第552.5話 英雄と兎 -2-

「行ったわね」



 パラスナはアリムが見えなくなるまで手を振った。



「……ふぅ、アリムちゃんに頼んで大正解だったね、本当に」



 ウルトはこれまでを考えてしみじみとしている。



「一生忘れることなんてないわ。こんなものまでもらっちゃったし」



 二人はアリムからもらった機械を覗き込んだ。

 どう考えでもこの世界の技術では、まだ作ることができない装置。結婚式と二人の、二人が育んで行く家族の記録を残せる素晴らしい装置だ。



「これって、瞬時に写実を作ることができるんだよね」

「できるらしいわね」

「試しにパラスナを1枚、描いてみようかな」



 装置の右上のボタンを押し、映像画面から写真撮影画面へと切り替える。



「私を?」

「うん、ほら試しにね。……笑ってみてよ」



 アリムが構えていたような真似をして、ウルトは装置をパラスナの方に向ける。パラスナは恥ずかしがった。



「や、やめてよ。なんか恥ずかしいのよ」

「俺としては心から愛してるお嫁さんの写実が細いところなんだけど…」

「ふ…ふえっ!?」



 パラスナの顔が一瞬赤くなると同時に、にやけた。

 ウルトはその瞬間を逃さない。

 装置から一枚の紙が落ちてくる。



「うん、可愛い」

「ううう…」

「そんなむんずけないでよ。可愛い顔が変になっちゃうよ」

「ぐうう…!」



 頬をふくらませ目で文句を訴えかける、そんなウルトの前以外では絶対に見せない態度を取っているパラスナの頭を、ウルトは耳も含めて優しく撫でる。



「気持ちい…もっと撫でて」

「態度が豹変したね」

「だって撫でられるの好きなんだもん」

「知ってるよ」



 ウルトは要望通りにさらに頭を撫で続けた。

 パラスナは心を暖めらせながら、目を細め、身体を寄り添い擦り付け、喜んでいる。



「……このままキスしてよ」

「いいよ。新婚のノリだね」

「しっ…新婚じゃなくなってもキスはして欲しいから…」

「わかってるよ」


 

 二人は口を合わせた。

 夜伽ではないが為に、舌の交わりはなかったが、深いキスを。



「ふぅ、だめね私。こんな姿、私のことを慕ってくれている人達に見せられないわ」

「どおして?」

「ほら、クールだとかって思われてるもの。幻滅させちゃう」



 パラスナのおかしな心配に、ウルトは思わず微笑んだ。



「まあ見られることなんてないよ」

「わからないわ。突然外でウルトに抱きつきたくなるかも」

「もう俺達は夫婦なんだし、そうしてもおかしいだなんて思う人はいないよ」



 外で抱きつきたくなるなどという心配をする、現にウルトに抱きついてるパラスナはウルトの胸板に顔を埋めた。



「好き」

「知ってるよ」



 ウルトはポンポンと、自分の嫁の背中を撫でてやる。



「ああ、そうだ。アリムちゃんも言ってたけど、子供はどうしようか」

「子供ねぇ…私は…」



 少し考えてからパラスナは答えを出した。



「ウルトの好きなだけ…ね? 1人でも…3人でも…5人でも……10人でも!」


 

 指で数字を表しながら、パラスナは上目遣いでウルトに伝えた。真剣な表情で10人という数字を出したパラスナにウルトは微笑みながら。



「い、いやぁ…10人はいいかな」

「そう? 育てきれると思うけど」

「育てきれるよ、だけどパラスナきついと思うな。3人でいいよ、3人で」

「ウルトがそう言うなら」



 パラスナはあっさりと引き下がる。

 


「じ、じゃあウルト…その…いつ子供を作る? 私はいつでもいいわ」

「俺もいつでもいいよ」

「今から…………とか?」



 頬を真っ赤に染め上げながら、パラスナはそう言う。

 


「今から!?」

「わ、私たちもう22だし、子供いても普通でしょ? だから…」



 パラスナは再びウルトに抱きついた。ウルトは少し戸惑いながらもパラスナを抱きしめつつ答える。



「そうだね…もういいかもね」

「で、でしょ?」

「うん」



 ウルトはパラスナの目をじっと見つめた。



「な、何?」

「いや…今日は大丈夫かな、と」

「え? ああ…そう言うこと? …大丈夫よ」



 すでに赤くなってる頬、その範囲を広げつつ、ウルトの言ったことを理解したパラスナは返事を出した。

 ウルトは軽くガッツポーズをする。



「……まあ今はまだお昼だから、夜ね。ああ、そうだ。お昼ご飯作ろうか」

「ええ、そうしてくれる? それとも私が作ろうか?」

「じゃあ頼んじゃおうかな」

「うふふ、任せて」



 ベタついていた二人は離れ、パラスナは台所の奥へと消えた。しばらくして出来上がった料理とともに戻ってくる。



「はい、どうぞ」

「ありがとう。……美味しそうだね。ハート形か」

「そのハートは私のウルトへの想いよ。…大好き」

「うん、知ってるよ。俺も愛してる。……さ、食べようか」

「うんっ」

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