第531話 誰も損しない

「それは良かった」



 スッと真顔に戻り、彼はそう言った。

 良かったとはどういう意味だろうか。

 俺の好きな人が女であり、まだ自分にも望みがあるとおもったのかな?



「どういう…」

「いやな、思い出したんだよ色々。どうやら余は直接アリムちゃんとミカちゃんを拝見できた喜びのあまり、大切な忘れていた。……まずは謝ろう」



 いやいや、こういう考え直すのってなんか人生経験が足そうな人とか自分の意思を貫いてる主人公みたいな人に説得されてするものでしょ?

 なんでこの人は一人で悟り開いてるんだろう。

 ラーマ国王…恐ろしい人だ。



「尚更わからないんですが…」

「ああ、いや…な。『ジ・アースを愛でる会』では時たまにアリムちゃんとミカちゃんに恋仲の相手が居るとしたら、それは誰か、またはどう圧力をかけるか話し合うのだがな」



 なにそれこわい、めっちゃこわい。

 さっきまでの雰囲気のラーマ国王も十分怖かったけど、その俺らのファンクラブのおかしな相談会も怖い。

 ……ショーとか俺らの屋敷から頻繁に出てくるところ見られたら殺されちゃうんじゃないだろうか。

 良かった、透明になる道具渡しといて。



「いやぁ…抜け駆けしたら余は国王をすることができなくなるところだった! はははは!」



 国王の座を追われるくらいすごいんですか、そうですか。…地球でもアイドルとかの大ファンが大暴動起こすこともあるしそれに近いのかな?

 いや、その対象がアナズム全人類に対して俺らだけだとしたらその力は計り知れない。

 アナズムの人達が俺らのことに対して暴動を起こしたら壊滅レベルで大変なことになりそうだね。



「それに、相手が男でなく…同性愛だったとしても、他人でなく…身近に居るミカちゃんならば文句の付け所がない。大満足だ。……しかし本当に愛し合っているのか?」



 つまりあれか、他の人に取られるぐらいなら二人でくっつちゃった方が良いってことか。

 そしたら丸く収まると。

 なんだかおかしなことになってきたぞ。

 この世界でも一応、同性愛は普通ではないことだったはず。それが正解とかもうおかしいんじゃないの?



「愛し合ってますよ!」



 ミカがそう言いながら、俺の顔に唇を近づけてくる。

 ……ミカも大胆だなぁ…でも遊園地でデートした時にかなりイチャついたし、この程度の人数しかいないなら恥ずかしくないのかも。

 俺はそれを受け入れ、唇と唇が合わさった。



「おっ……おお、おおおおおお!」



 嬉しいのか。そんなに嬉しいのか。



「おいハヌマーン! 帰ったら記念に塔を建てるぞ! 素晴らしいものを見た!」

「御意!」

「そ、それはやめてくださいっ」



 ラーマ国王はなんてこと言いだすんだ。

 それに無口だったハヌマーンさんもノリノリで返事しないでほしい。



「半分冗談だ! いや…見事にフラれたというのに素晴らしい気分だ!」



 半分冗談って……。

 半分は本当に建てるつもりだったのこの人?

 やばいよぉ…ファンが怖いよぉ…。



「ら、ラーマ国王…そろそろ時間で…」

「む、メフィラド国王。そうであったか」



 国王様が時計を見ながら助けてくれた。

 何か用事があるのだろうか、すんなりと受け入れてくれる。

 そういえば国王様って昨日メッセージで話した感じでは、この国とこれからも仲良くしたそうだったよね?

 俺らを呼び出したってことは機嫌をよくするためなのかもしれない。

 機嫌、良くしとくか。



「ラーマ国王!」



 俺は一旦、小声でミカに離れてるように言い、ラーマ国王にめっちゃ近づいた。高級な香料の匂いがする。



「な、なにかな?」

「…その、ぼくはミカを心から愛してるので断ってしまいましたが、気持ちは嬉しかったです! ありがとうございました!」



 上目遣いであざとくそう言いながら、『ありがとうございました』の時に両手でラーマ国王の片手をキュッと掴む。



「わ…わわ…わ…。ううん。……迷惑かけて悪かったな。そう言ってもらえるのは余も嬉しい。ではさらばだ」



 優しく微笑んでそういうと、身を翻らせてラーマ国王は国王様の元に近づいて行く。…赤い血が滴る花を抑えながら。



_____

___

_



「なんか大変なことになってたね」



 王二人とそれぞれの護衛二人が居なくなり、食堂から出てきた時にティールさんが声をかけてきた。



「あはは…もうちょっと節度をもって活動しないとダメですね。ああいうことになっちゃう」

「まあアリムちゃん達なら簡単に制圧できるだろうからこのままでも大丈夫じゃないかな」



 ティールさんが笑いながらそういう。

 この人も相も変わらずかっこいい顔してるなぁ。

 王族ってのはかっこよくなきゃダメなのかな。



「……で、二人は16になったら結婚するの? スキルの力でできるよね」



 ティールさんにはステータスがバレてる。

 つまり俺が男女変換を持ってることも知ってるわけで。

 ここは正直に答えることにした。



「はい、そのつもりですよ! ね、ミカ!」

「うんっ」



 ミカは嬉しそうに俺に抱きつく。



「ま、その時なったら国をあげて大々的にお祝いしなきゃね。それはそうとカルアと遊んでくでしょ?」

「ええ」

「あの子も自室で首を長くして待ってるよ」



 俺とミカはティールさんと別れ、カルアちゃんの部屋へと遊びに行ったの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る