第544話 結婚式 -2
しばらくして、ついにクリスさんは口を開いた。
正直、その間が巧い。絶妙とはこのとこだろう。
「_____それでは……新郎ウルト・ラストマンよ。あなたは新婦パラスナ・ネルヴァンが病めるときも、健やかなる時も愛を持って、生涯支え合うことを誓いますか?」
このタイミング、このタイミングだ。
さぁ……!
「ハイ……はい、誓います!」
その言葉とともにウルトさんはラストマンから好青年の姿へと元に戻った。 すでに知っていた人たちはなにやら満足気な表情でそれを見つめている。
一方で他国から来た者や、もともとウルトさんらとは親しくなかったけど貴族であるから呼ばれたような人たちが、驚いたように騒然とするんだ。
『ずっと魔物がそのままなんらかの影響で人間になったと思ってた』『誰だあのイケメン』『あれがラストマンの中身ならば期待は裏切られてないな』などと思い思いの感想を述べている。
まあ、ウルトさんのお披露目はうまくいったみたいだ。
問題はパラスナさんの方。
まだ奴隷制が無くなってない国からも来てるからね。
どうなるやら。
「_____新婦パラスナ・ネルヴァン。あなたは新郎ウルト・ラストマンが病めるときも、健やかなる時も愛を持って、生涯支え合うことを誓いますか?」
「誓います」
パラスナさんが正体を表すのはこのタイミングではない。おそらく会場の誰しもを、ウェデイングドレスと持ち前の魅力で魅力しているだろうパラスナさんは誰にも一言も話させない美しさを誇っている。
ミカがウェデイングドレスの感想を俺に囁かないほどだ。
そんな彼女が『誓います』なんて言ったんだから会場はさらに静かになった。
「指輪の交換を」
静寂の中、声を響かせるクリスさん。
パラスナさんは手に持っていたブーケとはめていた手袋をギルマーズさんに預けた。
クリスさんはそれを確認し、ウルトさんに指輪を渡す。
2人は見つめあった。
一体2人にどんな過去があるんだろうか。
大まかなことは聞いている、聞いているけれども細かなことは聞いてない。
どんな思いでここに立ち、どんな苦労を乗り越えてやっと結ばれるんだろう。
苦しい時も辛い時も…悲しい時も嬉しい時も、それを共有し励ましあってきたんだろうか。
その重み、その真実は昨日の主人公である2人にしかわからない。
……しばらく時が流れたように感じ。
パラスナさんが紅く憂の含んだ目でベール越しに微笑むと、ウルトさんもつられて微笑み、左手をとった。
指輪をそっとはめる。
俺の演出がいいのか、2人の苦労が積み重なっているのが滲み出ているのか、この会場にはなんともいえない愛と形容すべきような空気が流れ始めた。
「それでは……誓いのキスを」
ついにキスに入る。
ちなみにさつまきから神秘的に見せるのと2人に注目させる以外の演出は全く施していない。
でも2人は美しくて。
……結婚式っていいもんだなぁ…なんて、自分でセッティングしておいて思っちゃったりして。
「うん」
「じゃあ」
2人は覚悟を決めたように同時に頷くと、ウルトさんがパラスナさんのベールを上げた。
その瞬間に変化するパラスナさんの身体。
白色の頭からは兎族特有の長い耳が出現し、お尻は丸い尻尾が出てきたのが若干わかる感じで膨らむ。
これにはやはり元々知っていた人以外、先ほどと同様に会場の誰しもが驚愕したようだ。
さっきと違うのはその驚愕の大きさなんだけれど。
(……愛してるよ)
(……私も愛してます)
数人にしか聞こえないようなそんな小声で互いに呟くと___________2人の唇は合わさった。
ディープキスではないから深いはずはないのに、濃厚で深みを感じる体感数分のキス。
その様子を確認したクリスさんは手を祈るように握りこんだ。
「神よ、ここに新たなる夫婦が誕生したことを認めよ__________」
と、それに加えまた数言だけ呟くと2人に1枚の紙と高価そうなペンを手渡した。結婚証明書だ。
ちゅうちょなく2人はそれにサインをすませる。
「聖歌斉唱」
2人から髪を受け取ったクリスさんが響くように客に声をかけた。この雰囲気にのまれていた来賓の人たちみんなが気がついたようにふらりと立ち上がる。
正体バラしに驚いていたのか、それともパラスナさんのウェデイングドレスに見惚れていたとかわからないけれど、心的に疲れてしまってるみたい。ここは失敗だったかも。
そして先ほどと同じように無事に聖歌を歌い終わる。
やっぱり俺には何を言ってるかわからなかったけれど、とりあえず歌った、がんばった。褒めて欲しい。
「それでは新郎新婦は退出を」
クリスさんの言葉と同時に、パラスナさんが若干飛びつくようにウルトさんと腕を組む。
その時、誰か1人が先だって拍手をした。
拍手の音頭を取った人物…それは国王様だった。静寂の中を打ち破り、心かから歓迎の拍手をする国王様につられて、周囲の者から拍手をし始め_____そうして結局は1人残らず大拍手へと。
そんな中、2人はバージンロードを幸せそうに突き進み、この部屋をあとにした。
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