第753話 リルの故郷 2 (翔)
「ということは、本当に墓参りだけが目的で、この村に住むわけではないんだな」
その質問に、リルはコクリと頷いて答えた。
「念のために奴隷の刻印が消えているかどうか見せてもらっていいか? 肩のどちらかに付けられるのは知っている」
「どうぞ」
リルは服を軽くはだけさせ、自分の両肩を見せた。注射か何かを受ける時みたいだ。
「確認した。男、同胞の解放に感謝する。……ま、彼氏だってのには納得いかないがな」
「強者こそが俺ら狼族や獅子族など戦闘に特化した獣人のモテる条件……。こんな軟弱そうな男に、こんな可愛い子が……」
おっと、それは聞きづてならない。
俺だって鍛えに鍛えまくってるという自負あるんだ。気がつけば俺は自分から腕をまくっていた。
「……!? そんな細身になんて筋肉宿してやがる!」
「な、軟弱というのは前言撤回しよう。しかしステータスの強さはどうかな?」
「安全かつ安心にステータスの優劣を決めるなら腕相撲だ。……ほら、そこに切り株があるだろ? そこで勝負だ」
リルはうち耳をしてきた。
ステータスありの腕相撲は、狼族の間ではよくやられることらしい。基本的に戦闘を行わない狼族の男もこれのために特訓することはあるのだとか。
「ショー……くれぐれも」
「大丈夫だって、怪我はさせない」
「ふんっ……! 狼族が人族程度に負けるものかよ! なあリルちゃん、もしこの男に勝てたらデートしようぜ!」
「お前、職務中だぞ……」
「わーふー、できたら……ね」
「言ったな!」
俺とリルをなんかナンパしてる彼とで、握手をして切り株に腕をつけた。つめてぇ。
もう一人の見張りが、俺と相手を取り仕切るみたいだ。
「……いいか、はじめっ!」
怪我をさせず、インパクトがあるような。
腕を押し切ると、相手は体ごと持ってかれたようでびっくり返った。
ま、あくまで怪我をさせないように、だからな。
本気を出したらこの山ごと破壊できるんだが。
「……いうまでもないな。やはり狼族、正しい選択をしているようだ」
相手をしていない方の見張りがそう言った。してきた方は伸びているぜ。
リルはすごく嬉しそうな顔をしているな。ドヤ顔ってやつだ。俺も期待に添えたみたいで嬉しいぜ。
「強いなあんた。……冒険者だとしてもかなり。ランクはどのくらいだ? 冒険者カード見せてもらってもいいか?」
すっげーワクワクした顔を浮かべながらそう言ってきた。リルも会ったばかりの時とかそうだったが、本能的に強い人間を求めてるのは変わらないんだな。
俺は冒険者カードを見せた。
彼はランクの欄に多分目を通したのだろう、若干苦笑いしながら丁寧に俺に返してくる。
「わふん、どうも失礼しました。いやいや、あいつが叶うはずもないですよね」
態度変えすぎだろ。
強いと分かったら敬意を払うとはリルに聞いていたが、ここまでとはな。それとやっぱりもSSSランクがぶっ飛んでるだけか。
「おーい、おいおい、待たせたな」
「遅かったじゃないか! この方々がどれだけ待たれたか!」
「……ん? どうしたのお前。あとあいつどこ行った?」
「そこでこの方に惨敗し、伸びている」
前の村長を呼びに行った見張りが戻ってきた。
この状況に首輪を傾げながらも、彼は話を続けた。
「へぇー、あいつがあんなに……あんた強いんだな! 歓迎するぜ!」
「わーふー、強いだなんてものではないぞ……」
「そうなのか。いや、それより聞いてくれよ、その……ヴォルフ・フエンとフローズ・フエンの名前に爺さん、聞き覚えがありまくるみたいでさ、墓参りしにきたあんたらに直接会ってみたいって言ってきたんだけど」
それを聞いたリルはまた顔を陰らせた。
前村長ってのは多分、面識があるんだろう。うん、なんやかんやいってリルが死んだことにされていたのは十二年前だ。
この村の任期次第では、前の村長と何かしらの面識があって当たり前だな。
「わふ、わかった。言いよって行ってくれるかな?」
「了解した。おーいじーさん、良いってよ! そっち連れてくわ! ……長いこと外に出しちまったな。村に入って良いぜ」
ついに俺らは村の中に入った。
村自体は特に変哲がないな。寒い気候に合わせてある程度で代わり映えはしないな。
いや……軒先に武器を置いてる家が多いのは戦闘種族ならではか。
外からの客人、それも人族の俺は基本的に歓迎されないようで、入口の側にいた狼族からは敵意の視線が向けられちまった。
つーか、狼族の子供って……普通の子供獣に耳生えてるだけだが、愛らしさが違うな。
ちっこい頃のリルもあんなんだったんだろうか。
写実とか残ってないかな? 可愛かったんだろうな……今もすっげえ可愛いけどよ!!
あとリルと同じように色白で美男美女も多い。その中でもリルは美人なんだな。
平均的に考えて地球より顔がいいこの世界で、さらに顔がいい方の種族の中でもさらにリルは美人……か。
そりゃ、学校での周囲の評価も、ミカや有夢と貼れるって判断されるわな。
俺が3人ともそれぞれを見慣れすぎてて感覚が麻痺してるだけか。
「爺さん、連れてきたぜ!」
「ご苦労。……よくきたな、同胞と人族の少年。二人に聞きたいことはたくさんあるが……まずはうちの中に入りなさい。温かいココアミルクを出そう。お前らは仕事に戻りなさい」
そういうと、前村長は周りより大きい家の中に入って行った。見張りたちは渋々仕事に戻ってゆく。
俺とリルは言葉に甘えて、入らせてもらうことにした。
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