第786話 アリム式降霊術 (翔)

 親父達が帰ってきた翌日。

 俺とリルと有夢は、例の幻転地蔵がいる部屋に入っていた。

 今からやることは、もちろん、リルの両親を生き返らせること。親父達のレベル上げを完成させる前に、こっちを優先したわけだ。

 

 ちなみに母さんと親父には、今日一日、いつでも来れるように待機してもらうことになっている。

 彼氏と彼女の親の対面をしなきゃいけないだなんてことになる可能があるだろうからな。

 


「で、アユちゃん、どうするの?」

「まずは身体を復活させよう。アムリタさえあれば身体だけ培養するのも完全に生き返らせるのも俺の意志一つ次第だからね」

「なかなかマッドだな」

「あはは、もう何千人生き返らせてるかわかんないけどね、この薬」



 有夢はリルから布に包んだ干からびた目を二つ、丁寧に受け取るとそれを床に置く。

 そして自動で、一瞬で服を着せる機械をそばに置き、アムリタをふりかけた。


 目から、人が作られてゆく。

 一瞬で完成したのは狼族にしては筋肉が足りない体型の男性と、髪の毛が腰の半ばまで長いこと以外はリルにそっくりの女性が出現した。



「……パパッ……ママッ……!」

「ああ、リルちゃん、まだ飛びつくのは待ってよ」

「わ、わふ、ごめん」



 俺はリルの手を握っておいてやる。リルは泣きそうなのを我慢しているようだ。まだその時じゃないと思ってるんだろう。



「それで、この装置を取り付ける」

「そのヘッドホンみたいなのは……」

「魂だけ別で映像化して映し出す機械だよ」

「……一体どんな原理で作ったんだ?」

「さあ。作りたいと思ったら作れるから。ほら、そこのお地蔵様型ワープ装置もそうだし」



 普通は原理や仕組みがわかってないと作れないよな?

 まあ、ただの薬草からアムリタを作れる有夢にしちゃ、世の摂理や法則の無視なんて当たり前にできることか。



「じゃあリルちゃん、これを押したら3D立体映像でこの二人が出てくるはずだよ。覚悟と準備はいい?」

「わーふん! ばっちり」

「じゃあ、押すよ」



 有夢は手に持っていたリモコンのようなもののスイッチを押した。その瞬間、魂映像化機械からそこに倒れているリルの両親と全く同じ立体映画が、ヘッドホンみたいなやつの両端のレンズから放たれた光により、浮かび上がった。



「………目をつむってるけど大丈夫これ?」

「まだ眠ってるだけだから大丈夫だよ」



 リルは俺の手をぎゅっと強く握りつつ、両親の映像を凝視している。

 そうして………5分待った。

 母親の方が目を開いた。


 

『あれ……ここは……?』



 辺りをキョロキョロと見回している。俺たちの顔を見てから首を傾げ、さらに近くに倒れている自分の本当の体と、リルの父の身体と映像どちらも見て、耳や尻尾をピーンとまっすぐに立てた。

 あれはたまにリルがやる、狼族の驚愕の時のリアクションだ。



『な、なにこれ?』

「あ、目覚めましたか」



 つぶやきを始めリルの母親に、有夢は丁寧に声をかけた。



『わふ、なんなのこれ?』

「説明すると長くなりますよ」

『……そうだ、私達、あの子を残して死ん……で、なんでここに? どこここ? 説明……してくれるんだよね?』

「ええ、でも、もう一人も起きてから」

『ダーリン!』

「わふぇ……だ、ダーリン!?」



 リルが驚いている。自分の親が相方のことをそう呼んでることは覚えてなかったか、あるいは普段、子供であるリルの前ではその呼び方を自粛していたか、か。

 しかし、リルの母親は村一番の美人とか言われてたんだったっけか、たしかに村で一番……だなんて範囲にとどまらないくらクール系美人だ。さっきは気がつかなかったが、リルとは目元が違うんだな。

 ……そんな人がダーリン呼びだもんな。ギャップが。



『わふ……さ、さわれない!?』

「えーっと、一応今、幽霊みたいな状態なんですよ」

『私、幽霊!? やっぱり死んじゃってたのか』

『ん……んん…なんだ、どしたの』



 どうやら父親の方も起きたみたいだ。

 そういや、俺からしてみたらお義父さんと義お母さんってことになるのか?

 ちゃんと話すようになったらなんて呼ぼう。



『ダーリン、起きたんだね』

『……!? まてよ、僕たちは死んだはずじゃ…』

『それがこの女の子が、どうやら私達を幽霊として呼んだらしいの』

『わふ、幽霊? ……本当だ、身体が透けて……まてよ、僕の身体がもう一つそこにあるじゃないか』



 お義父さんはあれだな、狼族にしては言われてた通り、戦闘慣れしているような体型ではないな。



『君達、僕らを呼んだ理由はなんですか?』

「わふ……敬語……」



 なるほど、敬語が苦手な狼族なのに、それがスラスラ言えるってこともかなり他の狼族とは違うポイントか。



「それも何もかも全部今から説明します。えーっと、ショックを受けたりすることがあると思いますが、最後まで聞いてくれますか?」

『ああ、なんでこんな形で蘇らせられたか知りたいしね、しっかり聞きますよ』

『わ、私も』



######


昨日は投稿のし忘れ、申し訳ありません。

再びちょっと体調不良でして(´・ω・`)

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