第579話 サーカス団団長
「ふぇっ」
俺自身も驚いた表情をしてると思う。となると、この人が愛長光夫さんか。サーカス団の団長がまさか名物ピエロやってるなんてね……ん? 割と普通か。
「え、あ、人違いなら忘れてください」
「い、いえ合ってます」
俺以外の5人がなんのことかわからない戸惑いと、自分達以外にアナズムのことを知っている人物が現れた戸惑いか合わさりこの上なく驚いた表情をしてる。
ついでに言うと叶はフリーズしそう。
「そうか…そうですか! こんなに早く会えるとは…神とはやはり居るものなのですね。申し訳ありません、後で話があります。えーっとですね」
光夫さんは懐からメモ帳もボールペンを取り出し、素早く何かを書き込み、それを俺に渡してきた。
「15分後に1人でここまでくるようお願いします」
「わかりました!」
了承の意を示すと光夫さんはどこか安堵したような表情をしながらお客さんたちのもとへ戻って行く。
さて、これはみんなに説明しなきゃだよね。
「兄ちゃん、今のはどういう…」
「ん? ああ、このサーカス団の団長さん…つまりロングハート君の中身の人ね、アナズムに行ってたんだよ」
「はぁっ!?」
この場にいる5人中ほとんどが初耳だから仕方ないし、美花も忘れてるはずだ。
「えっ…そんな、いつのまに有夢は…その、私達以外のアナズムから来た人を認知して…」
「んー、美花は知ってるはずだよ」
「え…知ってる?」
「うん、知ってる」
まあ、あれから美花は光夫さんとまったく関わりがなかったし、そもそもその後のアムリタで死者を生きかえらせて回る方が大変だったし忘れていても仕方ない。
「メフィラド王国でさ、悪魔の_____」
「あああああっ!!? もしかして、メフィストナンチャラ!」
「そうそう」
思い出してくれたか。ならば話が早い。
「あの人ずっとこっちの世界に帰りたがってたらしいから悪魔側に加担したって話だったけど、まあ、国王様に捕まって死刑になったんだよね」
「ええ、たしかそうだったわね。それでまさか」
「うん。お城に忍び込んで体の一部だけ持って帰って来てアムリタで生き返らせたの」
その後、未だに話の内容を飲み込めてない4人に俺はメフィストファレス、もとい愛長光夫という男の人がどんな人で何をしてきたかを話したの。
「んで、そんなやつこっちに帰らせちまって大丈夫なのか? なにか犯罪をおかすかもしれねーだろ」
「帰るときに念は押したし、ある程度洗脳したから大丈夫だとは思うけどね…」
「洗脳って…」
あ、翔が若干引いてる! 酷いな全くもう。一番安全なのはやっぱり洗脳することだよね。
「しかし…100年以上前に既ににいちゃんより先にアナズムに行ってる人が居たとはね。でも光夫さん…だったかな。今はこうして現役でサーカスを切り盛りしてるわけだ。……送られる時間などはもしかしたらランダムなのかもしれない」
そう、光夫さんは100年以上前の人間のはずなのに、どう見ても俺らの親と同じ世代なんだよね。
それが本当に不思議なことで……やっぱり叶のいう通り、送られる時間にランダム性があるとしか思えない。
「だ、だとすると、私達がお姉ちゃんとあゆにぃと同じ時代に飛ばされたのは運が良かったってことなのかな?」
「わふん、ならもしショーやみんなが別の時代に来てたなら……私は今頃たくさんの人に……」
桜ちゃんは美花に寄り添い、リルちゃんは不安げな表情で翔に抱きついた。2人ともそれを受け入れる。
「リルさんが翔さんと会えたのは運命か何かだったとしても、俺らがにいちゃん達に会えたのは必然のような気がする」
「そうね、叶君。私もそんな気がする」
腕時計が光夫さんが俺に気がついてから15分経ったことを示した。ロングハート君こと光夫さんによる小さなショーは既に終わっている。
「じゃあ俺、行ってくるよ」
「…私達全員ついて行った方がいい?」
「いや、あの人と深く関わってるのって俺と、言えて美花しかいないから、全員そのまま並んでてよ。全員出て行っちゃうとまた後ろからだよ。とりあえず1人で行く」
「それもそうだね。わかった」
美花はなんだか心配げにこちらを見ているが、まあ心配なんて要らないような気がする。
俺は5人の元を離れ、光夫さんが簡潔に書いた地図の通りに歩を進めるの。
しばらくしてこのサーカス団のテントとは別の事務所のようなものが見えた。周りにはやっぱり団員さん達がたくさんいる。
1人のハンサムなハーフか外国から来たのだと見られる人が俺に気がつき、近づいて来た。
「どうしたんだい、そこの可愛いお嬢さん。迷子かな?」
やっぱり女の子に見られるよね。まあそんなことは今はどうでもいいの。
「いえ、その…愛長光夫さんに呼ばれて…」
「ミツーオ! 団長に呼ばれたのかい!? ああ、そう言えばさっき列に並んでる人達を楽しませに行った帰りに、『今から俺の大事な客人が来るので、来たら通してあげてください。とんでもない美少女なので来たらわかります』って言ってたけど君のことだったんだね! いいよ、案内しよう、こっちだよ」
俺はこの人に案内してもらうことになった。
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