第491話 リルが学校へ -2 (翔)

 俺は若干頬を釣り上げながら教室の中に入る。

 側から見たらにやけててキモいと言われるかもしれないだろうがまあ、仕方ない。

 言うなれば俺は今日、みんなに自分の彼女を紹介し、リア充へと昇華するのだからな。



「おっす!」

「うっす!」



 まだ有夢と美花は来て居ない。

 まあリルを送るために早く出たから当たり前だがな。

 席に着いたと同時にこちらにやって来たのは、最近身長が180センチになった俺よりも5センチ高い、このクラス1の高身長、山上だ。

 こいつとはそれなりに仲がいい。



「なあ、来たんだろ? お前のとこにさ…ノルウェーからの留学生」

「ああ。まあ向こうは日本に永住する気らしいから、正確には転校生だけどな」



 そう答えると、山上は俺の隣の席に座って来た。

 ちなみにこいつの席はここではない。

 俺の隣の席は空席だ。……つまりリルが来る場所。



「どんな子なんだ? 聞いた話じゃ、日本語はペラペラで学業優秀。ここら地域一番の進学校であるウチに転校生として入学試験を受け、全部科目の9割越えし、特別奨学金を付与されたって話だが」

「その話…どこ情報?」

「佐奈田情報」



 ああ、それなら確実だな。

 佐奈田は噂を広めるのが早い上にその噂の正確性は100%。デマなんて全く流さない。

 一体どうやったらそんな確かな情報を得ることができるのか誰もわかっていないが……佐奈田なら確かだろ。



「どんな子って言われてもなぁ…」

「顔だろ、まず顔だろ。顔はどうなんだよ」

「一見クールかなぁ…って思いつつよく見たらアリちゃんと同列系」

「ほほぉ、つっことは可愛いんだな」

「まあな」



 驚けよぉ…リルは絶対この学校で(有夢を加えて)三番目に可愛いからな。男子どもの惚ける顔が眼に浮かぶようだぜ。



「なんでお前ニヤけてんの? えっ、翔がニヤけてるとこすっごい久しぶりに見た気がする。お前がニヤけるほど可愛いのか」

「まあな期待してろって」

「そうか。って…なんでお前がそんな得意げに言うんだ」



 いけないいけない。

 ふむ…俺も有夢と美花をみてどうしてそんなにいちゃつけるのか疑問に思ったことがあるが…本当に大切な人が出てくるとこうなるんだな。

 気をつけよう。



「あれか、ホームステイさせる特権ってやつか」

「ま、そんな感じか」

「うわぁあああぁいいなぁぁあああ。俺も女の子と一つ屋根の下で同居してみてぇよ」

「だからって変なことはできねーよ。親父の職業が職業だし、俺の性格もわかってんだろ」

「まあな…。無理に手ェ出したりなんてできないだろうけどな」



 もう合意の上で…一晩も二晩も、一線を超えてしまってることを黙っておくのは当たり前だよな。うん、うん。



「「おはよー!」」



 教室に大人気アイドルの有夢と美花が入ってきた。

 幼稚園から付き合いがあるこの俺ですら、あの二人が現れたときはそっちを向かざるをえない。

 


「おはよう! アリちゃん、美花ちゃん! 今日もラブラブねー」



 佐奈田がそう言う通り、また今日も有夢と美花は腕を組んでラブラブな登校してきたようだ。

 あのカップル曰く、あまりにも付き合い始めたのが有名になりすぎて、もはやくっつくのを何処でしても一緒なのだと。

 逆にくっついてないと『どうしたんですか!? 喧嘩でもしたんですか!?』って知らない人に訊かれるレベルらしい。ほんと大変だよなぁ。

 でもあの二人からは大変さが感じられないのがまたすごいところ。



「おはよ、サナちゃん」

「おはよう、佐奈田」

「二人はもちろん知ってると思うけど、今日は」

「大丈夫、しってるよー!」

「だよねー!」

「だって翔の家の前で一緒にお迎えしたし」



 教室が一瞬だけシーンとなった。

 有夢…言うなし。俺ってば、有夢や美花が俺の家に遊びにくることに対していろんな人から嫉妬されてるんだから。



「おま…羨ましいよな、何度聞いても」

「……何百回言ったかわからないが先に言っておく、有夢は男だし、美花は有夢の彼女だ」

「家に美少女が遊びにくるってだけで処罰ものでござるよ」



 残念なイケメンことイケザンが話に加わってきた。

 こいつこの喋りかたさえどうにかすれば他の美少女からはモテると思うんだが。



「ま、とにかく_____」

「おーい、みんな席につけー」



 担任の先生が入ってきた。

 


「む、いよいよか」



 山上はそう言いながら自分の席(俺の斜め前)に戻る。

 イケザンも山上の右隣の席へと戻っていった。



「えー、どうせ佐奈田や新聞から情報は入っていると思うが、今日はうちのクラスに"転校生"がやってきたぞ! それじゃあ…入りなさい」



 ガラガラと戸を開け、青白い髪と白い肌、碧い眼をした俺の自慢の彼女が教室に入ってきた。

 その凛とした佇まいはなんだか、様々な経験を積んできた熟年者のよう。かと言って決して老けて見えると言うわけでなく、ラノベの中から出てきたような美しさを持っている。

 …はっ! 俺は自分の彼女になんで感想を。

 とにかくあれか、リルははたから見たらああ見えるのか。結構大人っぽいな。



「えー! 今話題になってるね、新制度により第1号として、ノルウェーから日本にやってきたリル・フエンだ」



 そう言いながら先生は豪快に『リル・フエン』と黒板に書く。



「じゃあフエンさん、みんなに挨拶を」



 先生からそう言われると、リルは先生に軽く会釈してから自己紹介をし始めた。



「私はノルウェーから新しくできた制度を通じて日本にやってきました。リル・フエンと申します__________」

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