第803話 焼肉 (翔)
「わふーん、ついにこの日がやって来たね」
「ああ」
明日は学校が始まって初めての休み。
つっても、始業式が木曜日だったから変わったことでもねーけど。問題なのは昨日、佐奈田や有夢達が言ってたことだ。
イケメンだと評判だとといわれてもよ、「俺が……?」って感じなんだよな。マジで。リルはよくかっこいいって言ってくれるけど、それは彼女だから。有夢や美花も前からたまに言ってくれていたが、それもおちょくってるんだろうと、そう思ってた。
……無視しちまった話とか結構あったのかもしれねーな。そう考えると申し訳ないことした。
考えにくいが、本気で思いを寄せてくれていたやつとか居たかもしれない。万が一な。
告白されてオーケーするかどうかについてはリルが居るからどっちみちありえねーけども。
いや、リルと会う前だったらどうなったんだろ。
……深く考えてもダメだな。リルとは互いの両親と挨拶をし、互いの初めても交換しあった。何より俺が心から愛しているからな。
俺が今まで気がつかなかったのも運命ってやつかもしれない。
「ショー行こうよ」
「おお。てかその服でいいのか? 臭いだとか汁が飛び散ったりすると思うが」
「これ、ついさっきクリエイトしたばっかりなんだよ。いくらでも作り変えられるから大丈夫! ……似合う?」
「ああ、かわいいぞ」
「わふー」
リルはニコニコしながら寄り添って来た。
今日はずっとこうするつもりらしい。自分の彼女ながらもはや有夢や美花、桜ちゃんとタメを張る(学校でも同じような評判だ)。
ふふふ、あいつらは羨ましいがることだろう。
そう、今日はゴリセンが優勝祝いに、全国出場したメンバーと、俺が任意に選んだ部員一人に焼肉を奢ってくれる約束の日。他の部員は自腹。
食べ放題と飲み放題で3300円。
そういうわけで指定された焼肉屋へ俺とリルはやって来た。なんでも、ゴリセンの高校の時の同級生が他の事業と一緒に経営しているらしい。つい最近オープンしたそうだ。
もうすでに何人か部員がいるな。
「部長、思ったより来るの早いな」
「剛田の方こそ」
「わふん、剛田くん、あけましておめでとう」
「フエンさん、あけましておめでとう。……部長、冬休みの間なにしていたんだ?」
「あ? そりゃー、リル含めた一家四人で、親父の実家に行ったが」
「わふーん、ジャパニーズお年玉もらっちゃった!」
そういや、リルはお年玉はじめてだっけ。あまりに自然にもらってたから気がつかなかったが。
「あと、ハツモーデ行って甘酒飲んで来たよ!」
「賑わってたな」
「わふん! 日本人は信心深い人がほとんどってのがよくわかったよ!」
「ちょっと違う気がする」
「確かに微妙だな」
早く言ってしまえばイベント好きだな。うん。
こうして話しているうちにメンバーが集まりだした。欠員は事前に連絡アプリで知っている。あとはゴリセンだけだな。
「……新年からアツアツですね」
「そうかもな」
リルが俺の腕に抱きついているところを見られたんだろう、一年生なのに団体戦で大いに活躍してくれた星野がそう言ってきた。
「彼女欲しいですよ……部長くらいイケメンならなぁ」
「前から言おうと思ってたが、部長……いや、火野の顔はずるいよな」
「最近よくそう言われるけどよ、それほどでもねーじゃねーか?」
「本当にそれほどでもなかったら世間で騒がれませんって」
こいつらまでそんなこと言うのか。
それにしても腕に抱きついてきているリルはずっとニコニコしていて嬉しげだ。なにがそんなに嬉しいことでもあったのか?
「おー、みんな集まってるな」
「ゴリセン! あけおめーっす!」
「あけましておめでとうございます!」
「今夜はゴチになります!」
「おうおう! あけおめあけおめ。優勝した記念だからな、遠慮することはない。……で、火野はやっぱりフエンさんにするのか?」
「はい。いいよな、リル」
「わふぇ、先生、本当に私いいの?」
「はははは、火野がそう言ってるんだ、遠慮すんな。…あと火野、あとでちょいとばかし話がある」
「わ、わかりました」
話ってなんだろうな、気になるな。
個別に祝いの話でもしてくれるんだろうか。それともまた別の何かか? 怒られるようなことじゃないのだけは確かだな。
「いらっしゃいませ」
「予約していた○○高校の柔道部ですが……」
「ああ、はい、時間通りですね! 準備はできておりますので、どうぞこちらへ」
内装はアジアテイスト。
肉のいい匂いがする。リルは今どんな顔してるんだろう。
「わふぇ…わふぇ……」
「リル、目が獣になってるぞ」
「わふん! ついつい。美味しそうな匂いで充満してるからね。今は普通の人間なのに」
マジで瞳孔が細くなっていたから驚いた。あんな目になることできるんだな。
……しかし食べ放題の焼肉か。地味に初めてなんじゃないか、リルを連れて来るのは。
いったいどれだけ食うんだろ。
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