第572話 遊園地デート (翔)

「わふ、着いたね!」

「ああ、着いたな」



 ついにやってきた遊園地。リルは俺の腕をずっと組んでいるが、心臓の鼓動が伝わってくる…ような気がする。

 俺としてもデパートから遊園地にデートの場所を変えただけだというのに、この胸が高鳴っている。

 なんでだろうな。

 やっぱり場所によって違うもんなのかな。彼女ができてから遊園地なんて初めてだしな。



「結局昨日はよく眠れなかったよ…」

「そうか?」

「わふ。ただでさえワクワクしてるのに、さらにショーから添い寝のお誘いだよ? 眠れないさ」



 いうて、割とぐっすり寝てたような気がするけどな俺もリルも。アナズムじゃ普段から添い寝してるし慣れちまってるんじゃねーだろーか。

 いや、未だにドキドキはするが眠れるようにはなってるってだけだな、お互い。



「じゃあ遊園地は厳しそうか?」

「……で、でも5時間はしっかり寝たから大丈夫だよ!」

「そうだな。じゃあ入るか」

「わふ」



 遊園地の入場料なんかは、大抵男が払うのがセオリーだ(叶君談)。無論、遊園地の入場料と1日フリーパスは俺が払う。いや、払おうとした。



「わふ、悪いよ!」



 まあ、案の定というかリルは遠慮してくるわな。



「こういうのは払わせてくれ」

「や、私ちゃんとお金あるよ!」

「そういう意味じゃないんだ」

「そういう意味……? はっ!」



 リルは気がついてくれたのか、カウンターにて一歩下がってくれた。こういうのはカッコつけたいものなんだ(叶君談)。無事に遊園地に入場できた。



「何から乗る、リル」

「な、何にしようかな? メリーさんのコーラランドなんてどうだろう!」

「メリーゴーランドか? いいぞ」



 リルのリクエスト通りにメリーゴーランドに乗った。

 もう16になる俺がメリーゴーランドに乗るのは恥ずかしい…が、それは1人で乗るときであって彼女連れだとそうでもないのは不思議だな。



「ショーは私にとっての王子様だから、白馬に乗ってよ」

「お、おう」



 リルにとっての王子様かぁ。たまにそう言われるが、なんか恥ずかしい。悪い気はしないがな。

 乗り終わったらリルは俺に興奮気味に話しかけてきた。満面の笑みが眩しい。



「わぁふぅ! たーのしかったよショーッ!」

「たーのしかったか、そうかそうか」



 リルにとっての初めての遊園地アトラクションは楽しめてもらったみてーだな。



「次はどうするんだ、リル」

「次はね_______________」



______

____

__



「カップル用のご飯美味しかったねっ」

「は、恥ずかしくなかったか?」

「少しね…っ」



 コーヒーカップを回しまくり、お化け屋敷を平然と通り抜け、空中ブランコに見つめ合いながら乗り、ジェットコースターでそんな怖くもないが叫んでみたり。

 ゴーカートでドライブ気分を味わった後に、フードコートで昼飯を食っていた。

 乗り物に乗ることを優先させたから少し遅めだが。



「でも見つめ合いながら飲むコーラは美味しかったよ」

「そうか」



 ああ、リルが本当嬉しそうな顔をしてる。



「わふん、幸せ」



 首をもたれさせ、甘えてくるように抱きついてきた。



「そうだな、俺もだ」

「私とのデート楽しい?」

「ああ、楽しいぞ」



 楽しいというより…一喜一憂しているリルを見ていると和むというか、可愛いというか。



「そっかそっか次は何に乗ろうか」

「バイキングなんてどうだ」

「聞いたことあるよ、お腹がウニョウニョってなるんだよね。乗ろう!」



_____

___

_



「もうこんな時間か」

 


 後少しで午後5時半。帰るのに1時間かかり、その最中でどこかで外食することも考えると、次に乗るアトラクションで最後だ。



「最後はやっぱり…」

「観覧車だろ?」

「わふー! ここの観覧車は特別長いらしいからね」



 有夢と美花も先週のデートでここに来た時にラストに観覧車に乗ったんだろうか。

 乗って中でいちゃついたんだろうな。

 ……次は俺たちの番か。



「ちょっと並んだけど乗れたね」

「ああ。上がって行くな」



 観覧車の一室内で隣同士に座りながら、後ろを向いて背景を見る。リルが外を見てる最中に、俺はリルの横顔を見た。夕焼けの光がいい具合に照らし、リルをまた普段とは違った雰囲気にしてくれる。

 ……俺はリルを抱きしめた。



「わふっ。……ショー、えへへ」

「リル…好きだ」

「私も。ずっと好きだよ」



 リルは抱きしめ返してくる。普段とは何も変わらない抱擁だが、深く顕著に、温もりを感じる。



「…いつのまにか天辺付近まで来てたね」

「ああ、そうだな」

「……ショー……」



 リルが目を瞑る。

 リルのしてほしいことを理解した俺は、キスをした。

 キスをした瞬間にリルが目を開け、目が合う結果に。


 そんなことは気にせずに、誰もいない空中の密室空間で、俺とリルは口や舌を合わせてやりとりをした。

 遊園地に来て正解だったな。

 ああ、正解だったとか言いようがない。


 

「……ふふ」



 唇を離す。夕焼けに照らされるリル。

 なんだかとても幻想的で、今にでも目の前から消えてしまいそうだ。

 そう感じるのは、リルが異世界の住人だからか、一度死なせてしまったからか。

 わからない、わからないがもう離さない。


 俺はリルを抱きしめた。

 



 

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