第580話 サーカス団団長 -2
「へいダンチョー! さっき言ってたガールが来ましたよ!」
ここが団長室なのだろうか。思ってより質素だ。…まあ、方々を移動してるから当たり前かもしれないけれど。
ピエロの化粧をし直してたのか、光夫さんは鏡の前で座り込んでいた。
「すいませんね、案内ありがとうございます」
「いいんだよ。団長もこんなエンジェルと知り合いだなんて隅に置けないネ! 昨日の外出中に見つけたのかい? でもジャポンではミセーネンとのお付き合いはエンコーと言うんじゃなかったかな?」
え、援助交際…。男の俺が男の人相手に援助交際なんてするもんですか、それも女として。
絶対にしないよ!
「いえいえ、本当にただの知り合いで、少々用事があって呼んだだけですから」
「へー! ソウカイ、そうならいいや。じゃあボクは裏に戻るよ」
案内してくれた団員さんはこの場を去った。
「すいませんね、そこに掛けてください」
「はい」
接客用なのかわからないけど、俺は木でできた長椅子に座る。光夫さんは化粧を切り上げ、目の前のパイプ椅子に座ったの。顔はもちろんピエロのまま。
「そういえばピエロって、出し物の節目節目に登場しなくては行けないのでは…?」
ちょっと心配になったから訊いてみる。
「それは心配ありませんよ。今行ってるのは少し長いんです。15分ほどまだ時間ありますね」
「そうなんですか」
ぐむむ、さっきまでおどけていたピエロがなんか真面目に話してるのをみると変な気分になるな。テレビとかで有名なだけ余計…。
「すいません、お話をする前に失礼ですがタバコを一服」
「えっ…あ、どうぞ」
光夫さんは箱を取り出すと、縁を押してタバコを取り出そうとした。しかし、どんな仕掛けになってるのかタバコはちょうどよく出たわけでなく、バネでも仕込んであるかのように光夫さんの顔めがけて発射されたの。
「アイテッ」
「ふふふふ」
わざとらしい道化っぷりに思わず笑ってしまう。
「私は昨日、帰って来たことになってます」
「そうなんですか…! ということは光夫さんがアナズムに送られたのは…」
「ええ、地球の日付では昨日ということになりますね」
昨日送られた人が、俺らにとって100年前の人…これがタイムパラドックスというやつだろうか。なんか怖いな。
「ふふ、ですがおかげさまでサーカスのピエロ…あと団長としての腕と記憶、経験は全て復活してるんです」
「ああ、わかります! アナズムと地球…記憶とか引き継がれてはいますが、また別な感じですよね」
「ええ」
やっぱり光夫さんもか。長い間アナズムにいるのに、電子機器の使い方覚えてるとかあるもん。不思議だね。
「……と、つい話を先走ってしまいました。アリム・ナリウェイさん、ようこそ、我がサーカス団へ!」
「えへへ、本当に偶然ですね!」
「もはや仕込まれてるのではないかと思えるくらいですねぇ」
しかしこっちでアリムと呼ばれると、ゲームのアカウント名の方で反応してしまう。まあ慣れれば大丈夫か。
「俺は…貴女になんて御礼を言ったらいいか…」
「何度も念を押しますが、こちらで犯罪はしないでくださいよ」
「死刑がだいぶこたえましたよ。百も承知です」
しかしこのピエロの顔、テレビ以外のどこか見たことあると思ってたらメフィストファレスの時の顔じゃないか。
ピエロが敵……なんかゲームみたいだったね。
「いえ、それにしてもアリム…こちらでは有夢さんでしたっけ? 女性で"あゆむ"というのは珍しい。良く見れば顔はほとんど変わりませんね。髪、肌の色と身長年齢しか変わらないのですか?」
「いえ、性別も違いますね」
人を驚かせたり笑わせたりするのが得意なはずのピエロが、信じられないものを見るような顔をしている。
恐る恐る口を開いて続きを話し始めるの。
「えっ……え、ということは今、男性…?」
「はい、俺は男ですね」
「……え? いや、え? どう見ても女性…あと声も…」
「いやぁ、戸籍上でも生物学上でも俺は男ですよ。地球では。よくこんな感じで驚かれますね」
人が驚いてるという反応にゾクゾクする自分がいる。もしかしたら性別明かして楽しむの、自分の中ではやっちゃうかもしれない。でもこの顔と声だし女性扱いされてた方が何かと特だから気をつけよう。
「じゃああちらとこちらで性別が違う…!」
「ええ」
「どっちが本当なんです?」
「こっちですね」
驚いたと思ったらなんだか感心された。この感心はどういう感心なんだろう。よくわからん。
「と、とりあえず有夢さん。御礼をしたいのですが。私が昨日、数時間かけて考えた御礼…」
「いいですよ無理しなくて」
「いえ、いえ是非受け取って欲しいのです! そうでなければ落ち着きませよ!」
そこまで言うなら受け取ってあげた方がいいよね。くれるものってなんだろう。この人のことだらかサーカス関連の気がするけれど…。
「ではとってくるので少々お待ちくださいね」
そう言うと光夫さんはこの部屋からおどけた歩き方をしながら出て行ったの。
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