第542話 結婚式本番直前

「そろそろ本番ですよ! 心の準備を!」



 俺は駆け込みながら控え室にいる2人に伝えた。



「そうか…もう本番か」

「なんだかドキドキするわね」



 この2人が緊張してるところって初めて見たような気がする。

 本当だったらこの準備期間に両家の挨拶などがあるんだけど、この2人は2人とも両親がいないからそれは省略してるんだ。

 


「先程まで何を話し合っていたんですか?」

「昔話をしてたのよ」

「そうそう、俺はパラスナのこんなこところがずっと好きだった…みたいな感じで」

「ちょっ……ウルトっ…」



 なるほど十二分にイチャイチャしてたみたいだ。

 新郎新婦はやはりこうでなくちゃね。



「でも実際、ずっと2人で頑張って来たから…この結婚に関しては『やっとできた』って感じかな」

「そうね」



 何回もちょびっとだけ聞いてる2人の馴れ初め話。

 苦労してるということは知ってるし、バッカスさんからパラスナさんはウルトさんの元奴隷で、ウルトさんがこの国から奴隷の概念を消したのはパラスナさんの為だったことも聞いた。



「だいぶアリムちゃんのおかげだけどね」

「そうそう。生き返らせてもらったし、 アリムちゃんが世間を賑わせてくれてるからそのぶん俺たちは休めるし」



 ああ、たしかに仕事を取っちゃってるフシはあるよなぁ。…でもこの2人にとってはそれでいいみたい。

 その代わり俺が忙しい……っていってもうまくスケジュール組めてるからそんなんでもないけど。



「だから結婚するまでこれたのはアリムちゃんの影響が大きいの」



 そう言われるとなんか照れる。

 俺とミカが付き合えたのも幻転地蔵のおかげであるというのも一緒かもしれない。

 この際だ、プロポーズの話でも聞くか。



「どっちからプロポーズしたんでしたっけ?」

「それは俺からだよ」

「へへぇ…どのように?」


  

 ウルトさんとパラスナさんは恥ずかしそうに顔を見合わせた。パラスナさんの赤い目がさらに赤くなってる気がする。



「デートをしてね。そのデートの終わり頃、この町の 最高の級料理店の一番いい席でプロポーズしたんだ」

「その日はね私達が初めて出会った記念日でもあったの。10年以上前のその日に私がウルトのところに来たってこと」



 そんな記念日にプロポーズかぁ。

 俺もミカにプロポーズするときはそうしようかな。

 この世界なら再開できた日、地球なら戻ってこれた日とかかなぁ。



「パラスナさんとウルトさんのデートですか。あんまり想像できませんね」



 少し本音を出してみる。

 実際この2人がイチャコラしてる場面なんて中々思い浮かばない。世間では有名な人の私生活って思い浮かばないものだよね。



「あら、プロポーズしてもらった日もだいぶイチャついてたのよ? 劇を見て、その最中にずっと頭を撫でてもらったり…キスシーンの間にキスしたりね。あの頃よく流行ってたのよ、キスシーン中のキス」

「ちっ…ちょっ…」



 長時間撫で続けたり、劇を観ている最中にキスをするとか俺とミカみたいなことをする。

 ショーから聞いたけどリルちゃんも頭撫でられるの好きなんだっけ。獣人の共通点なのかな、好きな人から頭を撫でてもらうのが大好きなのってさ。

 あ、ミカは獣人じゃないけどね。

 こんどローズで試してみてもいいかもしれない。



「いいですねぇ…」

「いいでしょ? それで家では耳を__________」

「そ、そこまでにしてくれよ…」



 恥ずかしそうに頬を掻くウルトさん。

 耳をどうしてるのか気になるけど、どうせショーみたいにリルちゃんの耳を優しくナデナデしてるんだと思うから深追いはしない。



「…….ってウルトがいうからここまでね」

「ほっ」

「心配しないで、一緒にお風呂入ったりしてるなんて言わないから」

「なああああああああっ!?」



 今度は赤面をするウルトさん。

 一緒にお風呂かぁ…やっぱりこれも誰でもやるのかな?

 カナタとサクラぐらいかな、これやってないの。あと王子達。



「こういう可愛いところもあるのよ、ウルトは」

「ですねぇ」

「……はぁ…」



 自分達がしていることをバラされてオドオドしてるのはおもしろい。どうせその先もしてるんだろうに……なんて考えるけど口にはしないぞ。



「とにかく、私とウルトはそれなりにイチャついてるわ」

「ははは…うん。とりあえずそういうことだよ」



 他人が仲睦まじくしている様を聞かされるのはなかなか歯がゆかったけどニヤニヤできたからそれでよし。

 おっ…そろそろ本格的に時間か。



「もう時間なのでボクはホールに戻りますね」

「ああ、そうだね! 色々とありがとう」

「お二人の晴れ舞台ですからね! 思い出の残るように!」

「ええ!」



 俺はこの部屋を去った。

 去る瞬間に、2人が強く強く互いを抱き締め合る姿がチラリとみえたんだ。

 本当に幸せそうだ。さぁて……俺も頑張らなきゃね。

 正確にはもう準備してあるから頑張ることないけれどさ。

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