第641話 他の心配 (叶・桜)
「…………うーん」
叶は必死に考えていた。
あの魔神の言葉は本当に信用できるのかどうか……。
もし、あれは全てが嘘であり、神を名乗るにふさわしい力を使って攻めてきたらどうしようか、などと。
「ね、叶。どうしてそんなに暗い顔してるの? もしかして、昨日のことが心配?」
「うん、さすが桜だ。俺のことは見透かされるね。その通りだよ」
登校中、腕を組み密着しながら二人は歩く。
美少女が美少女のような少年に抱きついているこの光景は、もはや同じ時間帯を過ごす通りすがりの人にとっては、目が良くなる前からの当たり前の風景になっている。
しかし叶にとっては、付き合うようになってから深くだきつかれ、桜の中学生には似つかわしくない豊満な胸を押し付けられることに、もう1ヶ月以上経つのに未だに慣れていないのだが。
そのこともこの日は気にならないくらい、叶は必死に考えている。
「私は心配いらないような気がするんだけど」
「うん、俺も感覚でなら気にしなくてもいいって判断を下してるんだけどさ、念には念を、ね」
「そっか。ところで……あの、昨日言ってたことなんだけど」
桜がモジモジしながらそう切り出した。
「昨日の……もしかして、許嫁として婚約して結婚式だけ先にあげればこの歳でも大丈夫ってやつ?」
「そ、そうそれ。……あれ、本気だったのよ…ね?」
「まあ、本当に回避不可能な最悪な事態になると分かったら本当にするつもりだったけど」
「えへへ、そっかぁ…えへへ」
桜はより強く叶の腕を抱きしめた。
最終手段なのにそんなに嬉しかったのかと叶は思いながら、そんな桜の頭を撫でる。
「……今週は翔さんは地方大会で他県行くんだよね」
「うん、だから応援に行くのは難しいだろうって…」
「日曜日、遊園地でも行こうか。水族館、動物園と行ってきたんだから次は遊園地」
「でも叶、まえに混むからダメって」
「いや、初デートとしては置いといた方がいいかなーって思っただけだよ」
叶は桜の目を見た。
桜がとてつもなく嬉しがっているということが、叶にはよくわかる。
しかし叶は少しだけ意地悪をしたくなった。
「でももうテスト10日前だ。この時期は桜はもう勉強してたよね。……これじゃあ遊園地いけないね…」
「えっ……。あ、アナズムで散々勉強したから大丈夫よ!」
「全教科満点とれる?」
「まぁ、とれるでしょ。凡ミスしなきゃね」
「それじゃいこうか」
「いえ、私よりも叶よ。今回は私に点数で勝てるのかしら?」
桜はもし負けるなら自分であるということを承知でそう言った。アナズムで一緒にずっと勉強してきて、桜は叶に教えてもらう側だったからだ。
「今回はしっかり勉強したよ。余裕余裕。お互い満点だから同位だと思うよ」
「ま、いつも勉強せずに90点以上とってるもんね。大丈夫よね」
「まあね」
二人はそのまま電車を乗り降りし、学校までの一本道を歩いて行く。
「それにしても考えること増えたなぁ」
「え、デートなにか負担だった?」
「いや、それは最優先事項なんだけど……今ちょっと何個も同時にいろいろ考えてるから」
「へえ、どんなこと?」
叶は指を折って、自分の今すべき思考を空いてる方の手で数えた。全部で5つのようだ。
「まずね、デートのことでしょ? そしてテストの対策を微調整……あと、魔神のこと」
「うんうん」
「そして、ここ最近で経済状況が変わったから株価の再計算しなきゃいけないし……もう一つ、いま組織と一緒に進めてる研究を最後まで進めなきゃ」
「……組織と進めてる研究? 今度は何作るの?」
今までに色々な製品を考え作り出し、特許を取得している叶。もう世にしっかりと出回っているものまであり、桜は今度の内容が気になった。
「ん……。今まで思いつきで作った便利グッズとはもう全然違うものだよ」
「というと?」
「ぶっちゃけかなり真面目なものだよ。……あのメガネの改良品さ」
「あのメガネって…あの私の瓶ぞこみたいなメガネ?」
「そうそう」
叶はなんだか気恥ずかしそうに頭を掻く。
「実は桜のあのメガネがあまりにも不便そうだったから、かなり昔から改良できないか考えていたんだよ」
「そ、そうなんだ……私のためにっ…」
「まあ、もう意味ないんだけど、研究した結果とかその他もろもろは残るでしょ? 勿体無いから続けてたんだよ」
「うん、私以外に悩んでる人はたくさんいるもんね。それでどう改良されるの?」
桜が嬉しそうな顔をしながらそう訊いてくる。
叶はニコニコしながら答えた。
「まず、軽量化と見た目かな。それはアナズムに行く前にすでに考え終わってて組織に提出したんだけどね、色々実験とかが足りなくて桜の目が治るのに間に合わなかった」
「そ、そうなんだ……じゃあ、本当はもう普通のメガネくらいの見た目にはできてたってこと?」
「間に合わなくてごめんね?」
「謝ることじゃないじゃないの……ね、ね、そのほかにどんな改良をしようとしてるか教えてよ」
「もうすぐで学校だ。着いたら教えてあげる」
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