第642話 他の心配 2 (叶・桜)
_____バサバザ。
「……ラブレター……」
「まだ止まんないどころか増えてるね」
下駄箱にて、いつ通りに靴を取り出そうと、蓋を開いた途端、数枚の手紙が落ちてくる。
叶は桜の目つきが変わったのを見逃さなかった。
「これは処分しとかなきゃね。悪いけど。この学校で俺と桜が付き合ってることを知らない人は居ないんだ。それなのにまだラブレターを出してくるのはちょっとね……」
「わ、私よりいい娘がいるかもよ?」
「俺にとって桜が最高なのにこれ以上がいるもんか」
「あぅぅ…」
桜は赤面しながら自分の下駄箱を開ける。
……バサバザと何枚かの手紙が、そこからも落ちてきた。
「最近、私のにも入ってるよね」
「ああ……」
桜は叶の声色が少し変わったことに気がつく。
毎朝そうだった。桜のメガネが外れてからラブレターが来るようになったが、その手紙に対してはまるで下衆でも見るかのような対応をしている。
「叶…そんな怒らなくても」
「怒っちゃいないさ。でも、こいつらは桜が可愛いと分かってからラブレターを入れ始めた。桜を顔で選んでいるということだ。……都合がいい。虫酸が走るよ」
「あう……叶は…私の顔で…その、何割くらいなの?」
「好きな理由のうち何割かって? 2割かな」
そうなんだ、と桜は呟いた。
つまり残り8割が他のことであるということ。その残りを訊こうと思ったが、他の声に遮られる。
「おはよう、成上と委員長。……なにそれ、なに持ってるの?」
「あ、浜崎ちゃん…おはよう」
「あ、浜崎。おはよう。いや、桜の下駄箱に知らない奴からたくさんラブレターが入ってるのに少し悩んでてさ」
「あー……仕方ないよ。とんでもなく可愛いもん」
「ち、ちょっと…浜崎ちゃんっ!?」
クラスメイトの浜崎だった。
珍しく早く登校をし、偶然二人と鉢合わせになったのだ。
「事実でしょ? それより成上、顔が怖いよ。可愛い顔が台無し」
「おっと、そんな怖い顔してたか」
「気持ちはわかるわ。ずっと守ってきた彼女にラブレターが……それもメガネが外れてたから来るようになって、顔で選ばれてる上にワンチャンあるだろうという浅はかな考えが気に食わないの」
「あ、わかってくれる?」
叶は理解してもらって嬉しそうな表情を浮かべた。
「ま、いいや。教室行こ」
「そうね」
「う、うん」
「桜。このラブレターどうしようか」
「叶が…どうかしてくれていいよ」
「わかった」
三人は教室へと行き、席へ着く。
すでにいるクラスメイトにいつものように冷やかされながら叶と桜は隣同士の席に座った。
浜崎は別の友達と話しに行ったようだ。
「それで、メガネの話の続きしてよ」
「うん。単純な話、さらに度をあげるだけだよ。あの盲目者用メガネは、眼球さえ残っていれば見えるようになる歴史的大発明だけど、それでも回復する視力が微々たるものだからね。最悪0.1まで…最高で1.0まで度数を回復させられれば……」
盲目な人間がメガネをかけてる間だけ視力が1.0まで戻る。そんなことが実現可能なら本当にすごい、と桜は生唾を思わず飲む。
「……すごいね。そんなことできるの?」
「……アナズムでさ、いくらでも研究できるんだ。すごいよ、にいちゃんの作ったなんでも作成装置……例えば100日間放置された林檎を出してくれ…って言ったらその通りのものが出て来るんだ。実験し放題なんだよ。たとえば目指してるものの実物をだしてそれを解剖して見るとかね。すごく手っ取り早い」
「なるほどね。通りで勉強以外にも引きこもって色々やってると思ったわ」
桜もたまにその装置にお世話になっているが、それはアイスクリームやクレープが食べたくなった時に出してもらうくらいだった。
とんでもない有効活用していることに驚く。
「だから、最終目標は万人がつけられるメガネだよ。盲目の人でなくても、視力0.9以下の人がそれをつければ1.0に統一されるってやつ。これを応用すれば1.0の視力の人を10.0にするメガネだって作れるはず。ま、そんな感じで目指してるよ」
「組織にはもう報告したの?」
「したよ。母さんがなに見せたかは知らないけど、妙に桜が甘えてきた日、あったでしょ?」
「う、うん……」
あの時のことを思い出した桜は赤面するとともに内容を思い出して微笑んだ。
「そういえばあの日は脳の検査で呼ばれたんだけど……なんかさ」
「ん?」
「またIQが上がってるって。8くらい」
「そ、そんなに上がったの?」
「アナズムで勉強と研究を繰り返したせいだとは思うけどね」
「そうね」
_____キンコンカンコン。
チャイムが鳴った。担任の教師がクラスに入って来る。
「はーい、おはよー。テスト10日前だぞー。今回もこのクラスの平均点、期待してるからな! 特に成上は満点取るように」
「……善処しますよ」
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