第657話 今年、この街最後の訪問 3
「いやいや、よく来てくれましたね」
「はい、おそらくこの街での公演の最後だと思います」
「そうですか。3回も来て下さって本当にありがとうございした。無論、そのVIPカードは生涯使えるので、機会があれば公演先にいつでも来てくださいね。次の公演は既にホームページに書いてありますので」
サーカスを見終わり、光夫さんの部屋を訪ねる。
化粧は落としていないのでピエロのままだ。この姿を見てるとシヴァを思い出すようになっちゃった。
言葉は厳格、存在は魔神。でも俺たちには友好的で姿はピエロのあのシヴァを。
まあ今日はそのことについて主に話そうと思うんだけどね。
「今日はお別れを言いに来てくれたのですか?」
「まあ…それもあるんですけどね。別件も…」
「アナズムに関することですか。なにかまたあったんです?」
光夫さんは机に肘をつき両手を組む。
うーん、どう話したらいいんだろう。潔くズバッと行っちゃうか。
「3柱目の魔神のことで。俺達、ついに接触したんですよ」
「なんと、最後の魔神と! どういう形で…」
「それが出会ったのは地球で、でして」
「ええ!?」
本気で驚いてるなこりゃ。
まあ無理もない。
「地球に魔神って…」
「それが既に人に取り憑き済みなんですよ。力が弱ってるし、戦う意思もないからって何もしてきませんでしたけど」
「はぁ…そうなんですか。…大丈夫なんですか? それ」
「とりあえず何があってもいいように準備はしてますよ」
もうこっちの世界でも自由自在に力を使えるから何があっても大丈夫。仮に俺以外全員が殺されたとしてもアムリタがあるし。……でもアムリタってこっちでもちゃんと作用するのかな、あとで自分をちょっと傷つけて試してみよう。こわいけど。
「にいちゃん、ちょっと話変わっていい?」
「うん? いいよ」
叶がそう言ってくるから代わってあげた。
「光夫さん、___市___区、_____○丁目って場所知ってますか?」
「え?」
「よーく思い出してください」
俺らが住んでる住所の方角と番地以外を弟は言った。
光夫さんは一瞬わけがわからないと言いたげな顔をしたが、記憶に引っかかる部分があったのか頷いた。
「……えーっと…ああ、あああ! ええ、知ってますよ」
「それは、なぜ?」
「たしか、私が公演の準備中にそこらへんを散歩してる時にアナズムに送られたので。帰ってきた時もたしかそこでした」
「そうですか、ありがとうございます」
「……?」
なるほど、本当に地蔵と接触したのか知りたかったんだね。てことはこの人、帰ってきてからすぐに魔神に乗っ取られたわけだ。かわいそうに。本人はそんなこと知らないけど。
「ところであの金庫はなんです?」
「あの金庫ですか?」
叶が金庫を気にしてそう言った。
金庫なんて気にして何になるんだろう。
「あれは…何も入ってませんね。そうだ、そもそも俺、なんであんなもの用意したんでしょう。このサーカスの機密事項とかお金とかは全てデータで保存してあるのに」
「ですよね、ちょっと開けて見てくれません?」
「……あれは番号を合わせるタイプです…ね。 恥ずかしながら知らないんですけど…」
この不自然さに気がつかないなんて……記憶操作的なものをシヴァがやったに違いない。そして叶はどこからかそう推理して確認したんだね。さっすが!
てことはあのロッカーの中身は自然とあのアイテムになる。
「まあ知らないならいいんです。本人に出てきてもらいますので。……シヴァ出てきてよ」
「どういう…ん? …え…あ…。呼んだか、叶」
「呼んだ呼んだ」
こんな瞬時に光夫さんからシヴァに入れ替わることができるのか。やっぱりシヴァってそれなりに力が残ってるんじゃ…。
「言いたいことはわかる。サーカス団がこの街から離れるから私を引き取りに来たんだろ?」
「まあ、そんな感じかな」
「ふふふ、ではあのロッカーの中から金剛杵を取り出せたら素直にその金剛杵に入ったまま引き取られてやろう。無論、番号は教えないがな」
「取り出せばいいの?」
「あ、うん。……何するつもりだ?」
叶は手のひらを突き出すと次の瞬間、手に金剛杵が握られていた。瞬間移動使ったね。
「……スキル使ったか…ずるい」
「取り出せばいいって条件だからね。まあ普通に番号の解読もできたんだけど。光夫さんは公演で忙しいし時間かけるわけにもいかないからさ」
「まあ約束は約束だ。戻ってやる」
目には見えないがちゃんと戻ったのだろうか。
光夫さんが力なくガクリとクビをうなだらせた。
「光夫さん大丈夫なのか!?」
【心配するな。気絶しただけだ…それも軽度だからすぐ目を覚ます】
「うっ…うう…」
「あ、ほんとだ」
シヴァが言った通りに光夫さんはすぐに目を覚ました。
叶はサッと自分の後ろに金剛杵を隠す。
「あれ? 今何か…」
「疲れが溜まってるんじゃないですか?」
「そ、そうなんですかね?」
「……あの、そろそろ俺たちはこれで失礼しますね。またいつか、公演をしてる街が近かったら来ますので」
「え、ああ、はい。要件は済んだのですね。ならばまた、ぜひ来てください皆様。 ……有夢さん、最後に、もう一度お礼を言いましょう。本当になにからなにまでお世話になりました」
異世界に行ったことなあるピエロはぺこりと頭を下げた。
「はい!」
俺はそれだけ返事をし、この団体の先頭を切ってこの部屋を出たの。
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光夫さんの出番終了です。
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