閑話 王子達のデート (side オルゴ) 2

「何回きてもここはいいものだな」


 

 オルゴはポツリとそう言った。

 ミュリはそんなオルゴを見つめる。



「ここで昔よく遊びましたものね。覚えてますか?」

「ああ、覚えているとも」



 忘れるはずはない、そう、オルゴは小さく呟いた。

 公園の中、屋台の連続した通りを抜けた先にある噴水の周辺で二人は思い出を振り返っている。



「ここから見えるお城を、教師の指示でスケッチしたりしましたね」

「ああ……ミュリが一番うまかったな」

「ふふ、ありがとうございます」



 エグドラシル神樹国のとある村にあるという噴水ほどではないが、ここにあるのも立派である。

 先々代の国王が作ったと言われていた。



「連れてきたかったのかはここですか?」

「そうだな、ここを中心とした周りにデートの場所となりそうなところがたくさんあったことを思い出してな」

「なるほど」



 オルゴはくるりと身を翻す。



「さて、向こうに何かあったはずだ。行こう」

「そうですね」



 歩いて行く先にあったのはたくさん並ぶ服屋や帽子屋などのオシャレな店。

 二人はその並びの雰囲気に実によく溶け込んでいる。



「お洋服がたくさん売ってますねぇ!」

「そ、そうだな」



 何か買ってやろうか、その言葉が彼の脳裏によぎったが、急に不安になり口を噤んだ。

 


「試着とかもできる店が多いですよね」

「と、とりあえず店を見るか」

「いい服があったら試着してみても?」

「もちろんだ」



 軽い足取りで歩くミュリ。珍しく彼女が率先して歩いてることに気がつかないままオルゴはその跡を辿った。

 


「みてください、この帽子! どうですか?」

「ああ、似合うと思うぞ」



 白いベースに黒いリボンが結んであり、赤い羽のようなものが備え付けられている帽子をミュリは試着した。

 水色の髪の毛によく似合っている。



「あっ、これも良さそうですね」

「ああ、似合うと思うぞ」



 今度は質素なネックレス。彼女の白い肌に動物の牙か何かで作られたその装飾用のネックレスは、なんだか少し派手に見える。



「うーむ……あ、これ!」

「む?」



 ミュリはワゴンの中からトゲトゲのついた厳つい腕輪を取り出し、素早くオルゴの腕に取り付ける。



「似合いますねぇ…」

「そ、そうか?」

「うん! …でもなんかちょっと怖いから別のにしましょう」

「お、おう」


 

 二人はその後も続々と店を見る。

 店を見て、試着して、感想を述べて(規範的にオルゴが似合っていると言うだけ)。 

 そうしてゆくうちに時間は過ぎて行く、

 そして昼食に丁度いい時間となったその時に。



「ああっ…これいいですね! わぁ…!」

「む、なんだ?」



 見ていたのは手袋だった。

 白を基本とした淡い水色の、まさにミュリのためだけに作られたような手袋。



「これ買っちゃいましょうかね?」

「む………そ、それなら」

「ん?」

「お、俺が買おう」



 ミュリはポカンとした顔でオルゴを見つめた。

 


「オルゴがはめるのですか? ……しかしそれはちょっと…」

「ち、違う! ミュリにその…なんだ、プレゼントというやつだ」

「プレゼント…?」



 ミュリは手袋を一度見て、もう一度オルゴを見た。



「……私、誕生日じゃありませんよ?」

「た、誕生日じゃなくてもプレゼントはしてもいいだろう」

「んー? 記念日でもないですけど…」

「記念日じゃなくてもだ!」



 天然でそう言っているミュリに、オルゴは焦りながらそう言った。せっかく本に書かれている通りのことを言えたというのにそれが台無しになるのを恐れている。



「……いいのですか?」

「ま、まあな。そんなに高くないし…で、デートだしな! 付き合ってる者同士はこういうことをするらしい。と、特に男側が!」

「そうなんですか! …じ、じゃあお言葉に甘えちゃいましょうか」



 オルゴは内心ホッとすると、棚にかかっていた手袋を取りレジへ持っていった。



「これをくれないか」

「はい。…彼女さんへのプレゼントですか?」

「そ、そうだ!」



 店員がニコニコしながらそう訊いてきた。オルゴはその言葉で今はデート中なのだと地震で再確認することとなる。料金を急いで支払った。



「はい、まいどあり」



 店員は気遣いで可愛い包装をした。オルゴは小さく礼を言うとすぐさまミュリの元へ。



「ほ、ほら」

「わぁ…! ありがとうございます! 一生大切にしますっ!」

「い、一生はアリムに頼まない限り無理じゃないか? …た、大切にしてくれるのは嬉しい」

「えへへ」



 心の底から嬉しそうにミュリは手袋に包装ごと頬ずりをした。オルゴはその光景を眺める。



「…そいうえばもうそろそろ昼飯時だな」

「そうですね! どこか食べに行きましょう! 今度は私が払います!」

「知ってるか? デートは食事も男が出すらしい。世の男が皆そうしてるならば、俺もそうしたい」

「…デートって男性側の出費が多いんですね? なんか悪いです」

「お、俺は…その、ミュリが喜んでくれるのが一番なんだ! 金は関係ない」

「……えへへ」



 ミュリは頬を染めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る