第916話 ピピーの森再び

「おわっと」

「一瞬ねー」



 カナタに送ってもらった先には、ハート形の葉っぱの木にピンク色の鳥。うん、間違いない、ここは俺が目覚めた場所の付近だ。

 いやぁ……まさか地球に戻ることができるとは思わなかったから、当時はまず生きることを考えてたなぁ。



「ねえ、有夢。魔物の反応はあるけど姿が見えないよ」

「ん?」



 おっといけない。今日の目的は懐かしむことじゃなくてSSSランクの魔物の討伐だ。しゃんとしないと。探知をしてみたら確かに近くにいるはずなのに姿が見えなかった。こういうのは大抵、地面の中にいるものだったりするんだよねー。



「向こうも俺らに気がついてるはずだから探知をよくみてればなんとかなりそうだね」

「うん」



 表示されている相手はこちらに向かって駆けてくるように移動してた。もし地中であれば俺とミカの真下で止まって下か攻撃して来るとか……。



「きゃっ!」

「ミカ!?」



 しかしそんなことはなかった。途中で止まるどころか反応は俺らを駆け抜けて行き、そしてその反動としてなのかミカが飛ばされたように転んだ。ステータスは展開させてあるから、今の吹っ飛ばしは俺ら以外ならかなりのダメージを食らっていたか死んでいたかに違いない。

 当の姿が見えない反応は俺らより数メートル離れたところで停止している。



「ってて……」

「大丈夫?」

「痛み自体はないよ。ステータスとアイテムのおかげ。それより、これは地面の中にいるんじゃなくてさ……」

「わかる、透明なんだね」



 そう言うと、その言葉が伝わったのか反応はバックステップするように俺らから距離をとった。あっているみたいだし、SSSランクの魔物らしく人の言葉もわかるみたいだ。

 ファフニール・ロットの時みたいに話しかけてはこず、いきなり攻撃してきたと言うことは遠慮なしに倒しちゃっていいよね。

 それに今の攻撃でミカのステータスが並みのSSSランカー程度なら大怪我を負ってたんだから。尚更許さないよ。



「先に攻撃してきたのはそっちだよ。遠慮なく倒させてもらうね」



 自慢の自作の剣を抜き、透明な存在に向かってそれを振るう。斬撃はまっすぐと飛んで行き被弾した。回避できるわけもないんだけどね。透明だった存在は今の攻撃によって技が解除されたのか、その姿を現した。



「おお、モフモフ!」

「ダメだよ、あれは触っちゃいけない凶暴な犬だからね」

「……わかってるよ」



 その正体は犬。俺がこの森で生活していた頃、ダンジョン内でもダンジョン外でもお世話になった犬の魔物系。

 SSSランクの魔物の反応に引っかかったんだか、こいつは黒兵犬や銀臣犬といった奴らの最終形態だろう。

 姿は俺にとって最初のダンジョンのボス、虹帝犬をそのままふた回りくらい大きくして、あの真っ白だった毛並みのところどころに黒い波模様がついている感じ。特に脚は全部黒く染まっている。白い毛が虹色に光っているのはそのままだけど、黒い毛は黒紫色の光の粒子を飛ばしている。陰陽一体がテーマって感じかな。



【なるほど、明らかに格上】

「その通り。さっきも言った通り、倒させてもらうからね」

【何故か蘇ったはいいが、すぐに倒されるとは……無念極まりない】



 諦めた様子の犬に近づき、心臓をヒトツキ。

 俺の探知からSSSランクの反応が消えた。



「モフモフ……」

「気持ちはわかるけどね、あまりに危険なモフモフだよ」

「いいもん、帰ったら有夢をモフモフするもん」



 むしろいつもモフモフなのはミカの胸の方……っと、いくら結婚を約束してる仲でもセクハラ発言は控えたほうがいいね。それにモフモフじゃなくてムニムニだし。



「俺はモフモフできないよ。スベスベモチモチではあるけど」

「モフモフなコスプレさせるからいい」

「あ、ああ、そう……」



 やれやれ、帰ったらイチャイチャか。楽しみだな。それはそうと犬の最終段階らしきこいつを鑑定してみた結果、『色神犬]って名前だとわかった。黒、灰、銀、金、虹色と続いたシリーズは最後に決まった色ではなくなるんだね。

 虹色と今回の間にいるはずのSSランクの犬を知らないけど、まあ、今は気にすることでもないかな。



「よし、それじゃあ家に帰る前に、有夢がお世話になったって村を見てみましょう」

「いいの? 家に帰ってモフモフするんじゃないの?」

「モフモフしながらエッチに持ち込むつもりだから、それより前に私的に気になるそのピピーの村を見てみたいの」

「あ、ああ、そう……」



 やはりそれに持ち込むつもりだったか、ミカめ。まあ……いつでもウェエルカムだけどさ。

 色神犬の亡骸を回収した俺とミカは、お散歩がてら村まで普通に歩いて向かうことにした。森の中を歩くのはなかなか楽しい。それにここは基本的に強力な魔物は出てこない。



「ここで生活してたんだもんねー」

「うん、サバイバルだったよ。飲み水とかは魔法でなんとかなったけど、それ以外がすごく大変だったんだから」

「私もラハンドさん達に早く発見されなかったら、死んでたか同じことしてたわ。よく長い間生き延びれたわね? ゲームばっかりしてアウトドアなんてしなかったのに、さすが有夢」

「えっへん!」



 今思えばあの時の俺は凄まじかったよ、確かに。あと1ヶ月は人と触れてなかったら野生児になってたかもしれない。

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