第512話 遊園地デート -4

「えへへ…楽しかったね!」

「ねーっ!」



 遊びに遊んで、遊びまくって午後6時少し前になった。

 今日は元から6時くらいには遊園地を出て、お夕飯をどこかのお店で食べてから帰るつもりなんだ。

 俺の両親からも、美花の両親からも、午後7時過ぎぐらいに連絡さえくれれば午後10時半くらいまでは遊んでいいと言われてるんだけどね。


 あんまり遅いと、誘拐される可能性があるから。俺と美花は。

 自分の顔にとびっきりの自信があるわけじゃない(ないわけでもない)けれど、そう言う危険性を持っていると翔の親父さんから言われたことがあるから、ずっと注意しているの。



「やっぱりさ、最後は観覧車だよね」

「うんうん。じゃあ乗ろうか!」



 俺と美花は買い食いしていたアイスクリームの、そのコーンについていた巻き紙をゴミ箱に捨ててから、観覧車へと向かった。

 観覧車は結構混んでいたけれど、ここの遊園地の観覧車は大きくて、乗れてる時間が長くて…でも回転率がいいからすぐ乗れることで評判なんだ。

 だから10分と待たずに乗ることができたの。



「ふぅ…。昔もこうして2人っきりで観覧車乗ったっけ。この遊園地で」

「そうだね。まあこんな関係ではなかったけれど」



 乗り込んですぐに、美花と俺は向かいに合わせには座らずに隣同士で座りあって、そんな話をする。

 


「もうその頃には私、有夢のこと狂おしいほど大好きだったから……すごーく、ドキドキしてたなぁ…えへへ、もちろん今もだけどね!」

「そうだね。その頃にはこんなベタついたりするなんて思ってなかっただろうなぁ…」



 あの頃は俺達は…はっきり言ってどうだったんだろう。

 あの頃の俺達が今の俺達をみたらなんて言うんだろう。

 自分達の事だけど、よく分からない。


 ただ…ただ一つ言えるのは、今この目の前にいる……真隣にいる美花が、俺の他の何よりも大切だってこと。


 秋の終わり近くのこの時期に、珍しく夕日が出ていて、観覧車に乗ってる俺らを照らす。

 今日この日もまた、俺にとって、美花にとって、とてもとても大切な日になるんだろうね。忘れないんだろう。



「んね、もうそろそろ良いかな?」

「まあ、周りも似たようなカップルばかりだし良いんじゃない?」



 美花はさっきからうずうずしてたんだよ。



「だ、だよね、なら」



 したいことはわかる。俺だって____________



「有夢っ……大好きっ!!」



 美花は俺に、思いっきり体を預けるように抱きついてきた。されることはわかっていたから、同時に俺も、腰に手を回す。

 今日何度も腕に感じた柔らかい感覚が、今度は俺の胸に伝わる。

 サラサラで艶やかな黒髪の心地が腕や手首に触れる。

 シャンプーなのか、それとも香水をつけてきたのか分からないけれど優しくて良い匂いが鼻の中に香ってくる。

 

 愛おしくて、可愛くて、たまらないくて。

 この爆発しそうな恋愛感情を、本気で本人にぶつけたい。俺の腕の中に居る、二つの人生にわたって生涯、ずっと側にいてくれるといつも言ってくれるこの恋しい幼馴染に。全感情をぶつけたい。



「あゆむぅ…っ」



 美花は顔を上げ、憂の含んだ宝石と見間違えてしまうほど、吸い込まれそうなほど綺麗な目で俺を見つめる。

 どうやら美花も同じことを考えてるみたいだ。



「うん…ずっと今日我慢してたもんね」

「んっ!」



 俺と美花は口を開き__________その口を合わせた。

 それから水を弾くような音を立てながら、やり取りされる唾液と舌。

 もう既に何十回もしているこのディープキスという行為だけれど、ずっと過ごしてきたこの世界の、初めてのデートで、こんなこじんまりとした個室で、空中で、じっくりと、深く深く、深く________こんなに深くしたのは、初めてのディープキスした日と、体を交える行為中ぐらあかもしれない。



「はぁ…はぁ…まだ…まだだよね?」

「うんっ。丁度今…この観覧車のてっぺんきたところだからっ…」



 そう言うと、美花は首だけを動かして外を覗き込む。



「そっか…こんな高いところで私達、べったりしてるんだ」

「そうだよ」

「えへへ…なんだかこんな狭い個室に居るのに開放的だねっ。…もっと!」



 さらに激しく、体を押しつけて、唇と舌を押し付けてくる美花を俺は全身で受け止める。

 たまに目線をそらして外の様子を見る以外は、ずっと美花と目を合わせてる。

 永遠に、永久に、永続的にキスしてるんじゃないかって感覚に陥る。

 ______________幸せだ。



「ぷふぅ…! も、もうそろそろ地上につくねっ」

「ふっ…そ、そうか。じゃあもうしゃんとしないと」



 十分に幸せを交わわせた俺達は、身だしなみを整えて降りる準備をする。でも隣同士に座って手も握ったままだけどね。



「はい、ありがとうございました」



 スタッフのおじさんの声が聞こえ、この個室は破られた。俺と美花は手を繋いだままでそこから降り、観覧車を後にしたんだ。

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