第427話 俺達、付き合ってるんです。

「翔君に彼女ができたのね! …そうだ、付き合うといえば。有夢と美花ちゃん、叶と桜ちゃんはどうなったの?」



 母さんがそう切り出してきた。

 いやにニヤニヤしてる。

 うん…再会したとかそれぐらいしかさっきは説明しなかったから、俺と美花が付き合ってるかどうか気になるところなんだろう。

 特に母さんは翔よりも俺達の仲の事を弄ってきたから。

 俺と美花は顔を互いに見合わせて。



「あ…あの。お…俺と…み、美花はですね。その…お付き合いさせて貰ってます!」

「ます…」



 これだもの。かみかみだよ。

 顔が火照る…耳が熱いっ…!

 戻れるってわかった時から、報告しなきゃいけない時が来るのはわかってたけど、こんなに早いとは思わなかったもん。



「まぁ…まぁまぁ、まぁ…!」



 お母さん、そしてお父さんは、それはもう嬉しそうにはにかんでいる。

 なお、美花の両親は微妙な顔をしていた。

 叶曰く、美花の両親は、俺が居ない間の2週間の美花の奇行を知っているのだとか。

 ちなみに母さんと父さんは、俺の部屋に美花が忍び込んでることまでは知らないらしい。

 というか、俺はもちろんのこと、両家共に美花が俺の部屋に忍び込んだとしても、何も言わないだろけど。

 いつものことだし。

 


「それで、叶達は?」



 ニヤニヤを絶やさないまま、母さんは叶の方を見た。

 叶は途端に耳まで顔を赤くした。

 側から見たら俺もあんな感じなんだろうね。

 しばらくして意を決したように叶はおじさんとおばさんの方を向き、唐突に、桜ちゃんの肩を抱き寄せ…。



「み…見ての通り、俺たちもお付き合いさせて貰ってますっ!」

「ま…ます…」



 果たして、抱き寄せる必要はあったのだろうか。

 そんな疑問を頭に浮かべるけど、叶はそういう事を、普通に(桜ちゃんだけに)やるやつだと思い返し、何も言わないで置くことにした。

 母さんと父さんのニヤニヤは止まらない。

 それどころか、曲木家の御二方まで…。

 はたまた『娘二人をよろしくお願いします』『ゲームばかりのダメ息子と厨二病の息子ですが、何卒…』なんて言い合ってるし……!



「それで、いつから付き合ってるの?」

「……聞いておこう」



 翔の親父さんとおばさんまで乗ってきちゃったよっ…!?

 翔もいつも通りニヤニヤしてるし、もーっ!

 えっ…えっとぉ…。



「俺と美花は…その、再会した時で…」

「俺と桜は、日常過程でそういうタイミングがあって…」



 うっ…恥ずかしいっ。

 チラリと美花の方を見る。

 美花は嬉しそうに…でも恥ずかしそうに可愛く、可愛くはにかんでいた。…可愛い。



「……さて、知りたいことは大体知れましたし、あとは息子に訊くとして。私達はこれでおいとましますかな」



 そう言いながら、親父さんは立ち上がる。

 それに続けておばさんも。

 そして、未だに笑みを絶やさない翔も。



「じゃあな、2組の夫婦、また明日な。…あ、お邪魔しました」



 そう言って、翔はぺこりと頭を下げた。

 それに続けて『お邪魔しました』とつぶやきながら、火野家の皆様は頭を下げると、玄関から出て行ってしまった。



「それじゃあ私達も…」

「あ、少し待って」



 美花のお父さんは、立ち上がろうとしていた美花の母さんを止める。

 それで何かを察したのか、『ああ』とひとこと呟くと大人しく座り直した。



「えっと…ちょっと、別の部屋で有夢君と叶君借りてお話ししてもいいかな?」



 一体、何を話すのだろう。

 美花パパのその提案に、うちの両親は顔を見合わせ、互いに頷く。



「いいよ。なら、こっちも美花ちゃんと桜ちゃんを」

「うん。じゃあ…上の部屋で話をしよう」



 頷く間も無く、腰を上げてリビングを出る二人に、俺と叶はただただついて行った。



________

_____

___




「話と言っても、簡単なものなんだけどね。まずは叶君」



 俺の部屋にて。

 かなり真剣な面持ちで、正座しながら、美花の両親は俺らをジッと見つめている。



「はい」

「……桜の目を治してくれたんだってね? それにずっと守ってくれてたんだよね、いつもみたいに」

「まあ…目は…桜の自力が大きいですし。ちゃんと守れてたかは不安ですが…」



 叶は恥ずかしげに頬をポリポリと掻く。

 そんな叶の空いてる方の手を、美花のお母さんは唐突に掴んだ。



「ありがとうっ…。本当にありがとう。目は…目はずっと治して上げたかったし…目のほとんど見えないあの子をずっと守ってくれて」

「えっ…あはは…いやー。その、当然ですよ。好きですもの」



 叶の『好きだ』という一言に、美花の両親は頬をほころばせた。



「うん…そうだね。ありがとう。あの子も叶君のことが大好きだから…。このままできればずっと仲良くしてやってほしい」

「勿論です」



 キリッとした顔で即答する叶。

 でも、ちょっとだけ恥ずかしさは残ってるみたいだ。



「次に……有夢君」

「は、はい」



 おおお…何言われるんだろ。

 俺の顔は緊張でガチガチに固まってるんじゃないだろうか。

 『こんな女装趣味な男に娘なんてやれるか』なんて言われたらどうしよう!

 本当のことだから反論できないよ。



「……本当に、美花でいいのかい?」

「えっ!?」



 美花のお父さんはとても申し訳なさせそうにそう言ってきた。

 美花でいいのかとはどういうことだろう。



「……美花は。正直言って、有夢君に執着しすぎてるんだ。…君が死んでしまった後の2週間のことは聞いたかな」

「あ、はい。既に周りから聞いてます。それでも、その…大好きです。美花がどんなんであろうと、俺は好きですから。絶対に変わりません」



 ……あ。

 な、なにこんなカッコつけたこと言ってるんだ俺は!

 確かに本心だけど…本心だけどっ!

 美花のお母さんは、叶の時と同じように俺の手を握る。



「あの子を、どうかよろしくね」

「はい、幸せにします」



 ま、まて、今の俺は本当になにを______



「はははははっ! 聞いた? 早く孫の顔が見れそうだね」

「そうねぇ! あ…っと話はここまでよ」

「いや、付き合わせて悪かったね」



 大笑いしながら二人は立ち上がる。

 俺と叶も慌てて立ち上がって、一緒に下の階におり、美花と桜ちゃんと合流。

 曲木の皆さんは、隣家に帰っていった。

 特に美花が、ものすごく嬉しそうな顔をしながら。


 

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