意なのは剣だからな。これくらいは余裕だぜ」
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