閑話 似た者姉妹
「かっ……かっこいいっ……!」
「わふ?」
屋敷内の比較的目立たない廊下。一瞬またミカちゃんが給湯室の隅であゆちゃん盗撮コレクションを眺めてるのかと思ったけど、違った。声が似てるだけだった。多分今回はサクラちゃんだ。
「わふ、サクラちゃん何してるの?」
「り、り、リルちゃん!?」
あ、今日のサクラちゃん、珍しく髪の毛を結んでないよ。伸ばしたままだとやっぱりミカちゃんとだいぶ似てるね。目元が若干違うくらいだね。そんなサクラちゃんが見ていたのはどうやら動画みたいだ。その動画からカナタくんの声っぽいのが聞こえるよ。
「なるほど、カナタくんを盗撮した動画でも見てたのかな?」
「な、なんでそれを……!?」
「わふー、なんでだろなー」
「も、もしかしてリルちゃんも翔さんを隠し撮りした動画を目立たないここで……?」
「残念ながら私は直接筋肉に触りに行くのが好みだよ」
「そ、そっか」
私は翔の胸板や腕の筋肉に顔を埋めるのが好きだからね、本人がいないとできないんだよ。私も十分おかしな趣向を持ってるっていう自覚はあるよ。
「で、どんな動画なの? 気になるよ」
「だ、誰にも言わないでね?」
「言わない言わない」
「……これ」
最近カナタくんも筋トレをしているって聞いてたけど、まさにその動画だった。上半身半裸のカナタくんが基礎的な筋トレをしている。だいぶお腹周りに固そうな筋肉がついてて、でも体格は細いままだからシュッとしてる。
「すごく……かっこいいの」
「なるほどね、いいんじゃないかな」
「中性的な顔立ちでこんな……可愛くてかっこいいってずるい」
「たしかにカナタくんは、ショーにないクールな格好良さとあゆちゃんと同じ可愛さをもってるね」
しかし私たち三人は見事に好みが違うから面白いね。私はもちろんショーみたいな筋肉の塊、ワイルドな男の人がタイプ。ミカちゃんはもはや九割以上女の子の男の子がタイプ、サクラちゃんはクールかつキュートなのが好きなのかな。
「り、リルちゃんには特別に別のも見せたげる」
「いいのかい?」
「うん、人って誰かに自分の秘密打ち明けたいものじゃない。でもほら……冷静に考えたら私、何か秘密を打ち明けてそのあと生活に影響がない仲がいい人ってリルちゃんしかいないから……」
「わーふ、なるほどね」
サクラちゃんの目線に立ってみて、相談できる相手……ね。自他全ての親世代に自分の性癖を話すことなんてできないから論外だし、姉であるミカちゃんに話すとそのネタでしばらく弄られちゃいそうだし、対象の実の兄であるあゆちゃんにも話すわけにはいかないし、ショーは話されたところで困惑するだけだね。学校の友達とはそんなディープな話ができるほどの仲がいいってわけじゃないらしいし、たしかに私しかこういう話はできないだろうね。
「わふー、私ならそういう相談いくらでも乗ってあげるよ! それで、その見せたいもの、さっそく見せてよ」
「これ、なんだけど」
そうして見せてくれたのは幼い頃のカナタくんの動画。幼稚園児くらいかな。椅子に座っていつもの研究所の職員さんからインタビューを受けているみたいだった。サクラちゃんのことに対して聞かれてる。この頃からだいぶ熱烈にサクラちゃんのことを想っていたみたい。とても幼稚園児の恋愛観とは思えない発言をしている。
「これは惚れ直すね」
「でしょ? 私の一番好きな動画なの。これはカナタのおばさんに直接もらったんだ」
「わふー、本当にいいよ……!」
さすがは三歳から十年以上もずっとほぼ盲目だったサクラちゃんを支え続けたカナタくんだよ。サクラちゃんがここまで熱狂的に入れ込むのは当然といえば当然だろうね。
動画を見せてもらってるうちに、誤ってサクラちゃんのスマホの次の動画に進むボタンを押してしまった。
「あ、ごめん、手が滑ったよ」
「ううん、いい……いや、よくない!」
「わ……ふ……!?」
一瞬、一瞬だけ脱衣所に入ってくるカナタくんが見えた。どうみてもこれはマジの盗撮だよ。お風呂場を覗いてるんだ。
「さ、サクラちゃん……」
「ごめんリルちゃん……本当のこと相談させて?」
「わふ」
「私、私、カナタに対してはすごく変態さんになっちゃうの」
「まあ、ミカちゃんの妹だし……」
「た、例えばこれ!」
サクラちゃんが自暴自棄になりながら見せてくれたのは、自分の胸にカナタくんの顔を押し付けてる動画だった。カナタくんがひょんなことでサクラちゃんの裸を見てしまって以来、抱きつくだけで鼻血を出すようになってしまったため、それを改善するための訓練だとか。
「でも、これ、実は私、やりたくてやってるの……! カナタが私の身体で興奮してくれるのがすごく嬉しくて……! そしてそこを後で見返すのも……」
「わーふ、サクラちゃんは間違いなくミカちゃんの妹だねぇ。最高に似た者姉妹だよ。正直私はミカちゃんと違って愛があるなら今からでもサクラちゃん達は夜伽しちゃってもいいんじゃないかって思ってたんだけど、これはダメだね、歯止めが効かなくなるよ。ミカちゃんはそのこと理解してたんだ」
「だ、だよね。たぶん、一度始めたらそこからお姉ちゃんやリルちゃんみたいに毎日……」
「ふっ……こっちの世界にくるのはもう少し大人になってから、だね」
かっこつけていったけど、世間一般から見たら私とミカちゃんも十分やばすぎるんだよね……。もう全員変態ってことでいいよ、その方がしっくりくるさ。私だってまともじゃない自覚くらいあるんだ。
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