閑話 コーヒー同好会(?)

 ここはとある、頭のいいことで有名な高校の一室。

 そこに何人もの生徒が集まっていた。誰もがその手にカップに入ったコーヒーを持っており、それをうまそうに飲んでいる。全て同じカフェチェーン「ツリーコーヒー」のコーヒーであった。



「んんー、やっぱりここのコーヒーは至高ですな」

「そうだな……」



 イケメンだが残念な口調で話す男子と、その男子と同じクラスで身長が一番大きい男子がコーヒーを片手に気持ちを落ち着かせて味を嗜んでいる。

 この部活動の名前はコーヒー同好会。一般的なイメージのコーヒー豆の研究などは全くせず、「ツリーコーヒー」のコーヒーをひたすら飲むというのがおもて面の主な活動だった。

 メインの部員は35名だが、サブとして入っており名前だけでも連れている者はこの高校のおおよそ5分の1を占めている、マイナーな同好会にもかかわらずとても大きな部活である。



「しかし、こうして美味しいコーヒーを飲めるのも、全て大天使様のおかげ……」

「だな、曲木のおかげだな」

「ああ、山上殿はコーヒー目当てで入部したのでしたな」

「そうだ。美味いコーヒーがいくらでも飲める同好会があるって知ってな。たが、この同好会の本質がまさか……」



 山上と呼ばれた高身長男子はいつでも着脱可能なボードを見た。そこにはこの学校のアイドルの一人であり、大天使の異名をもつ曲木美花の写真が貼られている。



「そう、美花殿を崇めることを目的として設立されたこの同好会……本当の名前は『ミカちゃんファンクラブ』。まあ山上殿のようにコーヒー目当ての人も結構いるでござるが」

「曲木と話題を作るために、あいつの親父さんの会社のコーヒーを買いまくってたらいつのまにかコーヒーの同好会になってたなんて笑わせる気かよ……って最初は思ったね」

「しかし結果的に悪くなかったでござるよ。美花殿がここの存在を知ってくれた上に、彼女を経て父上殿がこの同好会あてに試供品の配布や試作のコーヒーを飲ませてくれたり、割引券や無料券だって配ってくれるのですから」



 残念なイケメンはにこやかにコーヒーをすする。



「物事はどう進むかわからんねー」

「そうだ山上殿、貴殿はこの学園アイドルの同好会に1つも入っていませんが、推しはいないのですかな?」

「あいつら3人とも友達としては普通に好きだけど……なぁ、そういう目で見る気にはなれないよ」



 ドヤ顔でそう言う山上を、残念なイケメン、略してイケザンはおちょくってみることにした。



「なるほど、やはり噂通り幼馴染である佐奈田殿のことが……」

「バカ、今の会話に一言でも佐奈田って出て来たかよ……」

「なに、呼んだ?」

「「うわっ!?」



 二人の真後ろにはいつの間にかポニーテールの情報通の美少女が経っていた。メモ帳を持ちながら不思議そうな顔をしている。



「つっと、なんでお前はそう自由自在に存在を消せるんだ……。普通にしたら存在感やばいのに」

「昔からの特技だってあんた知ってるでしょ? ……それにしても、相変わらずここは平和ね……あゆちゃんファンクラブとはえらい違い」

「当たり前ですぞ、佐奈田殿」



 目を光らせながらその言葉にイケザンが反応する。そのファンクラスにどうやら嫌悪感を抱いているようだった。



「あそこはファンクラブだなんて銘打っておきながら、盗撮行為は当たり前の最低な場所。本当のファンなら絵画のように一定の距離から見物し、応援するべき時にのみ応援するのが本当なのに」

「わかるわ。あゆちゃんが男だからまだ許されてる感あるけど、更衣室を除いたビデオとかの対象が美花ちゃんだったら確実にアウトだもんね」

「あゆちゃんでもアウトも、アウト、大アウトですぞ。あれには激しい怒りを覚えましたな。……犯人の下田という輩、停学処分まで追い込んだことはナイスでしたぞ」



 えっへん、とドヤ顔をする佐奈田。しかし山上はそれを心配そうに見ていた。



「でも大丈夫なのか? そういう奴ほど仕返しとかしてきそうだが」

「私を誰だと思ってるの? バレるわけないでしょ、あんな低俗に」

「おや山上殿も心配することがあるのですな。やはり……」

「ち、ちげーよバーカ」



 さっきよりよく見ないとわからない程度で顔を赤らめて言葉を遮った山上にイケザンはため息をつく。そしてビニール袋からまだ口がつけられていないコーヒーを取り出した。



「はぁ……ツリーコーヒーに寄った際、いつも佐奈田殿の分まで買ってくれのに、それで否定されても……あ、山上殿の奢りですぞ佐奈田殿」

「わーい、いつもありがとっ」

「べ、べつについでだからな、ついで」



 佐奈田は山上のとなりにほぼ無意識で座り、コーヒーを飲み始める。山上はそれを気にする。そんな二人の様子をイケザンはじっと見ていた。



「まあ、何かあっても山上殿が守ってくれるでしょうな、佐奈田殿。最終兵器には火野殿を呼び出せばいいわけだし」

「んー、まーそうね?」

「な、なんで俺がこいつのこと守らなきゃ……!」



 

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