第728話 どうだった?
「おかえりなさーい!」
6人とも帰ってきた。
目立った外傷はどこにもない。怪我なんてせずに無事に初めての冒険者としての活動をこなしてきたんだ。見てたから知ってる。
「ただいま!」
「で、どうだった?」
「ゲームそのものだね、これは。ただ俺達自身がキャラクターだから自由度が高い」
「ただ、問題なのがゲームじゃないことですな。今日はワタッコしか狩ってないが、危険が隣り合わせなことには変わらない」
ショーのおじさんの言う通りだ。でも、そうしないと生活していけないから仕方ないね。
「でも楽しかったでしょう? あなた」
「まあな。警察業務をこなすようになってからはほとんど仕事しかしてこなかったし」
「あ、俺たちはゲームと同じように楽しませてもらってるよ。ありがとうね、有夢君」
「いえいえ」
そういや曲木夫婦が一番なにか変わったところはなかったな。おじさんが剣を振るって普通に倒してた。すでにSKPには振ってたのか剣さばきは初心者じゃなかったけど。
「でも、すごく久々に剣を握ったんじゃない」
「え? おじさん、剣の経験があるんですか?」
「あるのよそれが。小学生から高校生まで剣道をしてたのよねっ。確か…全国ベスト4まで行ったんだっけ?」
「高二の時に3位になったんだよ」
へー、そんなの知らなかった!
全国に展開する、すでに大手と言っていいカフェチェーンをたった1代で築きあげ、時たま敏腕経営者の一人に数えられるおじさんが剣ねぇ…。今までコーヒー入れてるくらいだと思ってたんだけど。
「じゃあ今スキルポイントとかは…」
「何もまだ使ってないよ。迷っちゃってね。ステータスはなんとか割り振ってるけど」
「私は弓を選んだもののからっきしだからポイントを振ったわ。あれだけですんなり当たるようになるってすごいのね」
たしかに普通は努力して手に入れるものをすんなりと得られるのはスキルのすごいところ。
「あっ、そうだ。ポイントを割り振っていないのに剣のスキルが上がってたんだけど、これってなんでかな?」
「説明し忘れてましたね。SK2の項目は本人の練度とかによって勝手に上がるんですよ。まあポイントを割り振った方が早いのはSK1と同じですが」
「ああ、通りで。体術と弓が上がってたと思ったら」
「私も剣じゃなくて体術が上がってたわ」
ショーの両親もスキルポイントを割り振らずにあんな動きしてたのか。単身でEランク……下手したらDランクまでなら倒せそうな気がしてる。
そう、Dランクといえばうちの両親だね。
「それて、今日唯一アクシデントがあったお父さんとお母さん、感想ある?」
「なに、何かあったのですか?」
「いえね、息子…じゃなかった、娘曰く、Dランクの魔物と遭遇してしまったようでして」
「はぁぁ…じゃあ、有夢君が助けに来てくれたと?」
「そうなりますね。しかしその前に倒してしまいましたが」
「おお、さすが! 昔からなにするかわからないね! どうせ今回もなにかやったんだろ?」
「ふっふん! その通り」
ミカのおじさんの言ったことが空耳でなければ、お父さんは昔からあんなびっくりするようなことしてたのかぁ。
俺とカナタの親だしね、当然といえば当然だねっ!
「となると、魔核を提出してDランクの冒険者に?」
「ええ、これでやれる仕事が増えました。レベルも上がってポイントも増えたし」
「俺たち3組の中で一番進んでるのはやっぱりお前だな。なんでもかんでもこなしてた昔のお前が懐かしくなったよ」
取り敢えず今日だけで親たちのいろんなこと知れたけどね。ミカのおじさんは懐かしんでるけど、若くなってるのもその一因だね。
「じゃあ、楽しんでは貰えたんだね?」
「まあね。今は、街で食事するだけでも楽しいよ」
「それは良かった!」
「あー、あと有夢と美花ちゃんがどんな扱いを受けてるかも大体わかった」
「だよねー。ポスターとかだらけだし」
そうか、もうどんな扱いをしてるか把握されちゃったか。そういえばお父さんとお母さんが冒険者登録したギルドって…。
「あの受付のアギトって人? すごかったなぁ……『あのアリム・ナリウェイとミカ・マガリギはここで冒険者になったんだぜ!』ってずっと言ってたもん」
「街中を歩いていても、アイドルや俳優は有夢君か美花ちゃんしかいないとしか思えないようなポスターの数々だったしなぁ」
「明日あたり、アギトさんに詳しく聞いてみるの」
げっ……アギトさん、すでに懐かしい名前だけど、あの人ってば俺がイベントの時は大体野次馬の中にいるからね、実は。
雑誌も全部買ってるみたいなことも小耳に挟んだし、あの人に尋ねたらすぐに俺たちがどんなことしてきたかわかっちゃうね! まあ、説明の手間が省けていいんだけど。
……だけど、ね。
「ぜーったいに、自分の息子だとか、実はボクが男だとか言っちゃダメだからね?」
「わかってるって」
「あ、そうた有夢! あとであのポスターでしてた服装見せてくれない? ママ、直で見て見たいなー」
ああ、お母さんの俺に女装させる趣味も発動してしまったか。忙しい。
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