第751話 雪の村の氷騎士 (翔)

「ど、どどどど、どうしよう!」

「そりゃあんた、逃げるしかないよっ!」



 これが普通の人の、Sランクの魔物に対する反応だよな、うん。



「わふぅ、何があったの?」

「いや、Sランクの魔物が出たらしい」

「それは大変!」



 リルが部屋から出てきちまったから、俺は説明してあげた。



「お、おお、お客さん達。悪いことは言わない…早くお逃げなさい」

「そうよ。ああー、もうこんなこと初めてだわ! 冬の間は警戒してるからまず村まで来ることないのに! きっと春が例年より遅いせいね」



 そうか、やけに寒いと思ったら今年は春が遅いほうなのか。そんなことも普通にあるんだな、アナズムでも。いや、そりゃ当たり前のことか。



「村の皆、集まるんじゃああああ!」

「村長の声だ……。作戦会議だろう。行ってくる」

「二人は逃げるか安全なところに身を隠しててくださいね!」



 慌ただしくして宿屋の二人は出て行ってしまった。



「どうする?」

「どうするったって、一応冒険者なんだし、仕事するしかないだろ」

「わふー、じゃあ作戦会議とやらに参加しようよ」



 俺とリルは外に出た。

 この村のほとんどの人間が、中央広場に集まっているようだ。



「事態は急を要するのじゃ! もう、目の前まで迫ってきておる!」

「今から冒険者に依頼を出すわけにもいかないだろ! マニアんねぇ! 金だって膨大にかかるんだ!」

「だったら狼族の村の皆さんに頼むのはどうだい?」

「……実はそれすら往復に時間がかかる。しかしそれしか手はないか……」



 高台代わりに木箱に乗っていたこの村の村長と俺たちは目があった。それと一緒に他の村人もこちらを見てくる。

 


「おお、旅人のお二人よ。……早くお逃げなさい、私たちももうじき逃げる」

「そうだ、せっかくきてもらって悪いが、もうだめだ。狼族を呼ぶ人以外、もう逃げるしかねぇ!」


  

 悲観し、泣き出す人も大勢いる。

 もったいぶらずに俺たちが討伐するってことを言うべきだな。



「あの……俺一応冒険者なんですけど……」

「……なんと!? それは本当ですか!?」

「ランクはわからねぇが、狼族を呼んでもらう役割を…」

「一応、冒険者カードを見せていただけますかな」



 俺は村長の近くまで行き、カードを手渡した。

 普段、グータラ生活してたら使わないのに、旅行となるとめちゃくちゃ使うな、これ。



「メフィラド王国のSSS……ランク?」

「………まじで?」

「嘘でしょ?」

「いや、間違いない。このお方はSSSランカーじゃ。冒険者カードの偽装なんて普通はできんからの」



 すっげー注目されてる。

 悪い気分じゃない…いや、でもめんどくさいなこれ。アリムとミカはこんなことしたりしてんだな。



「……先生方、どうか、どうかお願いしますっ…!」

「おおおおい、来ちまった、来ちまったよ……うわああああああ!」



 門兵か何かだと思われる人が慌てながらこちらに走って来た。そして足元からでかい氷柱か現れる。

 その人はすんでのところで回避したが……その後ろからは、トズマホの図鑑に描かれていた通りの姿の、ヘルアイスナイトが。



「ニンゲンドモヨ、ワガ ヒョウケン ノ サビニ シテスレヨウ!」

「跡形もなく吹っ飛ばして良いんですよね?」



 村長はコクコクと頷いた。

 ならば遠慮なしに唱えさせてもらおう。



「ファイヤーボール」



______

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「さあ、先生方、好きなだけ食べて行ってください。ええ、ええ!」



 俺とリルはもてなされている。目の前に広がる料理は……朝食のつもりなのにめちゃくちゃ豪華だ。

 流石の俺でもさすがに食い切れない。あ、リルは干し肉の類をたくさん食べてるな。食欲があるのは良いことだ。



「本当に、報酬はよろしいんですか?」

「ええ、仕事に来たんじゃなくて、こいつの里帰りと、俺が両親に挨拶するために来ただけですから」

「それはそれはありがとうございます先生。……なるほど、そういう理由で狼族の村にですか。ではせめて、案内致しましょう。あの村がやってきたときに、狼族の村長が挨拶しにやってこられ、また、何かある時のためにと村の場所を教えてもらったので、私なら案内できます」



 どうやら村長が案内してくれるようだ。

 俺たち二人だけで行けないことはないが、案内してもらった方が確実だろう。



「じゃあお願いできますか?」

「いえ、本当に村人全員の命の恩人ですからな、何なりとお申し付けください」



______

___

_



「ここですじゃ」



 かなりご高齢なのに爺さん、めっちゃ登山慣れしてた。

 リルは狼族だから言わずもがなだな。

 ……一番遅かったのは俺だったぜ、とほほ。


 それはともかく、ようやくリルの村に着いたのか。

 村の柵を眺めながら、リルは俺に抱きついて来た。寒さだけじゃない、明らかに震えている。


 どういう結果になるかわかんねーけど、リルにとって辛いことになるのは間違いない。俺が支えてやるんだ。

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