第861話 観光二日目のトラブル

「かにゃたー、えへへー! あ、あのパフェ食べたい!」

「うん、食べてきなよ」



 ブフーラ王国の観光二日目。前日、二人はこの城下町の真ん中辺りまで行ったため、この日は宿の周りを探索していた。やはりどこもかしこも屋台と見世物ばかり。

 叶は桜が変なことを言い出したけれども、概ね、この国に観光にきて成功だと考えていた。



「昨日から一体いくつ食べた?」

「叶のことだから覚えてるでしょ?」

「まあね」



 とても両手両足では数えられないだけ桜は屋台を巡っていた。

 さらに夕飯に甘味がこれでもかと運ばれてきたため、普通の人ならば体重が昨日の時点で1~2キロは増えてるはずなのだが、流石の本人も気になって入浴後に体重計に乗った結果、いつも通りなにも変わってなかった。

 故にこの日はもっと食べると決めていた。

 自分の一番好きな人を疑ってしまうだなんて変なことをごちゃごちゃと考えて、食べることだけに集中できなかった分。



「次はアレ!」

「もう食べたの……」

「いくらでも入るわよ!」



 次々と屋台をめぐって行く二人。やがて宿の周りにあった甘味系の屋台は全て行ってしまった。

 


「すごいな……本当に食べ尽くすなんて」

「満足ぅ」

「正直、桜の胃を舐めてたかもしれない。そろそろ別の地域に移動しようか」

「そだね!」



 今度は出し物をメインに寄っていくと決め、昨日に続き再び街の中央に向かおうとした。

 しかしその移動中、叶が、顔がよく見えないほど布を全身に纏わせた慌てた様子の男性とぶつかってしまう。



「おわっ」

「ぬおっと……ああ、すまない! 急いでいたものだから」

「いえ、お気になさらず。そちらこそ大丈夫ですか?」

「大丈夫だよありがとう! では! ………んんっ!?」



 その全身が隠れている男と叶達は別れた。

 そのはずだったのだが、すぐに男は何かに気がついたように、もう一度叶と桜の方を向き近づいてくる。二人は声もかけられた。



「な、なあ、すまない!」

「どうかしました?」

「そのクリッとした目と可愛らしい唇! 余がわからないはずもない……アリムちゃんじゃないか!?」

「え?」



 そういうと男は勝手に頭部に巻いていた布を取り、その顔面をあらわにした。その顔には叶も、桜も見覚えがあった。



「余だよ、余! ブフーラ王国国王であるシュナ・ラーマだ!」

「えっと……」

「そうだ、特にミカちゃんなんて言い逃れができないほどミカちゃんではないか! ふっ……変装をしているつもりだろうが余はお見通しだぞ! なにせ『アリミカを愛でる会』の特別名誉長なのだからっ!」



 自身の存在も周りにばれたくないのか、終始小声で、しかしハイテンションで感激し続けている。

 


「それによく澄ませば感じる、溢れ出る無限にも思える魔力……! これはもう否定はできまい?」

「あの、人違いなんですけど……」

「なに? そんなバカな。あっ、そうか……いま我が国を観光デート中か……。だから否定するのだな。邪魔したな、ごめん」

「本当に人違いなんですって! ラーマ国王様」

「なにぃ……。でもそっくりではないか」



 勘違いしている対象は実の兄と姉であり、兄弟である自分らは本人たちと勘違いされても仕方ないだけあり、かなりめんどくさいと叶は感じた。



「そっくりなのはよく言われますけど、俺たちは別人です」

「そうなのか」

「そして魔力に関しても、勘違いする要素になるのは仕方ないです。俺たちはこういう者でして。ほら、桜も出して」

「うん」



 叶と桜はラーマ国王に冒険者カードを提示した。もちろんそれはSSSランクと書かれている。所属はメフィラド王国。

 しかし苗字の部分だけはとっさに幻術で見えないようにしていた。勘違い元のアリム達と苗字が一緒なので、また話がややこしくなるからだ。



「そういえばメフィラド王国には名前も顔も一般に知れ渡っていないSSSランカーが複数人いたな。そのうち二人か」

「はい」

「アリムちゃんとミカちゃんにそっくりな同じSSSランカーのカップルなど……まさか影武者か!?」

「それも違いますよ……」

「す、すまない。にしても一方は性別すら違うとは」



 素直に謝る若い王様に叶は初対面というわけではなかったが好感を抱いた。



「いえ、勘違いなんて誰にでもあるので」

「そうだ……アリムちゃんとミカちゃんではなかったとしても、それとは別にSSSランカーとはじっくり話をして見たいのだ。どうだろう、今夜、余の逃げ出した先……じゃなくて羽を伸ばすために泊まっている宿に遊びに来てくれないか? 『パールヴァ』という宿の最上階なのだ」

「えっ……」



 その宿屋、その宿屋こそが叶と桜の宿泊している宿だった。そしてその最上階は一部屋しかないプラチナランクの部屋。すなわち予約が取れなかったのはラーマ国王が居たからだった。



【ど、どうする桜。同じ宿屋だけど……】

【お姉ちゃん達の熱狂的ファンだけど、一応王様でしょ? お呼ばれされた方がいいんじゃないの?】



 二人は行くことに決めた。夜に訪れるとラーマ国王に告げ、その場で別れる。デート続行。

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