第941話 炎の塊 (叶)

「さて、どうやって攻撃しよう……」



 叶は絶海の孤島の上空で、うごめく巨大な炎の塊を見つめていた。その炎の塊の真下は木々が生えていたと見られるが全てその魔物の熱で灰になってしまっている。無論、近くにいる叶にも耐えられないほどの熱さだが、彼はスキルを駆使してしのいでいた。



「まるで太陽に触手が生えてるみたいだ」

「………おや、人間の気配がするけれども、アナタは誰かな?」

「なんだ喋れたの」



 口はどこにもないのに、メッセージを送ってきたり念を発していたりするわけじゃなく普通に火の塊は言葉を話した。



「喋れるよ。もっとも、誰かと対話したのは何年振りかわからないけどね。……あー、見たところワタシを討伐しに来た冒険者かな?」

「その通り。あ、でも敵意がないなら無害化した上で開放することもできるけど?」



 叶がそう言うと、炎の塊は触手の様な形の炎を一本だけ動かし、断る様なジェスチャーをした。さらに熱量が上昇し、孤島内だけでなく周りの海の水も蒸発し始めて来ている。



「あはははは! いや、燃やしたくてたまらないよ。アナタみたいな美少年……少年でいいんだよね? 君を燃やすのは楽しいだろうね。そうだ、せっかくだから名前を教えてよ。復活記念として覚えておいてあげよう。ちなみにワタシの名前はクトッグアさ」

「俺はカナタだよ。じゃあ、俺に倒されるってことでいいんだよね?」

「いいよ。ワタシは人間より燃やしたい奴がいるんだけどね、なかなかアナタは強そうだから、奴を燃やす前の肩慣らしも兼ねようか!」



 クトゥグアと名乗ったその魔物は、自身の身体から火柱をカナタに向かって放った。その軌道の上下にあったものは全て溶かされて行く。しかしすでにそこには叶はいなかった。



「あれ……どぐぉぉ!?」



 クトゥグアの真上に黒紫の魔法陣が出現し、そこから闇魔法の光線が巨大な全身を飲み込んだ。叶によって唱えられた闇魔法は島すらも全て吹き飛ばしてしまった。



「たぶん、このくらいじゃ倒れないんだろうけど……」

「あ……あああ、あはははは! どうやらワタシはアナタの力量を見誤ったようだね?」



 島すらなくなった何もない空中に、火がどこからともなく集まって来て再びクトゥグアを形取った。ここまでは予想済みであり、叶は驚いた素振りを見せない。



「強いな、この魔力の量。ワタシ出なかったらもうすでに倒されていたはずだ。最初から魔力を計っておけばいいよかった」

「SSSランクの魔物ほど慢心するよね」

「否定はできないね。奴もそうだったし」

「そのさっきも言ってた奴ってなんなの?」

「ワタシのライバルだよ。奴に会うなら君から逃げなきゃダメそうだね」



 炎の塊の形が素早く変形して行く。やがてクトゥグアは生き物で言えば一匹の蛇、生物でないならば稲妻のような姿になった。全身が炎でできていることには変わりがない。



「じゃあ…….ねっ!」



 クトゥグアは叶に目を合わせることもなく上空まで、光速に近い速さで飛んでいった。しかし、その数秒後には海の上にいた。



「……あれ。いまワタシは飛んだはず……。アナタ何かした?」

「………うん」

「ああ、なるほど。つまりは空間をどうこうできるスキルね。逃げられないと言うことか。体力とかは温存したかったんだけどな……仕方ないか」



 無言で睨みつけてきている叶の目の前でクトゥグアは元の炎の塊に戻った。そして全身を震わせ、膨張してゆく。



「もしかしたらワタシの熱でアナタを倒せるかもしれない」

「……仕方ない」



 叶は兄から新しくもらった武器を槍状にして構え、それをクトゥグアに向かって投げつけた。槍は膨らんでゆくクトゥグアの身体を難なく通過し、そこから引っ張るように吸収してゆく。



「……封印!? でもおかしい、ワタシが燃やさない物なんてないはず……! 伝説級の武器だって、並大抵の魔法だって溶かせるのに」

「これはうちのにいちゃんの真心がこもった一級品だからね。信じて投げてみたけど、正解だったな」

「あはははははは、あはははは、また封印されるんだ!」



 クトゥグアの笑いが収まる頃には、槍に全て封じ込まれていた。

 叶は後でクトゥグアを別の容器に移し替えて兄に処分してもらおうと考え、槍を自分の手元まで呼び戻す。

 手元に槍が収まるのと同時に、真後ろで人の気配がした。叶は即座に後ろを振り向いた。そこには微笑んでいるアリムが立っていた。



「カナタ、お疲れ様だったね」

「……なんでここに?」

「いや、ちょっと心配になってさ。今日の魔物、みんななんか強そうだっただろ? 特に叶のなんて周りにいるだけで身も焦がされるような……」



 叶はアリムを観察するようにじっくりと眺めてから口を開いた。



「ねぇ」

「どうしたんだよ」

「いつももうちょっと子供っぽい口調だし、普通のにいちゃんなら、作戦上、きちんと俺が呼びかけるまでその場で待機してるはずだけど」

「あー、なるほど。アイキューってやつが200以上あるってのも伊達じゃないんだね」




#####


これは一体誰なんでしょうか……!


なんだかまたLevelmaker内でやりたいネタが増えてきて、1000話で足りるのかどうか不安になってきました。1100話とか1200話とか、もしかしたら行っちゃうかもしれません。

とりあえず、書籍化本が出版されるまでの間に予定通りならば25話以上投稿しますが、それまでに終わらないことだけは確実です。

今後ともよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る