第1039話 開戦
今は俺にとっては夜中の四時。普通の人は朝っていうよね。約束を守る気があるのなら、あと二時間後にアナザレベルが攻めてくる。予定より早く攻撃してくる可能性も捨てきれないけど、とりあえずこの時間までは何もなかった。
うちの屋敷の戦える人材も総出でお城に待機。ショーやお父さんには期待してる。ショーは幻転丸にリベンジがしたいらしい。あの時点で特に負けたわけではなかったと思うけど、やられ逃げされたままだから、格闘家の面として悔しかったって。そしてお父さんはカナタを殺し、俺を精神的に追い詰めたアナザレベルの配下全員が憎いらしい。いつも通りの冷静な表情で口調だけ強く淡々とそう言っていた。
偽の神アナザレベルと戦争することはすでにアナズム全体に広まっている。こんな直前に普通の人たちに知らせるのは暴動や混乱が起きてめちゃくちゃ大変なんじゃないかと思ってたけど、カナタがこのことを知らせるチラシや発行する瓦版を全て、俺が手がければいいんじゃないかって提案してきたんだ。つまり精神を安定させる効果を持った紙のアイテムでお知らせをするってことだね。
その作戦はうまく行き、今のところ目立った混乱は起きてない。戦いに対して楽観的になってるんじゃなくて、三年以上前から知っている心持ちになるようにしたから相手が付け入る隙も少ないんじゃないかな。カナタが考えたんだしきっとそうに違いない。ちなみにチラシや瓦版を全ての国や集落に届けたのはカナタ。……ちょっと過労気味かもね。
冒険者や騎士などといった荒事の専門家達に対して、ランクがB以下の人達は自分の身を守ったり周りの一般人をなるべく助けるように、Aランク以上の人達は戦闘に備え後方支援や追撃ができる準備を、SSランク以上の人達は前線に立って戦うように指示が出された。この指示はアナズムの国全部の総意として出されてるし、俺の出した瓦版を読むことで抗おうとする気持ちが湧き上がってるはずだから、本気で先頭に参加したくないあるいは命が惜しいって人以外は参加してくれるはず。
あとメフィラド城に集まっていたSSランク以上の実力を持つ人たちはみんな帰した。例えばエグドラシル神樹国のSSSランカーの二人、あの国はその二人しかSSSランカーがいない。各国と連絡が取りやすいよう、大して強くない国の代表達は残ってるけどね。
例外としてラーマ国王は、SSSランクがほかに二人ブフーラ王国におり、ダンスマスターのスキルを使えば一瞬で国に帰れることからここに残るらしい。俺の戦いを間近で見たいんだってさ。
……誰もが考えたているのは、この国、メフィラド王国が重点的に狙われること。一ヶ月以内で受けた被害は全部ここだし、SSSランカーがアナズムで一番多いのもここ。魔神を全員所有し、なぜか狙われてる俺がいるのもここだから。一番戦地になるのもここなんだと思う。ミカもそういったし間違いない。
「眠くない? 膝枕しようか」
「眠くない、だいじょぶ!」
「そっか、まあマジックルームでみんなたっぷり寝たもんね」
「うん。あと普通に両親も王様もいるここで膝枕は流石に恥ずかしいよ」
刻一刻と迫り来る予定の時間。どんな攻撃が来るかは知らない。俺は初めて魔神と戦争することになった前日と同じくらいドキドキしてると思う。様子を見てる限りだとみんなそうみたいだ。サクラちゃんにショーにリルちゃん、親達、みんなみんなそう。二日前に会議した後、張り巡らせた防御魔法にかなりの自信があるのかカナタだけがちょっぴり余裕そう。ただ不安心がないわけではないようで、サクラちゃんを自分の体にかなり強く抱き寄せている。
「ね、私、多分勝って元の平和な生活が戻ってくると思うんだけどさ」
「ミカがそういうなら戻ってくるだろうね。まあ、俺も負ける気はしないし」
「もし負けたらどうなるんだろね?」
「あー、わかんない」
そう、わかんない。だって捉えられたり殺されたりすることを頭に入れてないから。……2000年代の地球の日本で生まれて大半をそこで過ごして、アナズムでもトントン拍子で物事を進められた俺たちが負けた場合の惨状を想像するのは難しい。いや、怖いから避けてるのかもしれない。だからこそ、だからこそ準備を怠っちゃいけないんだ。今から一時間前まで最後の作業をした。負けたくないもん、絶対に。怖いから。
【……二人とも冷静そうに見えて内心かなり怖がってるな?】
【これはシヴァだね? うん、そうなんだ】
【なに、安心しろ。私がついてる。仮にも神がついてるんだ、大船に乗った気持ちでいてくれ】
【わかった】
普段ならシヴァからの励ましも受け取らないんだけど、今日は特別に素直になってみる。
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そして二時間が経った。普通ならとっくに朝日が昇り、辺りを照らしているはず。でもお空は一箇所を除いて真っ暗。
そう、真っ暗なだけじゃないんだ。地球に出現した巨大な魔法陣と全く同じものが出現している。あの時より膨大な魔力を抱えて。本気で殺す気だっていう意思が感じられれほどの。
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