第1028話 猛毒の階層

 とりあえず一階へやってきた。そういえばさっきは一階にゾンビは居なかった。何か理由があるのだろうか。

 ふとロビーから左側の通路を見ると、あからさまに毒ですって感じの紫色をした気体がドライアイスの煙みたいな挙動で動いてるのが見えた。どうやら一階はそもそもこのロビーだけが大丈夫で、あとはもうすでに毒が回っていたっぽい。二階から様子を見て正解だったね。

 さて、毒を消しながら先に進むか、それとも俺だけ毒対策をしてから進むか。いち早く国王様の様子を見た方がいいし、後者の方がいいかな。一応、これ以上毒が進行してミカやカルアちゃん達の元に行かないよう防ぐためのアイテムを複数個置いて行こう。

 まずは毒が見えていた左側から。自分への毒をある程度無効にするアイテムを身につけ突入する。おそらくこれは脱獄犯のポイズンマスターによるものだろうけど、アイテムマスターの力で防ぐことは可能みたいだ。もしかしたら本気の毒じゃないのかも。マスター系って本来ならどれも洒落にならないしね。

 このお城の構造は大体把握してるけど、煙が邪魔で前が見にくい。やっぱりミカや救った人以外の探知も効かないから気をつけて進まなきゃ不意打ち食らってしまう可能性もある。そう考えてたらさっそく、何かに蹴つまづいてしまった。明らかに人を蹴った感触だった。



「うわぁ……」



 確認してみると、このお城の執事さんの一人だった。皮膚はゾンビ達と同じ緑色の状態だけどすでに息絶えている。おそらく操られてる状態でも毒は普通に効いてしまうんだろう。アムリタでいつでも生き返らせてあげられるから、遺体が残ってるだけまだマシか。だからごめんね……後回しにするよ。今生き返らせてもまた毒に倒れるだけだしね。こんな状態になってる人がまだたくさんいるって思っておいた方がいいかな。

 途中、調理室があったのであの料理長さんがどうなってるか心配になって顔を覗かせる。避難場所にいなかったし、たぶんアウトだろうけど。

 ……うん、ダメだった。ほかの料理人さんもたくさんゾンビ状態のまま亡くなっている。台所は荒れ放題だ。当然だけど毒を浴びてるから食材も粗方ダメになってるだろうね。申し訳ないけど料理長さん達もあとにしよう。

 それにしても、左側から入ってもう正面通路に差し掛かりそうな場所まで、つまり前半の通路の半分は回ったけどゾンビ化した人たちの遺体意外な何も見つかっていない。まだ中部や後半もあるからなんともいえないけどね。もっとスピードアップしたいけど、この視界不良のなかで猛スピードで動くのはちょっとこわい。

 あ、でもSFみたいな暗視ゴーグル作ればいけるのかも? さっそく作ってつけてみたところ、いろんなものの輪郭が見えてくる。これなら大丈夫。早く気がつければ良かったけどね。

 また、しらみつぶしに見ていくのも非効率だと思ったので、ミカみたいに勘で進んでいくことにした。もしゲームだったらこういう場合どうなるか。暗所を抜けた先は大体、一番大きな部屋や一番奥の部屋にボスや目当てのアイテムがあったりする。それでいくことにした。やっぱり俺が困った時はミカか叶か翔かゲームに頼らないとね。

 一階のうちでどの通路から入っても一番時間がかかる部屋へたどり着いた。例えば玉座の間に通すほどじゃない人達との舞踏会などが開かれるような大きくて豪華な部屋。さっそく中へ突入しようと思ったら向こう側から誰かがドアノブに手をかける音が聞こえた。こんな毒だらけなのに特に警戒した様子もなく外に出ようとしてる時点で敵なのは明確。急いで物陰に隠れた。



「しかし信じられないぜ。あれだけの数のアナズム中から集まったSSランカーやSSSランカーを逃げた奴ら以外全滅させられるとは……。やっぱ神様に付いて正解だったぜ」

「何を言うでござるか。実際はヒュドル殿の力ではないでござろうか」

「いや、それもテメェらと特訓してからで……」

「えー、どうしたのヒュドル! 日に日に謙虚になってくよね。最初とはまるで別人!」

「はは、まあな……」



 やっぱりそうだ。出てきたのはこの毒をばら撒いてみんなをゾンビにした張本人と、翔の腕を斬った侍と、弟を殺したニャルラトホテプ。全滅させたって言ってたな。つまり、国王様達はもう……。

 せめて遺体が残ってるかどうかを確認したいけど、あの三人を同時に相手するのは流石の俺でもきつそう……。や、まだ誰か来るぞ。



「そっちはどうでしたかぁ~?」

「メフィストファレス殿でござるか。苦戦はしたが幹部に欠員は出なかったといったところでござるかな。新しい勇者の幹部はどうだったでござるか?」

「もちろんルシフェルさんはお強いですよぉ。昔よりも強くなってたかもしれませんね。あとはクロさん達ですけど……。おや、きましたね」

「なんだ吾輩達が最後か。こいつが惨殺を楽しんでいるから……」

「めんめんめん、めんぼくないいぃいいい!」



 どうやら部屋を別にして敵を迎えうっていたようだ。そしてその部屋全部が全滅した。目の前には敵の幹部と思われるのが把握してる限り全員いる。それどころかどう見ても操られてる感じのヘレルさんも。



「次はどうすればいいのだったか」

「二階の奥の部屋にいる姫や王子達を殺しせば終わりですよぉ」

「はっ、カルナ王妃とカルア姫を首だけにして民衆に晒せば面白くなりそうだな!」

「そうだな。だがたしか姫を合わせて何人か転生者がいたはずだが……」

「クロさんがいればなんとでもなるでしょう」

「とりあえず行くでござるよ」



 や、やばい。こっちにまとめて来るし、カルアちゃん達の元にも向かおうとしてる。カルアちゃんのところに向かうってことはミカとも途中で会うだろう。ってことはここで俺がどうにかしなきゃ……みんなを守れない!

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