第876話 森林浴 2 (翔)
「それにしても……」
「わふぇ?」
案内人が今度は胸じゃなくてリルの顔をじっと見ている。リルは再び首を傾げた。
「リルさんはお美しいですね」
「いやいや、私なんて。そう言う君の方が」
「私は母がエルフなので種族上当然と言えば当然です。フエンさん、謙遜なさらないでください。美人に見慣れた私ですら貴女のことはとっても美人だと思います。……どこかにエルフの血でも混じっていますか?」
「わーふー、私、両親のことはわかるけどお爺ちゃんやお婆ちゃんは全く知らないんだよね。そう言ってくれるならたしかにどこか混じっている可能性もあるね?」
俺が昨日考えた通りのことだ。やっぱリルは美人だよな……美人っていうより可愛い、か。自分の彼女が褒められるのはやっぱり嬉しいぜ。
しかしエルフの血が混じってる人からもそう言われるなんてな。やっぱりそうなのかもな。
「それと………」
「わふ?」
「あの、個人的に聞きたいんですけどこれ。……お客様へのサービスの雑談とかじゃなくてほんと、個人的に聞きたいんですけど」
「わふ」
案内人はリルに耳打ちしている。あの反応を見るからに胸のことで相談しているんだろう。たぶん、この子と俺らは1つか2つぐらいしか歳が違わない。おそらく向こうが上な。
「なーるほどぉ……」
「お、親からの遺伝とかなら諦めるんですが……」
「あるよ、方法」
「ほんとですか!?」
「うん。えーっとねぇ……」
リルはバッグから紙を取り出し、器用に何かを書いている。5分ほどたち、数枚の紙を彼女に渡した。
「まずはこの紙の一枚目の内容を毎日、朝昼晩の3セット、5分ずつ続けてね。そのあと二枚目、三枚目と移って行って」
「ありがとうございます!」
すげー感謝してるな。俺はリルが俺のために(もともとデカイにも関わらず)胸を大きくしているのは知ったが、ここまでしっかり研究してたのか。
あれだけ整体もうまいんだ……かなり効果のある方法なんだろう。
「まさかお客さんから教えてもらえるとは……」
「私もまさか聞かれるとは思わなかったよ」
「な、なんか詳しそうな雰囲気だったもので、つい」
「勘がいいねー」
一応ヒソヒソ話だけど、男性客の前で胸の話なんてしていいものなのだろうか。あー、そういや新人だとか言ってたな。あんまり気にしなかったが……ただ、淡々と説明を受けるよりこういう交流があった方が楽よな。
「……はっ! す、すいません! 私的なことばっかり……あ、案内を続けますね!!」
俺ら一行はまた案内を受けながら歩き始める。
伝統のあるエルフの森ってのは、どこをどう歩いても別の森より神秘的というか、趣があって癒される。
森林浴の趣味なんてなかったが、この場所なら1日滞在するなどしてもいい。
「来て正解だったね?」
「おう。前々からここに来たかったのか? 今回の旅行先はリルが決めたわけだが」
「うーん、半分正解かな。森が有名なところに行きたかったんだよ、とにかく。こんないい場所とは予想外だけどね」
俺たちは満足しながら、もう少しで折り返し地点だという案内を受けながら歩いて行く。
しかし、案内人の子が途中で足を止めた。
「どしたんだい?」
「いや……何か………」
「んー? 魔物でも来てるのかな? 探してみよっか」
俺とリルはなにか周囲に反応がないかを探してみた。
虫の知らせってのは本当にあるからな、気のせいだとか言えないのがこのアナズムの怖いところでもある。
2分ほどその場で立ち止まって見てみた……そして、とんでもなくデカイものが1つ、反応に入った。
これはそいつ自体がデカイんじゃなくて、その強さを示す反応がデカイんだ。
「ショー……これ、あの時より反応が強いよね?」
「ああ……あの時よりな」
俺たちが崖下へ吹き飛ばされた、あの時の反応をしっかり覚えている。ぶっちゃけあれのおかげで今の俺たちがあるんだが。
そしてその時より反応が強いということは……最近噂になっている存在、SSSランクの魔物だろう。
「あ、あの、私は全くわからなかったんですけど、なにかありました?」
「うん、ちょっとやばいよ。逃げ……いや、私達から離れないで」
「だな、それが一番安全だ」
「えっと……それで一体……」
「パニックにならないって約束できるなら話すけど」
「……どっちにしろパニックになりそうだ。教えてやったほうがいいだろ」
「それもそうだね……。突拍子もないけどね、SSSランクの魔物が現れたよ」
「えっ」
ポカンとした顔をしている。そりゃそうだ。
きっと隕石が落ちてきた時の俺たちも同じような顔をしていただろう。本かなんかで読んだが、SSSランクなんて存在は生き物じゃなく災害そのもの……らしいからな。
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