第499話 筋肉 (翔)

 叶君が地球とアナズムを交互に行き来する期間の提案をしてくれた。俺ら6人は今実際にその通りに過ごしてんだ。

 それにしても、今、俺はアナズムに居るんだが……2週間のうち4日が経つまでアリムは暇だとかなんとか言ってたんだぜ。

 だが最近は何かを真面目に取り組んでいるみてーだな。

 あいつが何かを本気を出してするだなんて、ゲームと身内に関すること以外で知らねー。

 やりがいがあることを見つけたんだろーな。


 かくいう俺とリルはなにをしているかというと…基本的に筋トレだ。(あとは…まあ色々したり…)


 最初の数日間は叶君がやり始めた、アナズムの世界の道具やらステータスやらをこれでもかと使ってチート行為をした、ぶっ通しの勉強会をしていた。

 これには全員参加したんだが……2日目だったか3日目だったかで高校卒業分…俺らの志望大学に受かるまでに必要な勉強を終えてしまったんだ。

 それっきりやらなくなった。

 はっきり言おう、アイテムはずるい。

 まあ、叶君もまだ勉強してるし、桜ちゃんはそれに付き合ってるみてーだけどな。



「ふっ……と」



 俺はアリムに作ってもらった『宝級以下なんでも作成機』を使って作り出した筋トレ器具から降りる。



「ショー、お疲れ様」



 首にタオルを巻いたリルが飲み物を差し出してくるから、ありがたく受け取った。



「筋トレは捗ってるね」

「おう。まあ趣味に近いからな。リルも昨日まで一緒にやってたよな? どうしてやらなくなったんだ?」



 初日は『一緒にやる!』と言って筋トレ器具で俺と一緒に汗水垂らしながら筋トレしていた。

 しかし、その初日、お風呂から出てきてからリルはだんだんと筋トレの量を減らしていったんだぜ。

 リルの性格からして、俺が辞めるまで一緒にやり続けるもんだとばっかり思ってたんだが。



「ああ! 筋トレを始めてから一緒にお風呂はいったり夜伽したりしなかったからね、理由を話してなかったよ」

「リ…リルが裸であることに何か関係があるのか?」

「うん、今見せるね」



 リルは自分の服に手をかけ、少し前までやっていたみたいに胸______までは見せずにその手は胸下までで止まった。

 そしてそれを片腕で支えながらズボンを少しだけ下げる。

 まあ、あれだ。

 リルのお腹が全面的に俺の目の前に広がったんだ。

 ……こうしてみると、胸とは別にこれも良い……いや、なんでもない。


 それにしても鍛えてたからか…いい身体してる。

 腹筋が綺麗な二つ割れだ。くびれもすらっとしてる。

 こういうちょっと鍛えてる感が出ている体型になりたい女の人にとってはまさに理想形態なのではないだろうか。

 うん、会ったばっかりの時のリルの死んでしまいそうなほどの不健康な身体から、よくここまで健康的にったもんだ。嬉しい。



「わふっ…み、見ての通りいい感じになったからやめたんだ。これ以上続けて身体中が筋肉バキバキになったら、ショー、私を抱いた時に心地が悪いんじゃないかと思ってね」

「いや…そんなことはないと思うが…」

「ショーがそう言ってくれたとしても、私自身が気にしてるからね。こんな私でもオシャレやプロポーションは良い方がいいのさ」



 リルも女の子だもんな、そりゃそうか。

 ていうか数日でここまで鍛えられるのも、アリムのアイテムの効果なんだろうな。



「ところでショー、胸も見るかい? ち、ちょっと恥ずかしいけれどショーになら喜んで胸を好きに……」

「いや、今はいいや」

「そうかい」 



 緊張のためにさっきまでピンと貼っていた耳が、今は何故か一気に茹でた菜っ葉の野菜のようにシナっいる。

 見るくらいのことはした方がよかったのだろうか?



「じ、じゃあお風呂これから入ろう! ショー汗だくだものね! …私も一緒に入って背中を流そうかな…」

「いや、いいよ」

「そうかい」



 リルは今度は残念そうな顔をした。

 少し断りすぎただろうか。

 一緒に風呂入るくらいだったら……いや、よく考えろ、あれはまだ1回しかしてない上に、その後決まって夜伽に移行するんだったはず。

 俺に今はそんなつもりないから……やっぱこのままだな。



「まあ、そういう気がないなら仕方ないね。最近そういうこと全然してなかったから誘ってみたんだけど」

「お、おう。気遣いありがとよ」



 俺は簡単にリルにお礼を言い、さっさと風呂に入ってしてしまった。

 それも烏の行水ってやつだから、さっさと風呂から上がる。



「わふー、やっぱりショーはいい筋肉だよね!」

「そうか?」



 風呂上がりにリルがそう言ってきた。

 リルは地球に来てから筋肉フェチになったようで、俺の筋肉に抱きついたり頬ずりしたり凹凸を指でなぞったりするのが好きなんだ。



「そうだよ! その逆三角形が素晴らしいよ! なのに見た目がスマートなところとか。抱きついていいかな?」

「まだ身体がしめってるからな、服が濡れるぞ」

「構わないさ!」


 

 言うなりリルは素早く俺に抱きついてくる。

 ……確かにリルの言った通りかもしれない。胸だけでなく他のところも、今の状態なら抱かれ心地がいいと言うか…。



「ところでショーはなんでこんなに筋肉を鍛えようと思ったんだい?」



 胸筋に顔をぶつけていたリルが、(意図せずだろうが)上目遣いでこちらを見てくる。



「あ、ああ。中学ん時に柔道始めてよ、勝手に身体が鍛えられてったんだが……まあ自己練の一環で筋トレ始めたら日常化しててハマった……っつーとことだな」

「な、なるほど!」



 納得したような表情を浮かべた後に、また俺の胸板へ顔から埋めた。

 ああ、そうだ。前から気になってたこと、この話の流れで話しちまうか。



「リル、柔道部で思い出したんだが、リルは部活入らないのか?」

「わふん? 部活かぁ…」

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