第755話 リルの両親 (翔)

 前村長は怒りの表情をあらわにしている。が、俺の方を見て無理に微笑んだ。



「……さて、今の話について今の村長であるアングル夫妻について問わなければ。その前に、人族のヒノ、お前には感謝しなければならないな」

「俺はただ、偶然というか……近くにいたから助けたというか……」

「まさか情けでリルと付き合っているわけではあるまい?」

「ち、違います。それは本気です」

「んなこたぁ、表情見てりゃわかるさ。私が言う権利はないが、幸せにしてやってくれや」


 

 そう言われて、ほぼ反射で俺はリルの肩を抱き寄せた。当のリルは、目に涙をたっぷりと浮かべ、幸せそうに笑っている。



「リルはこのままこの男と一生を添い遂げるつもりか? もう忠誠の証は渡したんだったな」

「わふん! ショーがその気ならずっと一緒だよ!」

「いい男じゃねぇか、こんな上等な男は世の中に他にいねぇ。あとは……腕っ節があれば私からはもう言うことはねーがな」

「ショー、おじさんにも見せてあげて、冒険者カード」



 また冒険者カードを見せるのか。リルに頼まれたからには断るわけにはいかねーだろ。

 俺は前村長に自分の冒険者カードを見せた。



「ほう……わふん? おおっ、はははははははは! 冒険者カードは偽装できるもんじゃねーし……こりゃあれだ、心配なんざ微塵もしなくていいな! 性格だけじゃなく腕っ節も最強ってわけだ。よそから来たのに私を見て怖がらないのも納得だぜ」

「そうですかね? ありがとうございます」

「謙遜すんじょねーよSSSランク様! リルは男を見る目があるんだなぁ」

「わふ…わへへっ」



 そのリルも今はSSSランクなんだがな…。あまり自分のを見せようとはしないよな。

  


「……と、さて。リルの話した内容を私は確かめなきゃならん」

「……明らかに黒だってのはわかってるんですが、その場合、どうするんですか?」

「んなもん、落とし前つけさせるに決まってんだろ……なぁ?」



 ……会った時から思ってたけど、この人ってヤクザの偉い人っぽいんだよなぁ。どう見てもカタギではない、サングラスとか刺青が似合いそうな感じ。 

 親父が警察だからそんな人たくさん見て来たけど、結構いい人も多いんだぜ?

 それより落とし前の内容が気になる。



「リル、落とし前ってどうするんだ?」

「私も詳しくは知らないよ」


 

 そりゃあ知らなくて当たり前だろうが……どうしても気になっちまうな。俺は前村長の方をみた。彼は首を横に振った。



「落とし前は落とし前だ。まずは二人をフエン夫妻の墓に案内しよう。存分に今までの半生を報告をするがいい。その間に、私はアングル夫妻に問う」


 

 落とし前についてははぐらかされたが、前村長の家を出て、俺とリルは村の中にあった一つの木小屋に案内をしてもらえた。

 中はマジックルームで出来ており、棚にはかなりの数の仕切りがある。その一つ一つに袋が詰め込まれている。  

 そしてその袋に、名前と月日が書かれていた。 

 イメージしていた墓とは全然違うな。



「これは……」

「おう、これが俺らの村の墓だ。体の一部が詰めてある。心臓だったり、犬歯だったりな。……フエン夫妻が亡くなったのは12年前だから……っと、ここだな」



 前村長が立ち止まった。俺たちもそれにならう。

 目の前には、リルの両親の名前が書かれた袋が二つ。



「……すまねぇ、先に謝っておきたいんだが、この二人は魔物に襲われて亡くなった。12年前に、村に魔物の襲来があってな。ほとんど丸呑みだったんだ、二人とも。だから残っているのは得物だった武器の破片だけだ」

「そう……なんですか」



 もしかしたら生き返らせることができるかもしれないと期待し、アムリタを持って来たんだが……そう上手くはいかないか。 

 ついでに、降霊術セットのようなものも用意していてな、髪の毛一本でも残っていたらリルが死んだ両親としばらく話せるようにできたんだが……な。



「……リル、悪いな。なにか残ってなかったら俺はなにもできねぇ」

「わふ、いいよ。私の本当のママとパパとお話しして見たくもあったけど、こればっかりは仕方ないもんね」

「すまんな……私らは戦闘民族だから、体の一部も残ってない奴も多いんだ」



 リルは立膝をその場につけ、アナズム流の祈りのポーズをとった。そして、囁くように遺物の前で報告をし始める。



「……じゃ、私は問いただしてくるわ。そばにいてやれよ」

「はい」



 俺はリルの隣に座る。

 ……この旅が終わったら、俺はリルをどうしてやろうか。道中でもう、なにも断らないって決めたんだ。

 それにリル自体の心のわだかまりもなくなることだろう。

 ああ、ひたすらに愛してやるさ。 

 ここから全てが人生の本番だと思わせるくらいに。

 

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