第1012話 行方不明?

 ラーマ国王とシヴァを会わせてから何日か経った。俺とミカは今、変装して街をお散歩しているところ。ここのところずっと誰かと会うか、あるいは会わせるか、お部屋の中での作業ばかりしてたからこうやってたまには出かけないと身体に悪いんじゃないかってミカの提案で。決して暇があるわけじゃないけど、ミカの言う通りこうやって一日くらい時間を作ってデートするのも必要だと思う。

 街は当然だけど混乱している感じだった。あまり表沙汰にはしてないはずなのに偉い人が集まったりしてるものだから何かあるんじゃないかと察せられてるみたい。市民に事態を隠し通すのもそろそろ限界かもしれないなぁ。



「いまプライベートのこと以外考えてたでしょ?」

「そ、そんなことないよ」

「私に有夢のわからないことなんてないんだからね?」

「まあ、そうだけど……」

「ふふふっ! とにかく今日は息抜きするんだからね!」



 ミカは俺の腕を抱きしめながら嬉しそうにそう言った。

 ここ数日間、ずーっとミカは支えててくれた。頑張ってみんなに告白しなきゃいけない時も、そのほかやらなきゃいけないこと、やるべきこと、何をするにも隣に居てくれたんだ。感謝しかないね。できることなら今すぐ結婚したいくらいだ。



「それにしても男っぽい有夢もいいなぁ。たまには」

「っぽいっていうか、本当は男だけどね」

「精一杯男っぽく見せるように髪型とか服とか選んだのに、まだ女の子に見えるとしても?」

「それは仕方ないよ」


 

 今日は身長も肌の色も髪の色も元に戻して、アナズムに住んでる男性の一般的な服を着て髪型も叶に近い感じにしてる。それでもまだ俺は女の子に見えるんだよ、わかってたことだけど。



「ねー、次どこ行こうか」

「どこでもいいよ、計画になかったデートだから特に何も決めてないし」

「……あ、そういえばここら辺ってウルトさんの宿よね」



 気がついたらそこまで来てたか。やっぱり思い入れのある場所には勝手に足が進むんだね。俺とミカは宿屋『光』の前に立った。もちろんウルトさんとパラスナさんの子供が生まれてしばらく経つまで休業するって言ってたからその旨が書かれた看板が入り口にかかってるけど。次開店するのは1年半後。



「懐かしいな、私と有夢が初めて同棲を始めた場所」

「いやぁ……あの頃はキスするだけでもお互い赤面してたなぁ」

「今だったら色々できるもんね」

「成長したってことだよ」



 ふと、宿屋の前にある俺が最初に冒険者になったギルドの方を見てみると少し人の集まりができていた。なんかあんなに騒ぎになってたことってあったっけ? ……いや、俺が居た頃は俺を見に来てる人が結構居たっけな。でも今日のはなんか気になるぞ。



「ミカ、ちょっとあれの様子見てみていい?」

「乱闘騒ぎがあった……とかじゃなさそうね」



 俺とミカはギルドの入り口に立つ。やはり喧嘩とかではなく……どっちかっていうと、相談しあってるみたいだ。ちょっと近くのお姉さんに聞いてみよう。……記憶が正しければ、この人は俺に大会のことを教えてくれたお姉さんだ。正しければの話だけど。



「あの……ちょっとよろしいですか?」

「ん、なんだい今ちょっと忙しいんだ。……あれ、あんたどっかでみたことある顔だね。なんかすごく好感持てるというか」

「あはは……よ、よく言われます」

「可愛いから特別に話を聞いてやるよ。どうしたんだい、ギルドに依頼なら今日明日はやめておいた方がいいよ」

「そのことなんですよ、なんでこんな騒ぎになってるんですか?」

「ああ? それを聞きに来たのかい。実はね……」



 なんでもこのギルドに入り浸ってた男性の冒険者の一人が行方不明になったらしい。依頼を受けてる最中に殉職や行方をくらましてしまうってことはこの世界では普通のことだからそれならみんな普通に悲しむんだけど、仕事とは何も関係ないらしい。

 昨日までここでお酒を飲んでて、その途中でふらっとトイレ行ってから消えたのだとか。普段は途中で抜け出してずっと戻ってこないなんてことしない人らしい。そんでもって今日の朝、何人か住んでた場所を様子見のために訪ねたんだけどそこにも居なくって、でそれから知り合い総出で街中探したけどどこにも見当たらなかったんだって。

 悪魔との戦争の後の処置で治安がすごく良くなったことも含めて、何か事件に巻き込まれたことも考えにくいしってことでこれだけ騒ぎになってるんだとか。



「あ、嬢ちゃん二人も、こいつを見かけたら教えてよ。知り合いの絵描きに頼んで似顔絵描いてもらったんだ」

「どれどれ……」



 あ、この人なんとなく覚えてる。俺によくお菓子くれた人の一人だ。全く知らない人ってわけじゃないぞ。……不可思議な行方不明か……大丈夫かな?



「まー、何事もなくふらっと見つかるような気もするけどね」

「なるほど……。ありがとうございました、教えてくれて」

「もっかい言うけど、可愛いから特別だよ」



 俺とミカはギルドを離れた。顔見知りが行方不明になったって聞いて内心穏やかじゃないけど、せっかくの空いた時間だしデートを続けるために。でもミカもあんまり乗り気じゃなくなってしまったみたいだ。



「あー、ミカ。その……お昼ご飯にしようか、そろそろ」

「……ねぇ、有夢」

「なぁに?」

「なんだか、ただの行方不明じゃないような……嫌な感じがする」

「み、ミカの勘は当たるんだから、そんなこと言ったら……」



 まさか本当に、ただの行方不明者じゃないのかな……!?





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Levelmaker2巻の発売から5日がたちました! いろんな本屋さんにおいて頂いてるのを自分でも見かけるでござるよ!

さて、次回は1000話記念リクエスト、10件のうち1件を書くでござる。お楽しみにでござる!!

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