第736話 魔人お引越し
「じゃあ、さっそくお引越しさせに行こう」
1時間程度のいちゃつく猶予をシヴァにもらい、満足した後、俺はそう持ちかけた。
「ああ、待ったぞ。相変わらず仲が良いことだな」
「うん、待たせたね」
「それにしても本当にこけしに入れるんだな」
「なんか雰囲気が似てない? お地蔵様と」
「そうか?」
ともかく俺たち二人と一柱は転移するための部屋へと移動した。数畳ぶんの広しかない正方形の空間の真ん中に、幻転地蔵によく似た転移装置を鎮座しているこの部屋。
部屋の趣味はどちらかと言うとカナタに近い。
「で、どうやって取り出すんだ?」
「こうだよ」
俺はこけしの一つを幻転地蔵の中に、勇者の剣や槍を入れた時と同じように押し込んだ。
地蔵様は反応し、こけしを取り込んでくれる。
「これ、中で魔神を封印してるんでしょ? 魔神達にとってはどんな感じなのかしらね」
「んー、よくわかんないや」
「作った本人でもわからないのか」
「うん、たまにそんなの作っちゃうんだよね、えへへ」
しばらくしてお地蔵様はこけしを自分の中からほっぽり出した。正しくはこけしから自分で出てきたんだけど、細かいことはどうでもいいよね。
「木彫だったこけしが黒くなってるな」
「うん、この中にはスルトルが入ってるはずだよ。さ、もう一個やろう」
続いてもう一個のこけしを中に入れる。
しばらくして同じように、こけしは出て来た。今度は白くなってる。
「ふむ、これがサマイエイルだな」
「……そうだよ」
「あからさまに嫌な顔をするな。有夢の立場に立った場合の気持ちはわかるがな」
正直蹴り飛ばしたいくらいだけど、やめておこうね。
しばらくその二つのこけしを眺めてから、シヴァは俺に要求をしだした。
「なあ、私も立体映像の機能が欲しいのだが」
「え? まあエンチャントで一発でできるからいいよ。ただ、無闇やたらと姿を現されても困るから俺が許可した時だけできるようにするね」
「承知した」
ダークマターからエンチャントカードを作り出し、シヴァ犬の顔に貼り付けた。
うまく適合されたようだ。
「そろそろ魔神達がどんな感じかお話ししてみない?」
「ミカがいうならいいよ」
「二柱とも映像を出すんだろ? 私もいいか?」
「どうぞ」
こけしの頭頂部をボタンにしてあるからそれを押す。シヴァは俺の指紋認証。そうしたら魔神達の3D映像が飛び出してくるんだ。
飛び出してくるだけで相手が会話を求めてないなら映像が見えてるってだけになるけど。
「お、出てきた」
「おお……これはまさに私の本当の姿っ!」
最初に出て来たのはシヴァだった。
赤い身体に、かなりのイケメンな顔。ただ、インドの神様みたいな格好をして、さらには腕が何本も生えている。
……ちょっとラーマ国王に似てるかもしれない。
「いやぁ…映像とはいえ数百年ぶりだろう。感謝するぞ、あゆちゃん!」
「うん、まあ一定の範囲内でおしゃべりするか歩き回るかしかできないけどね」
「ヒャーッハハハハハ! おいおいおいおい、シヴァじャねーかッ」
お、次にスルトルが出てこれたみたいだ。
……ショーの時と同じようにドス黒い皮膚に白い髪、身体にはマグマが通っているような亀裂が生えている。
ただ、ショーには顔が似てない。
筋肉が結構ついてる点は似てるけど、顔は中性的のやはりイケメン。
「スルトル、久しいな」
「何百年ぶりだ? 一柱だけ別世界に送り込まれたんだよなァ! オオ?」
「私だけ落ちこぼれみたいに言うな。封印されてたのは同じだし、そもそも全員がこの子に捕まっているではないか。その程度、五十歩百歩というやつだ」
「ごじゅッぽゥひやッぽゥー?」
「向こうの世界の、日本という国のことわざだ」
魔神が諺言うだなんて、事情を知らなきゃ驚くだろうね。そして最後の一柱がやっと映像から出てきた。
「オセェゾ、サマイエイル」
「ま、まあ…な」
チラリと俺の顔を見る。俺は睨んだ。
サマイエイルの見た目は…戦争の時生き返らせた、何代か前のお姫様であるエルさんにそっくりだ。そっくりだけどどこか違うのはわかる。
サマイエイルはすぐに目をそらし、スルトル達と話し始める。
「久しいな、サマイエイル」
「うむ、久しいなシヴァ。ずっとみていたぞ、犬みたいな扱いをされてるところを」
「動けない貴様らよりは待遇が良いぞ」
「ケッ、一柱だけアリムちゃんに取り入りやがって! 神の威厳はネェのか?」
「だって可愛いし」
「それはわかるがョ」
二柱してこっちをみないでくれ。
べ、別に可愛いって言われても嬉しくないから。
「我が嫌われてるのは知っているからあまりしゃべらないぞ」
「ああ、その方が良いだろうな。ただ謝っとくなら_____」
「謝っても許さないよ」
「……だとよ」
許すつもりなんてサラサラないからね!
……そろそろ映像を切るつもりだったけど、もう少しお話を聞いても悪くはないかもしれない。
もう少しだけ話させてあげるか。
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