第868話 謝罪合戦 (叶・桜)
「ところで、こいつはどうしてくれようか」
心臓を抜かれ、倒れているダーキニー亜種をみてラーマ国王はそう言った。
「ここまで人に近づいた人型の魔物は何かの素材にすることも難しいですからね……」
「とりあえず余のマジックバックに入れておき、城に帰ったら部下たちとどう処分するか考えるとしよう」
ラーマ国王は持ってきていた自分のバッグの口を開け、ダーキニーを心臓も残さず全て回収する。
「よし。しかしなぜ此奴は復活したのだろうか。村の誰かがやったとも考えにくい」
「そのことについては一言も言ってませんでしたからね、ダーキニー。わからないままです」
「せめて聞いてから倒せば良かったか? いや、あれほど強力な術の前でそんな余裕はないしな」
しばらく悩んでいたが、彼はすぐに二人の方を向き、もう一度礼を言い始めた。
「とにかく、何度でも言おう、助かった! SSSランク亜種を討伐した正規の報酬を今度メフィラド王国に送ろう」
「わかりました、受け取っておきましょう」
「それですまぬが、もう一度あのビュンと移動するやつをやってくれぬか? 場所は宿屋の中でいい」
「はい」
桜とラーマ国王は叶に捕まり、叶はいつも通り瞬間移動をして宿屋のプラチナルームまで戻ってきた。
そのあとラーマ国王はすぐに部屋を出て城に行くといい、そこで叶と桜と別れることに。
二人だけになった途端に急にまた重い空気が二人に流れ込む。自分たちの部屋に帰った叶と桜はしばらく顔もあわせることができないでいた。
「…………」
「…………」
「ね、ねぇ……」
しばらく続いた沈黙を破ったのは叶だった。話しかけながら、ぎこちなく歩き桜の隣に座る。しかし、未だに顔も身体も直視することができないでいた。
「な、なに……」
「あの解術って……どう言うものだったの?」
「これみたらわかるよ」
桜は叶にトズマホを手渡した。そこには夜叉系、ラクシャーシという魔物の説明表示されている。
叶はその説明をきちんと読み込みんだ。
「……なるほど」
「……そ、その……キスは毎日のようにしてるし……は、裸も見られてたし……か、身体だって私からだけど毎日触れてるし……だ、だから、その……何もつけてない身体を触らせるしかないと思ったの。敵はSSSランクだったからそれに書いてる解術方法より強力じゃないといけないって考えもしたかな」
「そっか」
「今思えば、胸じゃなくて良かったと思うし、そもそも一人で倒せたし……は、恥ずかしい……」
顔を真っ赤にする桜。
叶も話を思い出して鼻血が出ないようにし、顔を真っ赤にして我慢しているが、自分も言わなきゃいけないことがあるので頑張って喋ることにした。
「お、俺だって油断してたから。そしたらそもそも桜にあんな恥ずかしい思いさせなくて済んだんだ」
「そ、それは仕方ないよ。魔力で性別まで気がつかれるなんて普通思わないし」
「いや、これは完全に俺の落ち度だ。なんて謝ればいいか……本当にごめん」
許さないと言ったら自傷し始めそうなくらい反省していることを感じ取った桜は、自分も悪いと言うより、励ました方が良いと判断した。
「い、いいわよ! うん……あ、相手がかにゃただから実行したわけだし。気にしないで。そ、それより血を出しすぎて死ななくて良かった、私そっちの方が……」
「違うんだ桜」
「え?」
「あれ、あの魔物の特技や効果なんかじゃなくて、俺の問題なんだよ」
「え?」
励ますつもりがさらに叶は暗い顔になって行く。桜自身もあの出血が魔物とは関係ないと聞き、目をパチクリさせていた。
「人は興奮しすぎると鼻血を出す」
「それはまあ……知ってるけど。流石にあの量はありえないんじゃ」
「俺だってそう思うよ。前の旅行の時まではあんな風になるなんて思ってなかったんだ」
「まさか恥ずかしくて知られたくなかったのって……」
「そういうこと。いくらなんでも、あれは恥ずかしい」
「わ、私の裸に興味がなかったわけじゃないんだ」
焦るどころかそれを聞いて桜はホッと安心した。そしてちょっと先程までよりは落ち着いた気持ちで話を続ける。
「あれかー、他の女性に興味を持てず、私達の年齢の他の男子より欲求が少ないから……そのしわ寄せ的な」
「おそらく。引くよな……」
「なんでよ、もう……ふふふ」
なんだかおかしくなって来た桜は、一旦深呼吸をして、勢いよく叶に抱きついた。
「何も心配しないでかにゃた」
「うん……?」
「私のことが好きすぎてそうなったって事でしょ? だったらそのことで責めたりなんかしない。む、胸を触らせたことだって手段として反省はしているけど、叶に触らせたこと自体は後悔してない」
「うん」
「だ、だって……大好きだもん」
それを聞き、ハッとする叶。数秒間膠着した後桜を抱きしめ返した。
「ありがとう……ごめん」
「えへへ」
数秒間黙ったまま、二人は抱きしめあった。ただ、叶は胸に当たらないように自然と体を浮かしているが。
その間に桜はふとあることに気がつき、こう言い始める。
「あの…かにゃた、ひとつ気になったことがあるんだけど」
「なに?」
「裸を見ただけでああなるってさ……私達、高校上がってから……つまりあと1年半もすれば……する、のよね?」
「うん、そうだね」
「私の裸見るたびに鼻血出すの?」
「あっ」
「……………な、慣らしてこう?」
「えっ」
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