第993話 立ちはだかる聖龍
今日はアンケートでいただいた閑話案の一つをやる予定でしたが、前回ではキリが悪いので、ここら一連をキリがいい程度まで進めようと思います。
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〈レヴィアタンとベヘモットが大怪我して戻ってきたと思えば……。美少女の特訓メニューとやらで大幅に強なくなったのではなかったはずだろう、なんだこれは……いや、やはり答えなくていい〉
縮小されて出現した翼のない龍は国王に向かって現状を問おうとしたが、前方にいる三人の男のうち、黒づくめであるカオスブラックドラゴンの存在に気がつきすぐに取り消した。
力なく倒れ込んでいる国王らの前に庇うように立ち、三人と対峙する。
〈余ですら伝承でしか聞いたことなかったが……史上最悪の黒竜、別名、混沌竜の実物をお目にかかれるとはな〉
「吾輩も噂では聞いている。邪竜が人の味方をし、聖龍と称されるようになった……そんなアホのことはな」
〈お互いに初対面ではあるが、またお互いに有名竜ではないかカオスブラックドラゴン〉
それからしばし続く沈黙。30秒ほどして先に再び口を開いたのは聖龍の方であった。
〈しかし……貴様のスキルは伝承通り凶悪だな。まさかこの城にいる人間全員をステータス関係なしに無力化するとは〉
「ああ、この城内でまともに動けるのは吾輩の連れと貴様だけだろうなファフニール・ロット。吾輩達三人を相手に後ろの劣等種を庇いながら戦えるか?」
〈余にかかればこの程度………む〉
「ひかるカルとかげげげげげげ!! きるぅぅぅぅぅ!」
聖龍に向かってナイフを両手の指に組まなく挟み込んだ敵側唯一の人間が襲いかかってきた。しかし聖龍はすぐにそれに対応し、敵が自分の射程範囲内に入るやいなや尻尾でおもいきり殴りつける。
男は城内入り口側の壁にめり込んだ。
〈なぜこんな下品な人間を味方にしている。そしてなぜあの人間は貴様のスキルを受けた様子がなかったんだ。まあ……もう死んだであろうから関係は……〉
「かぺっかぺっ……。ほ、埃が口の中に……」
〈……そう簡単にはいかないか〉
再びまったくもって無傷で男は壁の中から現れた。一切ダメージを受けた様子がないどころか、むしろ元気になっているように聖龍には見える。その時、国王から聖龍へメッセージが送られてきた。
【ロット……きけ……】
【なんだ】
【あの人間はアナズム全域で指名手配されている凶悪な大量殺人鬼。名はガイル……『反転』というスキルの持ち主だ】
【反転……? なんだか嫌な予感がするが】
【その予感はおそらく当たっているだろう】
国王は説明を始めた。
ナイフを持った大量殺人鬼の狂人、ガイル。彼の所持している反転というスキルは自身に対する不都合な物事を都合の良いことに変えるというスキルであった。例えば弱体化魔法を唱えれば逆に該当する効果が強化され、攻撃すれば回復する。また本人の戦闘力もSSSランク並みである。
【やはりな。では回復魔法を放ってやれば……】
【彼奴は狂人に見えて切れ者でな、自身の弱点を完璧に把握している。なんでもステータスを確認した者の話では、回復魔法や強化魔法を自身に使われた際にそれを純粋に受け入れるスキルが備わっているそうだ】
【ほぼ無敵ということか】
【ああ、拘束することはできるため、今まで捕らえられていたのだが……】
大臣がガイルと呼ばれる殺人鬼を重力魔法で地面に埋め込んだのはそのためであった。しかしそれもあまり意味はなかった。
聖龍はこの際にもう一つ気になったことを国王に問う。
【あの人間が厄介であるということはよくわかった。しかし余にとっての一番の問題は、真ん中に立っているあの大悪魔なのだが。なぜ悪魔が? 美少女が滅したのではなかったのか】
【確実にそのはずだった。私達にもなぜ彼奴がこの場にいるかわからないのだ。魔神が復活した様子は全くないのだが……】
【ともかく、わざわざカオスブラックドラゴンのスキルが効かないような集団でやってきたというわけだ】
先程は余裕だと相手に言っていた聖龍も実際は内心で焦っていた。彼は自分の実力が国王の助力無しでカオスブラックドラゴンと五分であると考えていた。しかし国王達からは一切の助力は期待できない。むしろこの状況は足を引っ張っている。またヘレルも人間なため同じように倒れているとファフニールは感知済みであった。
ファフニールは大きな深呼吸を一つつき、三人の敵に向かって一歩を踏み出す。
〈……我が盟友達に仇なす混沌竜、大悪魔、狂人よ。余が……まとめて相手をしてやろう〉
「改めて名乗るということは、ようやくこの戦力差を理解できて覚悟を決めたということだな」
「……三人で叩けば楽勝なのでは?」
「竜をなめるな、そう簡単にはいかない」
「きるきるきるきるきるきるきるきるきる!」
「とにかく……作戦通りに行くぞ」
「わかりました」
「きる!」
メフィストファレスが全身から煙を噴出させる。その煙は普通のものとは違い、軽微な魔力を含んでいた。ファフニールの視界だけではなく魔力による探知も阻害される。
周りにいる人間に防護魔法で壁を作りつつ、ファフニールは煙を飛ばすように光による旋風を巻き起こした。しかし煙が晴れることはなく、それと同時にどこからともなくナイフが飛来し首元に突き刺さった。
その一本をはじめに四方八方から無数のナイフが飛びかい、それら全てがファフニールの銀色の皮膚をえぐった。
「……おかしい、キルしてるのに倒れない……!」
「言い忘れていたが彼奴、噂では超回復力の持ち主だ」
「それを早く言ってくださいよぅ……」
三人ののんきな声だけが聞こえてくる。
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