第1013話 広がる消失

 次の日、少々盛り上がったミカと俺がディープなイチャイチャをしようとしていたら、なぜか帰らなきゃいけない用事ができたからそのお見送りをしてほしいとラーマ国王にメッセージで頼まれた。俺達は仕方なくラーマ国王一行が止まっている超高級宿に入り、彼の部屋を訪ねる。



「おお、アリムちゃん! 本当に見送りに来てくれるとはな!」

「私、なんだかすぐラーマ国王が戻ってくる気がするんですけど」

「ミカちゃん、その通りだ。国の方で少し騒ぎになっていることがあるようでな、ぴゅーっと行ってぴゅーっと国民達から話を聞くつもりなのだ。それが終わったらすぐここへまたやってくる」



 どうやら彼のスキルはそれを可能にするらしい。ダンスマスターだっけ、名前だけならどうにも遊んでるようにしか思えないスキルだけどマスターなんだからすごいんだろう。

 本当にすぐ戻ってくるためお付きの人はここに残っていくらしい。つまり王様なのに一人で帰るってことだね。いくらラーマ国王本人がSSSランカーとはいえ今はなにが起こるかわからないのに、大丈夫なのかな?



「二人とも、そんな心臓がとろけそうなほど愛くるしい表情で心配そうな顔をするな! 私は強い!」

「……そうですか。とにかく、なにがあったんですか?」

「なんでもな、冒険者が何人か消えたと連絡が来た。……まあ冒険者が消えるなんて日常茶飯事だが、依頼を受けてる最中ではなく街中で突然いなくなったらしいのだ。留守を任せてる者から国民達がざわついているため、王直々に収めた方が手っ取り早いと言われてな」

「えっ……」



 俺とミカは顔を見合わせた。ミカが昨日、イヤーな予感がするって言ってたけど早速当たっちゃったよ。これは危ない、今すぐラーマ国王に注意しなきゃ。



「あ、あのラーマ国王様!」

「はぁぁ……そんな必死そうな顔で我を呼ぶ鈴の音のような……」

「そんなの今どうでもいいですから! じ、実は昨日、ボクの近辺でも冒険者がいきなり行方不明になったってことがあったんです」

「……なに?」



 あ、ラーマ国王が国王様が真面目な話をする時並みにキリッとした顔立ちになった。いつもデレデレしてなかったら普通にかっこいいのに。



「それを詳しく話してくれないか。もしかしたら……」

「ええ、ボクもミカも同じ考えです」



 俺とミカは昨日デート中に聞いた話を全部しっかりと話した。

 こんな時期に冒険者、ランクはともあれ戦力になる人材が行方不明になる……これが近日中に少なくとも2カ国で起きた。偶然であるはずがない。今敵対してる組織が関わってるって疑うべきなのは確実。



「……アリムちゃん、悪いがメフィラド国王に話をしておいてくれ」

「はい、わかりました」

「ひとまず行ってくる」

「こ、国王様! やはり今回は私共も……」

「知っているだろう。飛べるのは私一人だと。とにかく行ってくる。後は頼んだぞ」



 そういうとラーマ国王はこの部屋の窓を開けた。そしてその場で強く足踏みをする。その瞬間、彼を中心に半径4メートルくらいはありそうな魔法陣が現れた。ラーマ国王はなんか変なポーズを取ると指の慣らす。するとどこからともなく音楽が流れ始めた。



「え、なにこれ」

「アリムちゃん殿、これがラーマ国王様のダンスマスターの力の一つです」

「これが……」



 ラーマ国王は魔法陣をステージのように見立て、中で激しくダンスを踊りはじめた。普通にパフォーマンスとしてみたらかなりかっこいいダンス。ていうか本当に文字通りダンスマスターなんだね。

 お付きの人がなんか勝手に解説を始めた。



「ダンスマスターは踊りを踊ることによって、所持していないスキルの力すら任意で使用することができるスキル」

「その内容によって、踊りの激しさや長さ、消費するMPと必要な魔力が変わりますが……大抵のことは実現可能です。この国からブフーラ王国に国王様一人で一瞬で移動するのに二十秒ほど踊り続ければ……ほら」



 魔法陣が発光してラーマ国王が俺たちの目の前から消えた。……カナタのスキルだったら一瞬で済むのに、このスキルは踊らなきゃいけないのか……。いやまてよ、俺のアイテムマスターすら踊れば実現可能かもしれないってことだよな、このスキル。やっぱりマスターはマスター、効果がすごいね。



「……とりあえず我々は王からの連絡を待っているとしましょう。アリムちゃん殿とミカちゃん殿は、頼まれた通りメフィラド国王に報告を」

「はい、そうですね! 行ってきます」



 さっそく俺とミカは宿をでてお城へと向かう。相変わらず忙しそうにバタバタしてる中を顔パスで通り、会議室に居るという国王様のところへ大事な話があるといって突入した。



「な、なんだアリム!? どおした、そんな慌てた様子で……」

「と、とりあえず聞いてください……」



 俺は昨日の話とラーマ国王の話をどっちもその場で会議に参加していた人たちに伝えた。もちろんみんな顔色を変える。……まあ国の中に侵入されて誘拐されてるかもしれないってだけで相当やばいもんね。



「……会議の内容を、一旦変える必要があるみたいだな」



 どこまで一応偽物って認識なってるアナザレベルは、俺達を焦らせれば気がすむんだろう。何度も何度も。嫌がらせなんてレベルじゃないよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る