第645話 遊園地デート 2 (叶・桜)

「……その、照れるね」

「うん、俺も想定以上に恥ずかしいかな」



 遊ぶだけ遊んで一段落した二人は昼食を食べるためにフードコートに入っている。

 ここの目玉はカップル用ビッグサイズのジュースに、カップル用大皿ポテトなどなど。カップル向けのメニューが実に多かった。



「頼んだはいいけど」

「で、でも飲むしかなくない?」

「まあね」



 二人はおずおずとハート形に真ん中が曲がり、飲み口が2つあるストローを咥えた。

 顔が近くなる。とりあえず同時に中身を吸った。



「甘…けど、やっぱりなんか恥ずかしいよ」

「でもデートしてるって感じするね」

「うん」



 次に二人はホットケーキに注目した。

 最近メニューに加わったばかりのカップル用ハート形三段ホットケーキ。カットされた果物や酸っぱめのベリージャム、さらにシロップや蜂蜜がかかっているこのデザートを二人は昼食としている。



「んふふーっ、甘くておいしーっ!」



 一口頬張った桜はめをとろけさせ、実に満足そうにそう言った。



「よかった。アイスとかこの寒さだと食べられそうにないもんね。代わりの物が見つかって…」

「……え? あとでキャラメルコーヒーのソフトクリームのせ食べるよ?」

「マジで?」

「うん、チェロスも食べるし」

「……おごるよ、どっちも」

「これも奢ってもらってるのに? ほんとに貢ぐの好きね。えへへ。でも嬉しい」



 できるだけ甘くしてくれと自分たちで頼んだのはいいが、本当に甘すぎて少し食べるだけで腹が膨れる叶と、どれだけでも食べられる桜。

 桜が6割ほどを食べてしまい、残りはドリンクとなる。

 ドリンクはまた、顔を見合わせながら吸い込んだ。



「んっ…美味しかった!」

「何かしょっぱいもの食べたい……」

「じゃあ私がチェロス食べるときに叶は串揚ポテト食べればいいわね」


_____

___

_



「あー、楽しかった!」

「もう5時半か」


 

 アトラクションに乗るだけ乗って、食べたいものを(叶の自主的な奢りで)食べるだけ食べて大満足した桜は背伸びをしながらそう言った。

 そんな満足そうな桜を見て、叶は満足そうに微笑む。



「もうクリスマス近いから、イルミネーションつけてあるね」

「でも今日はすっかり晴れてるし…夕日と混ざって綺麗」

「桜の方が綺麗だよ」

「はいはい」


 

 叶は桜の手を握る。



「夕飯も食べることを考えたら次で最後だ。観覧車に乗ろう」

「この遊園地といえば観覧車だよね。…どんな景色なんだろ」

「楽しみ?」

「うん、今日はきっと綺麗」

「一段とね」



 二人は観覧車の列に並ぶ。

 観覧車に乗る時間こそ巨大であるため長かったが、同時に個室もたくさんあったのですぐに乗ることができた。

 


「……対面の席なのに隣に座るの?」

「いいよね?」

「ま、まあ叶がそうしたいなら」



 そういう桜本人も、ゆっくりと叶に抱きついた。 

 頭が肩に近くなり、叶は桜の頭をゆっくりと撫でる。



「昔はこんなこと信じられなかったのに」

「なにが? 私が目が見えて観覧車を楽しむたこと?」

「それもあるけど、頭を撫でさせてくれることだよ」

「あ、あのね、ほんとはずっと撫でてもらいたかったし、抱きつきたかったんだけど、その…恥ずかしかったから」

「そうだね……昔とは大違いだよ、いい意味で、何もかも」



 叶は桜を見つめる。

 桜も顔を上げ、叶を見つめた。

 互いの瞳に愛すべき人が写っており、その姿は夕日の紅により、少し影になっている。



「じつは、その叶が登下校お出かけで腕に掴まらせてくれたの、すごく嬉しかったりするのよ? 前に言ったっけ」

「聞いたような気がするよ。いやぁ…内心俺もドキドキしてたよ。やっぱり抱きつかれてるのに近いし」

「そっか……私のこと、好き?」



 桜自身、答えを知っている。

 しかしあえてそう訊いた。叶は、少し黙り込んでからそれに丁寧に答える。



「……愛してる。ずっと、昔から、下手したら生まれた時から」

「えへへ、えへへ、愛してる…かぁ、私も叶のこと愛してるからっ」



 言葉の勢いに任せて桜はさらに強く抱きしめる。

 そんな桜の肩を掴み、すこし押しのけた。



「……ん?」

「キスしてもいいかな」



 珍しく顔を火照らせながら、叶は桜にそう訊いた。

 桜はすこし考えてから、こちらも顔を火照らせて答えを言う。



「その……ならさ」

「うん?」

「そろそろ挑戦しない? でぃ、ディープキス…ってやつ」



 桜はじっと叶を見据える。

 叶は驚いたような表情を浮かべ、すこし停止したが、すぐに正気を取り戻す。



「やってみる?」

「うん。だってもうアナズム合わせて付き合って10ヶ月近く経つし…いいかな…なんて、えへへ」

「じゃあ、やるよ。俺自身初めてだから上手くないかも知れないけど」

「わ、私もディープキスは初めてだから…その、大丈夫」



 叶はゆっくりと桜の唇に顔を近づけてゆく。

 桜は目を閉じた。

 叶も、目を閉じた。

 唇と唇が重なる。


 叶はすこしだけ目を開き舌を桜の下唇に触れさせる。桜はそれを合図に自分の口を半開きにし、叶は舌を桜の口の中に入れて見た。

 桜の顔が赤くなる。叶も真っ赤。だが互いに確認はできない。


 しばらく叶の舌が自分の口で動いていることに頭がトんでいた桜だったが、今度は自分も、と、下を動かし始めた。


 叶の舌に桜の舌がぶつかる。

 叶はぶつかった相手を舌で触れた。

 その往復。

 二人の初めてのディープキスは、観覧車が頂上地点に辿り着くまで続いた。



 

 

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