第660話 バス移動
「わぁ…ふう、なんだか疲れたよ」
「仕方ないよな」
俺とリルはテストが終わり次第すぐにバスの中へと移動した。続々と他の部員も疲れた顔をして乗り込んでくる。
テストがどーだのあーだのばっかり聞こえてくるな。まあ、あたりまえか。
ちなみに俺とリルは満点の自信があるぜ!
有夢と美花も満点取れてる自信があるそうだ。叶君と桜ちゃんもきっとそうだろう。これで心置きなく全国へと望めるってもんだ。
「畜生、なんだよこのハードスケジュールはよ」
「おう剛田」
「ああ、部長とリルさん。ここ邪魔するぜ」
剛田は道を挟んで俺の隣の席に座った。
ちなみに一人で2席は占領できるくらいのスペースは余裕である。しかし、俺とリルはもちろん隣同士だ。
これでいつでもイチャつける。……いや、そもそも全国の会場までここからバスで5時間だ。5時間も離れ離れとなると流石の俺もきつい。
周りの目はあるが、部員の中にはリルに色目を使う者も多い。この際、リルは俺の彼女だってことをさりげなく表明するのもアリか。
「んで、火野とリルさん。テストはどうだった?」
「かなり高得点が取れてる自信あるぜ。もしかしたら学年の上位ランキングに載るかもな。リルと一緒につきっきりで勉強したからよ」
「わふん…まあ自信はあるよ」
「あれだけ部活頑張って、さらに彼女とみっちり勉強までしてたのか。頑張るな」
「まあもう、来年は高等部の3年生だしな。そういう剛田はどうなんだよ」
剛田は言いにくそうな顔をする。
確かこいつ、テストの点数は毎回平均より少し下じゃなかったか。
「ぶっちゃけると、過去最低だぜ」
「……まあ仕方ねーよ。このハードスケジュールだし」
「だよな? 赤点でも俺は悪くねえよな?」
「……ああ」
「お、お前ら揃ってるな」
最後にゴリセンがバスに乗り込み、一番前の席に座った。俺達の席の二つ前だ。ちなみにその間はだれも座っていない。
「おい、そろそろ出発するが、忘れ物はないな? しっかし、テストの後に5時間バス移動、そして明日には大会だ。疲れが半端じゃないとは思うが…全国大会、頑張ってくれよ」
「「「うっす!」」」
ゴリセンのその合図とともにバスは動き出した。
くぅ…これから5時間座りっぱなし…いや、道の駅とかには寄ると思うが…きついな。
「わーふっ」
「おっ」
リルが俺の肩に頭を置き、さらに腕に抱きついてくる。いつものやわらかくて素敵な感覚が……! ふっ、まあリルが居れば癒されるし5時間なんて余裕。疲れることなんてないな。
「リル、5時間このままか?」
「なるべくね。きつくない程度に。いいかい?」
「そうか。いいぞ」
ずっとこのままでいてもらっても俺は構わん。
「……いやぁ、ラブラブでお熱いな。羨ましい」
「はは、まあな」
「手を繋いで帰るところは度々見かけたけど、そこまでべったりなのは初めて見たぞ」
「人前では抑えるようにしてるからな。見てる人間は今はお前しかいないわけだし」
「つまり俺はずっとそれを見せつけられるわけか」
剛田が渋い顔をした。
しかし、小さい頃から有夢と美花の無意識のイチャイチャをずっと見せつけられてきた俺としてはこの程度、大したことないんだがな。
「いいなー、俺も彼女欲しい」
「おお、頑張って作れや」
「作るんなら今の時期だろ。3年生じゃそんな余裕ねーよ」
「確かにな」
剛田とこう話してる間にもリルはモゾモゾと動き、抱きつき具合を変えたり頬を擦り付けてきたりで甘えてくる。
「まさかだとは思うが、学校以外じゃいつもそんな感じなのか?」
「ああ。いつもこの調子だぞ。なあ、リル」
「恥ずかしながらね」
「ほぉう…」
ジトッとした目で剛田は俺らのことを見る。なるほどバカップルだと思われてるのかもしれない。
俺らからしたら本当のバカップルが身近にいるからなぁ…。
「ショー、このバスよく暖房が効いてるね」
「もう冬だからな……。暑いか?」
「うん、ちょっと暑くてポカポカするかな……眠くなってきたよ」
ふむ、リルは体温が低めだから気温差にやられたのかもしれねーな。日頃の疲れとかも加味しているんだろ。
うつらうつらしているリルも可愛い。
「道は長い。寝ろよ。最初の休憩所に着いたら一旦起こしてやるから」
「わふぅ…悪いね…。おやすみなさい…もたれかかっていい?」
「ああ」
リルはさっきまでの体制のまま眼を閉じた。
このやり取りを見ていた剛田は空気を読んで何も喋らなくなっている。
しばらくしてスゥスゥとかわいい寝息が俺の耳に聞こえてきて、吐息も首にかかる。
「リルさんの寝顔なんて見る機会あると思わなかったが…」
「思わなかったが…?」
剛田がなんかリルをじっと見ている。
「天使だな」
「だろ」
まさか剛田がそんなこと言うとは思わなかった。
さらに剛田は俺とリルの顔をジロジロと見てくる。…いや、顔じゃない。こいつ、リルのどこを見てるんだ?
「……なあ部長、この際だからずっと気になってたこと聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「その、リルさんって…何カップだ?」
げっ、こいつリルが寝てるからってぶっちゃけてること聞いてきたぞ。
「おまえそれ、普通彼氏に聞くか?」
「仕方ないだろ、ずっと気になってたんだよ。どう見たって他の女子よりかなりデカイ」
「まあ、それはそうだが…」
「たのむ、俺とおまえの仲だろ」
怒りたい反面、男として気持ちはわかる。
正直に答えてやるか…と思ったが俺もリルから胸の大きさをきちんと聞いたことはない。しかし大体予想はつく。どうして予想をつけるかは聞かれないようにうまく答えるか。
「俺も正確には知らんがな、たぶんFだ」
「でか…!」
「おら、これで満足しただろ?」
「ああ、満足した」
美花がたまに男って単純だとか言うが、俺は初めてそれに同意した。
胸の大きさ、それ以上質問されなかったしな。なんで測れたのだの聞かれたら困るところだったぜ。まさか触りまくってるとか答えられないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます