第510話 遊園地デート -2

「ふう、怖かったね!」



 お化け屋敷から出てきて、美花は満面の笑みでそう言った。確かに怖かったけど、どうしても美花が怖がっていたようには見えない。



「でも有夢にぎゅって抱きついてたから大丈夫!」



 美花はあざとくそう言った。

 確かにお化け屋敷の中でずっと強く抱きつかれて気分は良かったけれども。

 俺あまりお化け屋敷得意じゃないから、真面目に怖かったんだ。

 美花はそれら全てを知った上で、お化け屋敷に俺を連れ込み、中で抱きついたんだから確信犯だよ。

 ちょっと意地悪しちゃおっかな。



「えっ……俺、美花から抱きつかれてないよ? ただ手を握ってただけじゃない」

「うそぉ、胸を強く押しつけてたのに!? ほんとに手を握ってただけ? 柔らかくなかった?」



 確かにすごく柔らかかったですね。

 顔だけじゃなくスタイルも天下一品の美花だもの。

 ……しかし、ここで素直に柔らかかったと答えたら嘘をついた意味がない。

 俺はさらなる追い討ちをかけることにした。



「ううん。そうだったら俺、もうちょっとにやけてると思うけど……」

「う、うそっ。私、有夢以外の人に抱きついたの!? やっ…やぁぁ」



 美花は目に涙を浮かべ始める。

 やばい、泣かせちゃった!

 そこまでするつもりなかったのに!?



「ご、ごめん! 嘘だよ。驚かせただけだよ。ち、ちゃんと美花は俺に抱きついてた」

「でしょうね。有夢が嘘ついてるのすぐ分かったもん。14年も一緒なんだからね!」



 ぐっ……じゃあさっきのは泣き真似だったのか。

 いつの間にそんなの覚えたんだろ。



「まあ、有夢が苦手なお化け屋敷にわざと入ったから、有夢が仕返ししてくるだろうなぁとは思ってたけど」

「ぐぬぬ…」



 完璧に手玉に取られてる。

 幼馴染というのはやはり、時として恐ろしい。

 ……まあ嬉しい方が多いんだけど。



「じゃ、そういうことだからジュース奢ってね!」

「どういうこと!?」

「有夢の読み負けー」



 そのあと、俺は一番近くにあった自販機で500mlペットボトルのオレンジジュースを1本、美花に買わされた。

 


「はいどうぞ」

「ありがと!」



 美花は喉が渇いてたのか、渡すなりすぐにペットボトルの蓋を開け、グビグビとオレンジジュースを口の中に入れてゆく。



「プハッ! はいどうぞ」



 目視で大体100mlくらい飲んだ頃だろうか、美花は俺にそのオレンジジュースを蓋を開けたまま差し出してきた。

 つまり、そういうことだろうね。んふふ。

 俺はそれを即座に受けとり、口をつけ、飲む。

 すごく甘い。オレンジジュースってこんなに甘ったるかったっけ。



「飲んだら私に頂戴?」

「…んっ」



 美花が口をつけ、俺が口をつけ重ねたそのペットボトルを、再び俺は美花に渡す。

 美花はそれにまた口をつけ、ある程度飲んだ。

 そのある程度飲んだところでまた俺に渡してきたから、残り少なくなってたこともあり、一気に飲み干したあと、それを近くのペットボトル用ゴミ箱に捨てる。

 これで……ディープな間接キスは完了。

 口の中がすごく甘い。



「今日はキスがしたりないから、代わりに間接キスで」

「すごく甘かった」

「えへへへへへ」



 美花は俺と腕を組み直す。

 俺と美花は次のアトラクションへと向かった。

 次に乗るのはジェットコースター。そう、さっき決めたんだ。

 7分ほど歩いて、この遊園地の1番の目玉であるジェットコースター乗り場に辿り着くも、人がずらりと並んでいたの。待ち時間は30分。

 


「どうする?」

「30分くらい余裕よ」

「だよね」



 そういうわけで、俺と美花はその長い列に並んだ。

 確かに俺と美花なら延々と会話が続くし、40分なんてあっという間かもしれない。

 だとしても30分って長いよね。

 日曜日だし仕方ないか。



「有夢、ジェットコースター乗ったら次にどうする?」

「お昼ご飯食べよっか、フードコートかどこかで」

「うんっ」



 とまあ、これから会話がどんどんとつながってくんだ。

 女子トークみたいだよね。でも残念だけど俺は男だよ。

 あっという間に俺達の番がやってくる。

 荷物をカウンターに預けてから、俺と美花はジェットコースターの真ん中らへんに隣同士で乗り込んだの。



<シートベルトを______>



 そう、アナウンスが聞こえてくるからシートベルトはしっかりと締める。次に肩らへんからバーが降りてくるから、それもしっかりと、外側の手で掴んだ。

 内側の方の手…いや腕は、美花の腕と絡ませる。



「ふぅ…はぁ…ドキドキする。私、有夢にもっと恋しちゃったかも」

「いや、ちょっと緊張してるだけでしょ」

「えへへ、そうだった。もともと有夢への好感度はカンストしてるから安心してね」

「ん」



 やばいかわいい。

 なんかドキドキしてきた。

 ……吊り橋効果とかそういうのに近いやつだろうか。

 いや違う、美花が可愛いんだ。



<それでは発車致します>



 そのナレーションが聞こえてきたと同時に、俺とミカは無意識により強く腕を組みあったんだ。

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