第644話 遊園地デート (叶・桜)
「おはよう、桜」
「おはよ」
叶と桜は玄関を出てすぐに鉢合わせとなった。
二人が前もって打ち合わせておいた時間ぴったりに。
「それじゃ、いこ?」
「うんっ」
桜はいつも通りに叶の腕に抱きつき、二人は歩き始める。約束していた遊園地でのデートを行うのだ。
「遊園地も久し振りよね」
「うん。水族館や動物園よりはいってるけど」
「アトラクションは少し見えてれば視力関係ないの多いからね」
公共のバスなどにのり、仲睦まじい、抱きついたままのラブラブな体性を維持したまま遊園地につく。
『1日乗り放題券』を二人分、叶は(自腹で)買うと、それをつけて二人は遊園地に入園した。
「日曜日だから流石に人が多いわね」
「でも夏とかよりは少な目かも」
「この間雪が降ったばかりだもの。寒いのを避けてるのよ」
叶が桜の方を振り向いて言った。
「寒くない?」
「こんなにギュッてしてるのに寒いと思う?」
「ううん。俺も暖かい」
「でしょ」
まず二人が目をつけたのはメリーゴーランドだった。
若干幼稚さを感じつつも二人は乗り込む。
「かにゃたは白馬が似合いそーだと思うの」
「そ?」
「そ、そ」
.
おもちゃの馬に似合うも何もないんじゃないかと考えながら言われた通りに白馬に乗り込む。
桜はリルが翔に同じことさせていたとは夢にも思っていない。理由は同じ、自分にとっての王子様だからだ。
「お姫様、どうぞ」
「あ、ありがとっ」
桜は叶の差し伸べた手を掴みながら、真隣の黒馬に乗り込む。音楽が鳴り、回転し始めた。
間も無くそれも止み、二人はメリーゴーランドから降りた。
「俺はメリーゴーランドに乗るような歳じゃいよ、もう」
「でもお姉ちゃん達も乗ったらしいよ?」
「にいちゃんと美花ネェは女同士だからいいの」
「そんなこと言ったらあゆにぃがプクーってしそう、ふふ」
二人は手を繋ぎ、また別のアトラクションに目をつける。
「コーヒーカップ…!」
「乗る?」
「乗る」
コーヒーカップに乗ると桜がハンドルをがっちりと掴んだ。
「嫌な予感しかしない」
「定番は大事よ、大事」
「酔ってもしらないよ」
「酔ったら介抱してくれるでしょ? ね?」
「まあ、うん」
暗喩した宣言通りに桜はハンドルを思いっきり回し始める。しばらくしてアトラクションから降りた二人。
「うっ……」
「ほら、言わんこっちゃない」
「なんてね、大丈夫だったよ。ふふん」
「あ、うん」
桜の謎のドヤ顔を謎に思いながらも、叶は次に何に乗りたいを聞いた。桜は即答する。
「ジェットコースター!」
「ジェットコースターねー、寒くない?」
「大丈夫、大丈夫」
やはり同じように寒いから控えているのか、日曜日にしては少な目なジェットコースターの人の列に並ぶ。
それでも15分待ちと書いてあった。
「ね、すごく楽しい!」
「ほんと?」
「うん!」
満面の笑顔で言った桜に、叶は見惚れた。
もしかしたら幼馴染は天使なんじゃないだろうか、と、口には出さないが考える。
やがて15分が経ち、二人の順番が来る。
「手、握っててよね」
「なぁに、怖いの?」
「こ、怖くないけど、一応」
やがてマシンは動き出す。
叶は桜にお願いされた通りにしっかりと手を握る。
互いに空いた方の手で肩のバーを掴んだ。
どんどんとジェットコースターは坂を登って行き、やがて落ちる直前となった。二人は顔を見合わせた。
落下。
二人とも叫び声なんてあげず、純粋に楽しむ。
「あー怖かった」
「嘘つけ」
「うん、楽しかった! また後で乗ろう」
「そうしよか」
「えへへ……クシュン」
桜は可愛くくしゃみをする。
叶はその背中を優しくさすった。
「言わんこっちゃない。寒かったでしょ?」
「うん、ちょっとね」
「……ちょっと待っててね」
一言そう言うと、叶は近くの自販機に小走りで向かう。
コインを数枚入れ、あたたかーいと書いてある項目のココアを選ぶと、それを桜の下まで持ってきた。
「ほれ」
「あうっ」
叶は桜の頬に軽くそれをあてがう。
「飲みなよ」
「あ、ありがと」
桜はしばらく手でその温もりを楽しんでから、プルタブを押し、湯気がでているココアをゆっくりと口に流し込む。
「ん、甘い」
「そっかそっか」
「もう半分飲んだから、残り飲みなさいよ」
「いいの?」
「いいよ。もともと叶が買ったものだし」
叶はそれを受け取ると、残り半分を飲みきった。
桜がニヤニヤしながらそれを見る。
「関節キスだよ」
「うん。甘い」
「ココアが? キスが?」
「どっちもかな」
「えへへへへ」
桜は嬉しそうに笑う。
叶はそれに少し見惚れてから缶を捨て、桜に問う。
「次は何に乗りたい?」
「んーと、空中ブランコとかかな」
「また寒そうなものを。ま、いいけど」
「それなら手を握って温めてよ」
「ん、任せて」
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