第623話 県大会個人戦 3
「とりあえず、県大会に進んだ部員の1回戦目が全て終わったな」
県大会には団体戦をした五人と、さらに三人の部員が進んでいる。それぞれ1回戦目は勝ってきたみたい。
うちの学校はやっぱり柔道部が強いね。
「お昼ご飯タイムだよ!」
「「「「うおおおおおおおおお!」」」」
お、みんなの熱狂がすごい。そんなにお料理を楽しみにしてくれるなんて、えへへ、嬉しいじゃないか。
「じゃあ、お披露目!」
俺はもって来た重箱を全て開けた。
美花も自宅からもって来た重箱を全て開けた。
リルちゃんも同様に開けた。
「「「おほおおおお……!」」」
みんなが広げられたたくさんのおかずに目を輝かせるの。リルちゃんはエビフライや白身魚のフライ、イカフライやミニコロッケなどなどの油物を。
俺は味付けたまごやレンコンとコンニャクの煮物などの煮る系を。
美花と桜ちゃんはポテトサラダやアスパラのベーコン巻き、ミニサンドイッチなどのさっぱり・野菜系。
そして俺たちそれぞれ全員が、唐揚げと卵焼きを作って来たの。
……え、費用?
なんか叶が『こんなこともあろうかと、数万円用意しておいたから好きに使って』っていって出してくれたよ。ポンと出すもんだから心臓飛び出るところだった。
弟に頼るなんて本当は良くないんだけど、叶が心の底から気にして欲しくないように『気にしないでよ』ってなんども俺と美花とリルちゃんに言ったから気にしないことにする。
なんでもあっという間に稼げるらしい。
もはやどこの次元をどう生きてるかわからないね。
俺の周りは翔を含め化け物だらけだ。叶の貯金…億はいってるんじゃないだろうか。
「まて、みんな落ち着くんだ。まずは応援に来てくれた上にこんなにたくさんの弁当まで用意してくれた四人に深く感謝しよう」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
さすがは運動部だ、お礼を言う時の連携と声のデカさが違うね。頭も深々と下げている。
「…じゃ、食べましょうか!」
パァン、という破裂音にも近いゴリセンの手合わせ。
ほかのみんなもそれに合わせて手を合わせるの。
「「「「いただきます」」」」
これをしっかり言ったあと、始まるのはおかず争奪戦。
まあそうはなりにくいようにたくさん作ってあるんだけどね。みんな思い思いに紙皿に唐揚げやらを乗せて行く。
誰かが先行して一口食べた。
「……んん!?」
「おい、どうかしたか?」
「……唐揚げ、食べてみろよ」
「え、ああ……んん!?」
料理を一口齧ったみんなは、箸が止まった。
絶句としか言いようがない。
美味しくなかったのかな?
「ど、どうしたんだろ?」
「まずかった?」
「ち、違うっす……その真逆っすよ…」
星野君がプルプル震えながら答えてくれた。
「違う、母ちゃんの飯よりうまいだとか、料理上手だとか、そんなレベルじゃないっす……ふだん、あんまり外食しない俺でもわかります、3つ星レストランか何かすか? え?」
「そう、そんな感じだ。弁当で気軽に食べていいような味ではない。これこそ何ヶ月も前から予約して、何万円も払って食べる店の…!」
「ごんなにうまいのはじめて食べた……うおおおお」
俺は、俺の料理をはじめて食べた母さんと父さんを思い出した。そういえばこんな感じになってたなぁ。
「とりあえず喜んでもらえてよかったよ」
「うめぇ! めっちゃうめぇ!」
「そんながっつかなくてもまだあるよー」
「食わなきゃ逃げる!」
美味しいっていって食べてもらえるのは、いつどこで誰に対して経験しても嬉しいものだね。
みんながばくばくとお弁当を食べてる時に、美花が肩を優しく叩いてきた。
「どしたの?」
「有夢の唐揚げ美味しい」
「ありがとう」
「でも私のも負けてない、あーん」
「あーん」
うん、おいしい。
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「はぁ……はぁ……あぅぅん…!」
お昼ご飯を食べ終わり、そのあと何試合かをへて、今は何が起こってるかと言うと……!
『一本』
「っし!」
翔が決勝で勝利した。
さすがに最後の人は強かったのか、秒殺とまではいかなかったけれど、それでも危うい場面なんて一度もなく圧勝をしてしまった。
これで地方大会に進める部員は、県大会参加者8人のうち、5人だけとなった。もちろん、その5人は選抜の5人だよ。
「ショー…っ! ショーっ!」
「ね、有夢。やっぱりリルちゃんってエッチよね?」
「うん、そうだと思う」
ショーが優勝したことに対して動悸が荒くなり、目をらんらんとさせている。感動してるのか涙目だ。
こんな姿を他の人に見られたら、エッチすぎて襲われそうで怖い。だからさっきから美花が介抱してる。
「ま、とりあえずショーは予想通り優勝しちゃったね」
「また御祝いね、そうなると」
「わ、わたしも! わたしもショーにいいことする!」
「はいはい」
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