十七章 地球

第465話 ちょっとの帰還

 翌日の朝。

 それも朝ごはんを食べる前。

 俺はみんなが集まってる部屋の真ん中に、幻転地蔵様を置いた。



「じゃあリルちゃん…」

「わふん!」



 リルちゃんは地蔵様の頭に手を置き目を瞑る。

 これから転生ショップを開いて、他世界に行く権利とセーブ機能(仮)をリルちゃんは買うんだ。



「わふ。買ったよ!」



 一旦、地蔵様から手を離し、リルちゃんがはしゃぎ気味に報告をしてくる。



「じゃあ別世界に行く項目を選んで早速行こうか。リルちゃんが行ったらここにいる全員も一緒に行くことになるから」

「うん……!!」



 リルちゃんは俺に頷いてから、再び手を幻転地蔵様の頭へ置く。しばらくして俺たちの脳内にいつも通りのメッセージが。



【『地球』に移動します。

  しばらくお待ちください。



  … … … … …

  … … … …

  … … …

  … …

  …






 移動完了しました。

 目を開けてください。     】



 目を開ける。

 そこは俺の部屋の、地球での朝。

 まだ寝巻きなことからちゃんと前回からセーブされた通りにやってこれたみたいだ。

 とりあえずは、美花の顔を見たい。

 部屋のカーテンを開け隣家を覗いた。

 同時に美花の部屋のカーテンも開けられ、窓越しに目が合う。うん、やっぱり可愛いなぁ、美花は。


 美花が窓を開けたので、俺も窓を開ける。



「なんの問題もないみたいだね」

「うんっ!」



 なにを考えてるのか、とりあえず俺はキョロキョロと周囲を確認する。やましい事をしようとしてるわけではない。

 他人が誰も居ないことを確認すると、俺は唇を美花の方に持って行った。美花もそれに気がつき、身体をこちらに近づけてキスをして___________



「朝っぱらから熱いね。人のこと言えないけど」

「お姉ちゃん、あゆ兄ぃ…」

「「ふえっ!?」」



 隣の窓が開いており、俺と美花と同じように叶と桜ちゃんが窓から顔と身体を出している。

 どうやら弟たちに見られていたようだ。さっき確認した時は居なかったのに。


 もしかして思ってたよりキスをするまでの間か、キスをしてる間の時間が長かったのかな。

 恥ずい。

 恥ずいけど叶も桜ちゃんの頭をヨシヨシしてるし、桜ちゃんは顔を真っ赤にして嬉しそうに照れている。

 バカップル度は同等か……?



「まあいいや。とりあえず翔さんにも確認を」

「そだね」



 俺は首を引っ込めてスマホで翔に連絡。

 すぐに返信が来て、向こうもちゃんと来れてることを確認した。

 しかし、リルちゃんは居ないという。

 うーんでも、まだわからない。

 そんな翔と同居してるなんて上手い話があるわけないからね、俺たちのクラスに混じってるかもしれない。

 

 時計を見るともう5分経っていた。

 俺たち4人は少し慌て気味に、それぞれのリビングへと。



「あっ…有夢っ、叶っ! おはよう」

「ああ、おはようっ!」

「「おはよーっ」」



 お父さんとお母さんがすでに居た。

 なんだかとても嬉しそうだ。



「いや、良かった。次の日になったら夢だったとかなんてことになってるんじゃないかって怖かったんだよ、パパは」

「ママも。でもよかった。そんなことはなかったみたい」



 そうか、やっぱり俺達が帰って来たのは昨日のことになってるんだね。



「ところで一旦、またあの世界に行くって言ってたけど…本当に行ったの?」

「うん。3週間くらい」

「「ええっ!? 3週間!?」」



 お父さんとお母さんは声を揃えて驚いている。

 無理もない。



「本当に3週間も? だって貴方達が帰って来たのは昨日…」

「やっぱり時間軸が違うのだろうかね。それより難しい話は後にしよう。まずは朝ごはんを」



 テーブルの上にはすでに目玉焼きやトーストなどの朝ごはんが用意してある。



「えへへ…いやぁ、昨日有夢からあんなもの食べさせられちゃあ…ママの料理、上手に見えないかもしれないけど…」

「う、ううん! そんなことないよ!」



 やっぱりオムライスのハッシュドビーフソース添えで本気を出しすぎたか。お母さんが少しションボリしてる。



「まあでもいいの。ママはこれから当分、有夢に夕飯を作って貰うつもりだから」

「マジで?」

「マジよ。超高級料理店のような料理を自分の息子が作れるんだもの。それもパパッとね、苦労してる様子もなく。なら頼っちゃわないと」



 お母さんはそう言いながら微笑んだけど、どうやらこの話は本気のようだ。



「有夢は将来何になるんだ? もうそのアナズムとかいう世界では成功してるようだけど。こっちでは料理人かな?」

「んっ……」



 なるほど料理人か、それも悪くない。

 スキルの持ち込みでここまで料理が上手くなってるから、かなりずるい気がするけれど、それも選択肢としてはアリかなー。



「って、早く食べないと冷めるよ」

「ああ、そうだね」



 すでにテーブルの前に座っている叶のその促しに、俺ら3人も慌てて席につき、お母さんの作ってくれた朝食をたべた。



________

______

___



 朝食を食べ終えた後、顔を洗い歯を磨き、制服に着替えた。後もう少しで地球に帰って来てから1時間が経つ。

 今、俺はまだから顔を出し、美花と談笑してたところ。

 


「時間だね」



 俺と同じように窓から顔を出して桜ちゃんとお話をしていた叶が、自分の部屋の時計をちらりと見るとそう言った。



「ん。じゃあ戻るよ」



 俺はステータスを開き、アナズムに戻ることを選択。



【『アナズム』に移動します。

  しばらくお待ちください。



  … … … … …

  … … … …

  … … …

  … …

  …






 移動完了しました。

 目を開けてください。     】



 俺達は目を開ける。

 うん、1時間前までいたこの屋敷の風景だ。

 俺もミカも、カナタもサクラちゃんも、ショーも…リルちゃんもちゃんといる。



「よし、全員いるね。ねぇリルさん、リルさんはどういう___________」



 カナタが目を開けてすぐにリルちゃんにそう問うも、リルちゃんは。



「わふぅ…あふ…わ…わふふ」



 ショーの顔を見て、カナタのその質問に答えられくらいの大粒の涙を流し、しゃっくりあげていた。



「ど、どうしたんだ、リル!?」



 ショーがリルちゃんの肩を抱きしめ気味に掴み、そう訊いたんだけれどリルちゃんは少し首を振ってから。



「ショー! 大好きっ! 大好きぃっ……!!! 愛してるっ」



 そう叫びながら、強く、強く、まるでずっと好きだった人に長い時を経てやっと出会えたかのように、しっかりと抱きついた。

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